あなたは「良し悪し族」? それとも「好き嫌い族」? この違いが人生を左右する!

ビジネス

2019/5/6

『すべては「好き嫌い」から始まる 仕事を自由にする思考法』(楠木建/文藝春秋)

 人生や日々に意思決定はつきものだ。その際、あなたは良い・悪いで判断する「良し悪し族」か? それとも、好き・嫌いで判断する「好き嫌い族」だろうか?

 例えば「就職する」というとき、真っ先に思い浮かべる(た)のは「会社や待遇の良し悪し」か、それとも「会社や仕事内容の好き嫌い」か?

 あるいは、ネットである発言を読んだとき、まず「内容の良し悪し」が目について相手をジャッジしたくなるか、それとも「好きか嫌いか」で考え、そのいずれであるにせよ「発言するのはその人の自由」と思えるか、さて、どちらだろう。

 前者という方には、ぜひ、そして後者という人も改めて読んでみてほしいのが、『すべては「好き嫌い」から始まる 仕事を自由にする思考法』(楠木健/文藝春秋)だ。

 著者の楠木健氏(一橋大学教授で専門は競争戦略)は、タイトルからもわかるように、現役バリバリの好き嫌い族、族長(命名者特権)である。

 そして思考法としての「好き嫌い」を、自身の生き方の指針として実践し、企業の戦略考察モデルとしても指南する。本書は、その「好き嫌い思考法」の特長や利点を、一般の人向けに、仕事術・経営術・処世術として明かした一冊である。

●好き嫌い族の意思決定プロセスとは?

 良し悪しは、本来、社会的にコンセンサスがとれている普遍的な価値基準であり、人が法を犯さないため、また、社会的モラルに反さないために必要なものだ。

 一方の好き・嫌いは、個人やその集団としての企業が、自由に決めてかまわない意思決定の価値基準である。

 しかし著者によれば、本来、好き嫌いで判断して意思決定すべき局面においてまでも、良し悪し判断が跋扈し、そのため個人のキャリアや人生設計から経営戦略まで、うまくいかないことが多くなっているという。

 例えば冒頭の就職といった場合、好き嫌い族ならどう決めるのか。著者が本書で明かす、自身が大学教授職を目指した意思決定プロセスはこうだ。

 著者は学生時代より、「大きい組織に入りたくない」「一人で仕事したい」という好き嫌いがあったそうだ。

 大切なことは、この好き嫌いを「さらに抽象化してみること」だという。

 その結果、「人にコントロールされるのも、人をコントロールするのも嫌」「仕事で人とシリアスな利害関係を持ちたくない」「文章を書くのが好きで、人に伝えることも好き」などの、さらに詳細な自己適性のある職場環境が浮上してきたという。

●成長する人や企業の発想法は好き嫌い思考法にあり!

 ではこのように好き嫌いで決めたことで、どんなメリットがあるのか。それが「無努力主義でいられること」だという。

 もし自己適性がない仕事にもかかわらず、待遇の良し悪し等で決めてしまったら、実務ではかなりの努力が強いられることになる。好き嫌いで仕事を選んだ際にも、もちろん問題や乗り越えるべき壁にはぶつかる。しかしその場合でも、努力ではなく「凝る」という感覚の方が強いという。努力はつらく長続きはしないが、凝るのは楽しくいつまでもできる。ここに、その分野で成長できるか否かの大きな境目があるという。

「好き嫌い思考法」の効能は他にも様々にある。

 例えば企業戦略において、良し悪し思考の場合は「他社よりベターなものは何か」を追求するが、好き嫌い思考では「他者との違いはなにか、そのために何をしないか」を追求するという。本書には、ZARA、ユニクロ、無印良品、サイゼリヤ、アマゾンなど、成長企業の発想法がすべて後者であることなどにも言及し、好き嫌い思考のメリットを説いている。

 さらに、そのメリットは人間関係にも及び、リアルとヴァーチャルが混在する今だからこそ、「どういう人とつながらないようにするか(嫌うか)」はとても重要な意思決定だという。

 他にもバラエティに富んだテーマで好き嫌い思考の重要性を説く本書は、決して論文チックなトーンではない。むしろ、軽やかなエッセイであり、話題は「ブラック企業論」、「文春砲」や「不倫」、「ケーキ論」から「民主主義の未来」までと幅広い。ぜひ、本書で楽しみながら、マルチに活躍する好き嫌い思考法を学んでみてはいかがだろうか。

文=町田光