主人公は50歳の新人看護師!? 現役看護師の漫画家、広田奈都美先生が描く訪問看護師の世界

マンガ

公開日:2020/8/19

『ナースのチカラ』(広田奈都美/秋田書店)

 2025年に超高齢化社会を迎える現代日本。高齢者増加に伴う医療費負担増を抑制するため、いま訪問看護制度の需要が高まっている。一見、国の負担を減らすだけの制度に思われがちだが、「自分の家で最期を迎えたい」「残り少ない時間を家族と過ごしたい」と考える高齢者は多い。訪問看護師は、そんな高齢者の生活に対する思いを尊重し「生きててよかった」と思えるよう最大限サポートするのが仕事だ。

『ナースのチカラ』(広田奈都美/秋田書店)は、そんな訪問看護の世界に足を踏み入れた一人の女性の物語。

 主人公の栗田幸代は、2人の子ども、夫、介護が必要な義母と暮らす専業主婦だ。幸代は家事・育児・義母の介護を1人でこなす毎日を過ごしてきたが、ある日、自分の存在が家庭内で軽んじられていることに気づく。決して誰もができる仕事ではないのに、なぜ自分はここまで……。幸代の気持ちはボロボロだった。

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 自分の尊厳を取り戻せる方法はないか悩む幸代。思いついたのは、看護師の資格を取得することだった。義母の介護に勤しむ自分を褒めてくれる訪問看護師、持田に憧れを抱いていた幸代は、47歳で看護師学校への入学。50歳の春に看護師の資格を取得し、新しい自分へのスタートを切る。

 しかし、幸代はすぐに訪問看護師としての道を歩めるわけではなかった。そもそも訪問看護は医師が常駐し器具が何でも揃う病棟看護とは違う。何でも1人で決断し行動できるスキルが要るのだ。そのため新卒の看護師は、4~5年ほど大きな病院で看護技術と知識を磨くものだ。

 幸代も面接先の師長に、1ヶ月の病棟勤務を命じられてしまう。そこで「訪問看護とは何か」「なぜ訪問看護を選んだのか」の答えを見つけてくるように、という課題とともに。

 1ヶ月の病棟勤務の結果、幸代が出した答えとは? 幸代は師長の課題をクリアし、訪問看護師として第一歩を踏み出せるのか?

 本作の著者、広田奈都美さんは漫画家であり現役看護師でもある。そのため、作中に描かれる訪問看護の世界、看護師たちのやり取り、幸代を悩ませるも1人の看護師として見てくれているいじわるナース・増岡の存在はリアルそのもの。

 特に、いじわるナース増岡の描かれ方は全国の看護師が共感できるはずだ。看護師とライターの二足の草鞋で働く僕も「確かにこんな人いるよね!」と共感してしまった。

 そして、死を直前に迎えた父親と息子の看取りまでを描いた数ページは、まさに訪問看護の世界を象徴するといっても過言ではない。きっと読む人の心に深く静かに響くはずだ。またそこに携わってきた訪問看護師の心情の描き方も現実味を帯びていて美しい。

 日本はすでに高齢化社会を迎え、医療や介護への取り組みには誰もが注目を集めている。それはおそらく、親がいる以上誰もが他人事ではないからだろう。

 まだまだ知られていないことが多い訪問看護の世界を、先んじて学んでおくことは決して損にはならない。ぜひ本書を読み、50歳の新人看護師幸代の奮闘ぶりとともに訪問看護のリアルに触れていただきたい。

文=トヤカン