ねむようこ最新作『神客万来!』1日1組限定の“人外”専門ホテルを舞台に新米客室係が大奮闘!

マンガ

公開日:2020/5/14

『神客万来!』(ねむようこ/芳文社)

 働きづめの神様たちが訪れる旅館。といえば思い出すのは『千と千尋の神隠し』だが、マンガ『神客万来!』(ねむようこ/芳文社)の舞台は、神様だけでなく、人間以外のあまねく存在を、1日1組限定でおもてなしする洋館ホテル。そうとは知らずに働き始めた新人客室係のみちるが、最初にお出迎えした相手こそ五穀豊穣の神様だったが、ドラゴンや赤ずきんちゃん、桃太郎といった誰もが知るおとぎ話のキャラクターたちも訪れて、物語は賑やかに展開していく。

 誰だって、ホテルを訪れるときは休息を求めている。営業用の仮面を外し、思いっきり素の自分をさらけだして、日頃の疲れを癒したい。それは神様でも、おとぎ話のキャラクターでも同じ。むしろいつも固定のイメージを背負わされている彼らこそ、つかのまの自由を望んでいる。

 たとえば神様は、清貧なお供えものに飽きているから、ここぞとばかりにジャンクフードを食べまくるし、イメージを守るためのオーガニックな洋服ではなく、着心地のいいあらゆるおしゃれ服を楽しみたい。最初は“人外専門ホテル”だなんて知らず、戦争を苦労して生き抜いてきた老人と思いこんだみちるは、彼のためにタピオカミルクティーを買いに走るのだが、その心遣いによろこぶ神様の姿をみると、たまには神棚にも仏壇にも、はやりものをそなえてみようかな、なんて気持ちにさせられる。

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 おそろしい強敵として扱われがちなドラゴンは、レディースプランで、かわいい癒しの時間をたっぷり堪能するし、赤ずきんちゃんはいつもフードをかぶってばかりの垢ぬけない自分を変えたくてビューティプランに申し込む。桃太郎は極度の方向音痴で、何か月も鬼ヶ島にたどりつけず、ぐるぐるさまよっている途中の立ち寄り。ふだんは隠している素顔を見せる彼らのために、みちるは本当に必要とされるおもてなしをしようと奔走する。

 勤め先が倒産して、住んでいた寮も失った彼女にとっては、住み込みで働けるこのホテルから追い出されてはならない、という切実さももちろんあるが、もともとがお人好しで、要領がいいとはいえないけれど、他人に垣根をつくらない素直さがあってこそ。しかし、その素直さゆえに、人外の存在と深く関わってしまった過去があり、このホテルに“呼ばれた”のも、お客様が“見える”のも、そのせいだということがわかってくる。

 自由奔放な女将に、その息子で料理人の瑞希。みちるの過去も見通す不思議な大女将など、ユニークなホテルの従業員たちとお客様をお出迎えするほのぼのコメディかと思いきや、みちるに少しずつ忍び寄る影にひやりとさせられるところで1巻は終わりを迎えており、今後どんな展開を見せるのか、はやくも2巻の発売が待ち遠しい。

文=立花もも