ライバルは自分!? 別人を装った自分に恋をした、毒舌無表情の冷血漢。嘘が嫌いな彼に真実を告げられる日はくるか……!?

マンガ

公開日:2019/12/26

『嘘つきアンビバレンス』(イスズ/白泉社)

 秘密と障害は、恋を燃えあがらせる二大要素だ。それをいかにじれったく説得力をもって描くかに、恋愛マンガのおもしろさはかかっている。その意味で『嘘つきアンビバレンス』(イスズ/白泉社)は設定と物語運びが絶妙だ。

 主人公は名門私立高校に通う天宮一花。成績優秀なのは、女手ひとつで育ててくれた母のためにいい大学・いい会社に入って楽させてあげたいから。くわえて、経済的な事情で特待生制度を利用しており、上位成績を保つことが制度の必須条件だから。しかしどんなに必死で努力しても、1位をかっさらっていくのはいつも、生徒会副会長の木崎司。毒舌無表情の冷血漢、しかしイケメンゆえどんなに冷徹な言葉を吐こうと女子からは大人気。1位・2位コンビゆえになにかと行動をともにすることが多いが、一花にとってはめざわりきわまりない存在である。

 家計を助けるため、禁止されているバイトにいそしむ一花の前に、客としてあらわれる木崎。実は誰よりまじめに人知れず努力を重ねている木崎と、自分のためだけでなく家族のためにやっぱり努力しつづけている一花。それぞれ意外な一面を知った2人は恋に落ち……とならないのがこのマンガのおもしろさ。とっさに偽名(二葉)を使った一花に「仕事しすぎ」と叱られた木崎は、その気風のよさに、別人と勘違いしたまま木崎は恋に落ちてしまうのである。しかも想いを隠そうとせず、一途にガンガン押してくる。一花は一花で、しとやかぶっている学内とはちがい、口の悪い本性をまるだしにしているにもかかわらず、優しい笑顔を向けてくる木崎にほだされ、だんだん惹かれていく。

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 冷静に考えれば「実は一花でした」と明かせばいいだけの話だ。それだけ恋している状態ならば、バイトの件も目をつむってくれるかもしれない(いや、融通がきかなそうな性格だからそれはどうか……悪いようにはしないだろうけれど)。なんにせよ、想いが通じあって学校生活もバラ色になるはずなのに、一花はなかなか言い出せない。なぜなら、木崎が何より「嘘」がきらいだから。

 苗字が同じことから一花と二葉は親戚だと勘違いした木崎。実際は、同一人物である一花に、二葉との恋を相談し始めてしまい、一花は「自分とうまくいくためにアドバイスする」というまさにアンビバレンスな状況に陥る。期せずして二重の嘘が発生したうえ、学校ではイイ子の仮面をかぶっていることもまた、ある意味嘘をついている状態といえなくもない。さてこの状況をどう解いてちゃんと“両想い”になるかが、本作の読みどころである。

 いい味を出しているのは、木崎のキャラ造形。「いくら偽名使われても同じ顔なんだから気づけよー」と思わないでもない読者の予想をさらに上をいく鈍感さ。1巻ですでに2度、一花が事実を告げているというのに、まったくもって気づかない。前途多難なふたりがどんなふうに関係を落着させていくのか、その道程を見守りたい。

文=立花もも