ハンパ者のアメリカ人吸血鬼と人間嫌いの日本人エンバーマー。羅川真里茂が描く2人の男の絆に、胸がしめつけられる……!

マンガ

公開日:2020/1/20

『吸血鬼と愉快な仲間たち』(羅川真里茂:著、木原音瀬:原作/白泉社)

 同性だろうと異性だろうと、愛おしいものは愛おしいのである。マンガ『吸血鬼と愉快な仲間たち』(白泉社)を読んでいると、ほとばしる想いの純粋さに胸がしめつけられる。木原音瀬さんの同名タイトルを原作に、羅川真里茂さんがコミカライズした本作は、ハンパ者のアメリカ人吸血鬼と人間嫌いの日本人エンバーマーの物語。ジャンルとしてはBLといえなくもないのだろうけれど、本当にいい物語は何にも括られないのだなあ、と痛感させられるほど、この作品に描かれているものは広く深い。

 21歳のある晩、女吸血鬼に血をすわれて死んだあげく、牙のない中途半端な吸血鬼となったアルベルト。昼はコウモリ、夜は人間の姿で、人間に噛みつくこともできないまま、ひっそり生き続けること8年。うっかりコウモリ姿で冷凍され、日本の精肉工場にやってきた彼を、なりゆき上しかたなく自宅に匿うことになったのが、エンバーマーの暁(あきら)だった。

 基本的に短気で、人と関わるのが苦手な暁は、アルを追い出しはしないものの、最初はひどくつらくあたる。けれど、家族からも友人からも拒絶され、社会から弾かれ、ただ生き延びることだけを考え生きてきたアルの孤独と苦しみ、そして少しでも前に進もうとするひたむきさに触れるうち、暁も少しずつほだされていく。ある無差別殺人に関わったのをきっかけに、信頼しあえる同居人としての絆が芽生えたのが1・2巻。12月に刊行された3・4巻では、その関係がまたぐっと深く進展する。

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 人と深く関わることをみずから避けて生きてきた暁の内側に、アルはつたない日本語とくったくのない心でずかずかと踏み込んでいく。それはときに暁を苛立たせるが、決して不快なものではなく、むしろ肉親の情愛を知らずに育った暁にとって、アルからまっすぐ向けられる愛情はひとつの救いでもあっただろう。3巻では、暁に想いを寄せる職場の後輩・室井が登場するが、その存在をおおらかに暁が受け止められないのはおそらく、室井が“見返り”を期待するからだ。つまりは、暁からの愛情を。もちろん、アルとて暁からの愛は求めている。だが、それ以上に大きいのは、この世のどこにも居場所のなかった自分を受けいれてくれた暁への感謝、そしてその優しさに報いたいと願う献身だ。暁に愛されたいのは、暁をより愛して、幸せにしたいから。その純粋さが伝わるからこそ、暁もアルを拒絶できないのである。

 無差別殺人と同様、3・4巻では、アルがとあるドラマのキャストにスカウトされたことで殺人事件に巻き込まれる。留置所から逃げ出した過去があるため、なるべく顔を知られないようにと心配する暁だが、おそらく5巻以降、このドラマをきっかけにアルを見つけるのは警察ではないだろう。アルの存在を知る人が増えれば増えるほど、彼の身に危険は及ぶ。だが、ドラマの仲間、暁の仕事仲間など、“友達”が増えるにつれて、アルのなかにさまざまな愛があふれ、暁はますます特別な存在になっていく。その幸せが少しでも長く続くようにと願いながら、いまは4巻の甘やかでこそばゆいラストに浸らずにいられない。

文=立花もも