「裏バイト」って知ってる? 手を出したら最後、そこには“地獄”が広がっている

マンガ

公開日:2020/8/11

裏バイト:逃亡禁止
『裏バイト:逃亡禁止』(田口翔太郎/小学館)

“高時給&高待遇な求人ほど「訳あり」”

 バイトあるあるとしてよく挙げられるほど有名な言葉だし、僕もそう思っている。それ相応に体を酷使させられるか、職場の対人関係が崩壊し精神的に追い込まれるか。何にしろ、高い報酬に見合った“対価”を支払うことが多いはずだ。

『裏バイト:逃亡禁止』(田口翔太郎/小学館)の主人公・黒嶺ユメと白浜和美も、大金欲しさにそんな訳ありバイトに手を出してしまう。ただ彼女達が応募したのは、リアルな世界で噂されるそれらとは、比べ物にならないくらい危険で訳ありな「裏バイト」だった。

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 物語は、ユメと和美がリゾートレストランのスタッフとして住み込みで働くシーンから始まる。一般的に住み込み系のアルバイトは時給が高く、場所によっては時給2,000円以上のところもある。ただユメ達の時給は、それをはるかに上回る15,000円。にも拘わらず、仕事はいたって普通のレストランのホール作業なのだ。

 気がかりなのは仕事だけなくの宿泊先もだった。2人は雇い主から「上階は妻が療養しているから」と立ち入り禁止を告げられる。しかし女性の声は一切聞こえてこない。和美にいたっては、アルバイト初日からずっと同じ森でさまよう不気味な夢を見るようになってしまう。次第に違和感と恐怖を覚え始める2人。ただ、時すでに遅しであった。

 ある日の夜中、和美は立ち入り禁止の部屋に侵入し、白骨死体を見つけてしまう。違和感の正体が判明し動揺する2人。そして物語はここから一気に恐怖の世界へと姿を変え、衝撃の結末を迎える。

 本作は大金が欲しいユメと和美が、様々な裏バイトに手を染めていく1話完結ものである。そう、彼女達は他の裏バイトにも手を出すのだ! 種類も夜勤の警備員や治験といった合法な案件から、不気味なアタッシュケースを運ぶといった限りなく黒に近いグレーな案件まで幅広い。普通ならリゾートレストランの一件で辟易するはずなのだが……。

 なぜ彼女達は、ここまで裏バイトに強気な姿勢でいられるのだろうか。それはユメが持つ「匂いで危険や恐怖を察知する」という特殊な能力にあった。現にユメは作中で、危険や恐怖が迫ると「くさい」とつぶやきだす。つまり彼女のつぶやきが身の危険を回避する合図になるのだ。何が起こるかわからない裏バイトの世界において、これほど頼もしい能力はないだろう。ただ僕達読み手側も注意しなければならない。なぜなら、ユメが「くさい」と言った時、それは恐怖の始まりだからだ。本作を読む際は心してページをめくってほしい。

 他にも注目すべき点がある。それはユメと和美が大金を欲する理由だ。

 1巻では残念ながらその真相は語られない。ただ、普通ならわざわざ命を懸ける裏バイトを選んでまで、大金を稼ごうとは思わないだろう。またユメも和美も、お互いに金を稼ぐ理由を聞こうとしない、ここにもどこか不自然さを感じてしまう。

 一体なぜ、ユメと和美は大金を稼ごうとしているのか。今後の展開とともに期待したいところだ。

 誰でも経験したことがある「バイト」をテーマに、恐怖を描いていく本書。身近な物がテーマだからこそ感じる恐怖をぜひ感じながら読んでいただきたい。

文=トヤカン