現代人の心の闇……ときに命を落としかねない「汚部屋」は、なぜ生まれてしまうのか?

マンガ

更新日:2019/12/10

『汚部屋掃除人が語る命が危ない部屋』(おがたちえ、みなみ/竹書房)

 2010年代に入った頃からだろうか、テレビや雑誌などのメディアで「汚部屋問題」がたびたび取り上げられるようになった。この「汚部屋」とは、文字通り汚い部屋のこと。しかし、生半可な汚さではない。床が見えないほどにモノが散乱し、ときには腰の高さまでゴミが積まれている。部屋には異臭が漂い、腐敗した食べ物やペットの死骸が放置されている。それはまさに地獄絵図。そこで暮らす住民は、一体どんな精神状態なのか。

『汚部屋掃除人が語る命が危ない部屋』(おがたちえ、みなみ/竹書房)は、そんな汚部屋の掃除人が見た現実をレポートした、実録ルポマンガだ。本書に登場するエピソードは、どれも衝撃的。これが現実なのか……と、にわかには信じがたいものもある。

 たとえば、汚部屋と聞いて、真っ先に思い浮かぶのが、ハエやゴキブリなどの害虫問題。エサとなるゴミがそこら中に散らばっている状態ならば、それなりに生息しているのだろうと思いきや、もはやそのレベルは段違い。中には、45Lのゴミ袋3つ分のゴキブリが生息していた部屋もあったという!

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 また、本書のタイトルにもあるように汚部屋は、「命が危ない部屋」でもある。これはそこに住む住民の命を指し示すと同時に、掃除人も危険にさらされていることを意味している。ネズミの糞を全身に浴びたことで痒みが三日三晩続いたり、部屋のなかでアシナガバチやヘビに遭遇したり……。さらには、室内に落ちていた注射針を踏んでしまった掃除人が、そのまま病気に感染し、死亡した例もあるそうだ。汚部屋の掃除で命を落とす。これはもう「掃除」ではなく、「闘い」といっても過言ではないだろう。

 このような汚部屋に住むのは、どんな人たちなのか。なんとなく、ズボラな中年男性を想像してしまうが、実は意外にもエリートが多い。ただし、彼らに共通するのは、地位に反して、持ち物が安物だらけという点。安物ばかりを揃えても精神的に満たされることはなく、それがまた買い物依存へと走らせる。その結果、気付けば部屋中がモノだらけに、という悪循環を生んでいるのかもしれない。

 本書を読んでいると、汚部屋というものは現代人の心の闇そのものかもしれないと思わされる。寂しい、哀しい、苦しい、満たされない、そんな負の感情で心が汚れてしまった結果が、「汚部屋」というカタチで表れてしまうのだろう。事実、中には、「死のうと思っていた」と告白する利用客もいるという。心の状態と部屋の乱れが直結している。ぼくらは普段そんなことを考えもしないが、汚部屋掃除人たちはそれを理解しているからこそ、今日もまた誰かを救うべく、クリーニングへと駆け回るのだろう。

 本書を読み終え、ふと部屋を見渡してみる。床に脱ぎ捨てられた衣服、デスク上に積み上げられた書類、シンクに残された洗い物……。あぁ、まさに締切に追われていて、余裕がないいまの自分を表しているようだ。これをそのまま放置していては大変なことになる。どんなに忙しくても、余裕がなくても、こまめに掃除をしよう。笑い事ではなく、真剣にそう思わされた。

文=五十嵐 大