「〇〇しちゃダメ」をやめてみる! 小児科医が伝える子どもを尊重して「自己肯定感」をあげる子育て術

出産・子育て

公開日:2020/5/29

『小児科医が伝えるオンリーワンの花を咲かせる子育て』(松永正訓/文藝春秋)

「情報」がありすぎるとかえって混乱する…テレビやネットで様々な情報が錯綜した今回のコロナ騒ぎでそう実感した人も多いかもしれない。スマホで簡単に調べられるからこそ、気をつけたいのが情報の取りすぎ。特に病気のことなど調べがちだが、調べれば調べるほどかえって不安が募るということになりかねない。

 おそらく「妊娠・出産・子育て」も、気をつけないと情報過多になりがちな分野だろう。個人的にも覚えがあるが、慣れない育児はちょっとしたことが不安で、ついつい調べたくなるもの。だが気持ちを落ち着けるためには、かえって「ネットは見ない」など情報の取りすぎに注意したほうがいい。

 ベテラン小児科医の松永正訓先生も著書『小児科医が伝えるオンリーワンの花を咲かせる子育て』(文藝春秋)の中で「子育ては情報がたくさんあればいいというものではありません」と断言する。松永先生によれば、上手な子育てのコツは「大事な原則をシンプルに把握して家庭の状況にあわせて応用する」こと。情報が多すぎると「○○せねば」という目標ばかりが増加してしんどくなるので、たとえば発達面なら「0歳児は身長・体重・頭囲が成長曲線の帯のなかに入っていたらOK」くらいに思い切って目標を整理するといい。「大雑把過ぎる? でも本当にこれくらいで大丈夫」と大らかな松永先生だが、こうした言葉はかつて大学病院で約1800件の子どもたちの手術を手掛け、いまは発達障害児も多数診ている実績があるからこそ言えることだ。

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 大事なことは、こうした目標をおさえながら「夫婦間で子育ての方針が揃っていること/子どもに対して言うことが一貫していること/育児の原理・原則があること」というルールを守ること。特に「育児の原理・原則」として「子どもを尊重する」ことの大切さを強調する。子どもには生まれてきた時からすでに独立した人格があり、尊重されるべき人間性がある。それを自覚せず子どもを「親のもの」と捉えてしまうことが、様々な子育ての間違いにつながるというのだ。

 たとえば、子どもが小さいと何かと「ダメ!」「危ない!」と叱ってしまうもの。あらかじめリスクを回避させるのはよいことにも思えるが、別の見方をすれば「過保護」。むしろ本人が少しくらい痛い目にあったほうが本当の危険が身につくこともある。親がよかれとやったことでも「子どもを尊重することではなく、子どもに何かの行動を強いる」ことになりかねないというのだから注意したい(一方で命の危険があったり、他者を傷つけたりするといった「本当にダメなこと」は、きっちりダメ出しをすることも重要だ)。

 子どもを尊重することは自己肯定感につながり、ひいては様々な潜在能力を引き出していくという。ちなみに私自身の経験だが、子どもが5歳の頃、うっかり大事な器を落として割ってしまったことがあった。「何やってんの!」と言いたくなるのをぐっとこらえ、「大丈夫? 怪我しなかった?」と声をかけた…と、実はこんな小さなこと自分ではすっかり忘れていたのだが、数年経って「あのとき、怒らないで心配してくれたのがうれしかった」と言われて驚いたことがある。おかげで以後、皿洗いなどのお手伝いも恐れず前向きにやってくれるようになった。ほんの一瞬のできごとだが、振り返ってみれば子どもの「人間性」を頭ごなしに否定せずに済んだ(=尊重した)ということであり、それがお手伝い習慣や親子の信頼にもつながったのだから不思議なものだ。

 本書ではこうした心構えだけでなく、もちろん妊娠中から10歳児まで、育児における大事なポイントについてしっかりわかりやすく教えてくれる。特に病気や遺伝子の話、さらには「生まれた子に障害がある場合にはどうしたらいいか」といった一歩踏み込んだ話までしてくれるのは、経験豊富な小児科医ならではだろう。いろいろな情報にまみれがちになる時代だからこそ、本書のような「よりどころ」を持っておくと何かと心強いに違いない。

文=荒井理恵