妻が亡くなり娘も引きこもりに。追い詰められた中年男性を救ったのは「娘の友達」の女子高生で――!?

マンガ

公開日:2019/11/3

『娘の友達』(萩原あさ美/講談社)

 人は誰しも、良いところも悪いところも全部ひっくるめて、他者から愛されたい…と願う気持ちを持っていると思う。辛い時ならなおさら、自分の事を肯定的に受け入れてくれる人間は、涙が出るほど心の支えになる。しかし、その存在が、社会的な死に繋がる相手しかいなければ、一体どうするのが正解なのだろう。

 萩原あさ美さんの『娘の友達』(講談社)は、妻を亡くし、娘も引きこもり、周囲からも責められ続ける過酷な人生の最中、娘の友達である女子高生の古都(こと)に出会ったことで、憔悴していた心が救われたものの、抱いてはいけない感情に悩む中年男性の葛藤が描かれたマンガである。主人公の市川晃介は、妻が他界してもうすぐ1年の会社員。家庭では、母の死にショックを受け、不登校になった娘の世話や家事に追われている。また、会社では、課長への昇進が控えているものの、上からも下からも無理難題を押し付けられ、息苦しい毎日を過ごしていた。

 そんな晃介の唯一の息抜きは、会社近くの寂れた喫茶店で一服すること。ある日、いつものように喫茶店を訪れると、若くて美しいホンワカした雰囲気の女の子が新しく働いていた。後に、彼女こそが、晃介の娘・美也の小学校からの友達である古都だと判明するのだが、彼女は、なぜか「晃介の力になりたい」と強く願い出た。妻が亡くなって以来、仕事関係の人間だけでなく、親戚や娘、そして学校の教師たちからもことごとく責められ、動悸や嘔吐など、鬱病のような症状で苦しんでいた晃介。古都との出会いにより彼の人生は予期せぬ方向に動き出すのだが…!?

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 晃介は、これまで家庭でも仕事でも、心を抑圧して、模範的な人間として行動してきたのだが、娘の友達である古都に出会い、ようやく素直な感情が出せるようになる。古都は、絶妙なタイミングで晃介への慰めの言葉を吐く。度々励ましのLINEを送り、会社の後輩に責められた際は、「よく頑張りましたね」と頭を撫でる。「私にだけは甘えてください」と頭を抱きしめ、とうとう限界まで追い詰められ「逃げ出したい」と漏らした晃介を連れ、道を踏み外す行動にも出ようとする。

 本書は、恐ろしいことに古都の心理描写が一切描かれていないので、彼女が本心で何を考えているのかはわからない。また、晃介も社会性のある思慮深い人間なので、古都の存在に救われつつも、彼女の積極的な好意や予想を裏切る行動に怯えてもいる。

 物語は古都が登場しても尚、鬱屈とした雰囲気で充満しており、晃介の抱える問題の重さや社会的立場の苦労が垣間見える。…正しさや倫理観がいかなる場合も人を救うとは限らないし、他者に対する想いは、相手がどんな立場であろうと、簡単に止めることができないのが現実だ。だが、古都は娘の友達であり、女子高生。晃介が欲望のままひた走れば、それは社会的な死を意味するだろう。追い詰められた中年男性と、見た目は癒し系だが、魔物のような怖さを秘めている女子高生の行く末は、一体どうなってしまうのか。

 不穏な終わり方で幕を閉じた1巻。ぞっとしながらも、続きが今から楽しみで仕方がない。

文=さゆ