「かわいい」ってなんだろう? 「かわいい」には法則がある? 科学的に考える「かわいい論」

社会

2019/7/24

『「かわいい」のちから 実験で探るその心理(DOJIN選書)』(入戸野宏/化学同人)

 言葉は時代とともに変化する。例えば、「かわいい」という言葉がそうだ。一昔前とは違い、若者から「かわいいオジサン、オバサン」などといわれたとしても、悪い気はしない。それどころか、うれしかったりする。「かわいい」はさまざまな物事に付けられる便利言葉になった。今では、日本のポップカルチャーの代表選手だ。

■「かわいい」と感じる見た目の特徴は7つ

「かわいい」は、ファッション、文化、建築、工学など多様な分野で言及されてきたが、『「かわいい」のちから 実験で探るその心理(DOJIN選書)』(入戸野宏/化学同人)は、はじめて実験心理学という科学の観点から大胆に切り込んでいる。

 本書によると、「かわいい」が心理学の文献に登場するのは、1943年。オーストリア生まれの動物行動学者コンラート・ローレンツの論文に見つけられる。ローレンツは、この中で「ベビースキーマ」という概念を提唱している。“より幼くかわいい”と感じられる物理的な特徴(刺激)によって、例えば親鳥がひなを養育するなどの本能的行動パターンで反応する 、というものだ。

 このとき、「かわいい」と感じる見た目は7つ示された。

1 ずんぐりした大きな顔 
2 顔に比べて大きく前に張り出した額・頭蓋骨 
3 顔の中央よりやや下に位置する大きな眼 
4 短くて太い四肢 
5 全体に丸みを帯びた体型 
6 やわらかい体表面 
7 丸みを持つぽっちゃりした頬

 そして、このメカニズムは人間にも適用される、とした。確かに、身近にあるかわいいキャラクターを思い出してみると、上記の条件を備えるものが多そうだ。

■「かわいい特徴」と「かわいいと思う感情」を区別する

 本書は、ベビースキーマを「かわいい」研究の出発点として、さらに深掘りしていく。著者は、日本語の「かわいい」の適用範囲はもっと広いと考える。

 多彩な科学的実験・検証データを読み解いていくうち、本書は、「かわいい」が2つの面をもつことに気付く。1つは、対象のかわいさを知覚・弁別させる特徴。もう1つは、「かわいい」という感情、である。「かわいい特徴」と「かわいいと思う感情」は区別して整理しなければ「かわいい」の本質は見えてこない、ということだ。

 考察を進め、示された「かわいい」感情の特徴。それは、例えば「ポジティブ」「脅威を感じない」「適度に覚醒 的」「対象に近づいて対象を見守りたいと思う接近動機づけを伴う」「長く見つめていられる」「一緒にいたい」などだ。

 本書は、世界で日本が「かわいい」文化を発展させた背景に、社会文化的要素(価値観としての「かわいい」)と、生物学的な基盤(感情としての「かわいい」)の二重構造がある、と指摘する。

 日本は、古来、かわいいものに注目する傾向があった。それは、平安時代の清少納言や紫式部など、多くの女流作家の作品が社会で認知されたことが裏付けとされる。さらにさかのぼれば、『土佐日記』にその傾向を見つけることもできる。紀貫之は男性でありながら、女性に託して“かわいい”仮名文字を使って、書を綴っているのだ。

「かわいい」は、もともと目下の人や弱者に対して使われる言葉だったが、近年、上下関係ではなく水平関係で、侮蔑の意図なく使われる言葉に変化してきた。本書は、この権威を感じさせない安心感こそ、現代の「かわいい」の最大の特徴だと述べる。誰かに押しつけられるものではなく、自発的に発見するからこそ、心から「かわいい」と思える。

 本書は、日本の将来に見え隠れする不安を、ポジティブで自由感あふれる「かわいい」が払拭してくれることを願っている。

文=ルートつつみ