東京都心より西なのになぜ「東久留米市」? 地図帳の不思議をスッキリ解決する“妄想の旅”のススメ

社会

公開日:2020/9/6

『読んで旅する秘密の地図帳』(おもしろ地理学会:編/青春出版社)

 GoToキャンペーンといった誘い水があっても、遠出はおろか、近所への外出すら多かれ少なかれ気を遣わなければいけない昨今の風潮。満足に出かけられなくてウズウズしている人も多いかもしれないが、そんな人たちに今オススメしたいのが、地図を眺めながら“妄想の旅”を楽しむという選択肢だ。
 
 今や、ネット上で世界中のどこへでも飛べるようになったが、さらにその楽しみを拡げてくれるアシスト役として紹介したいのが『読んで旅する秘密の地図帳』(おもしろ地理学会:編/青春出版社)。世界各国の土地にまつわる、さまざまな疑問に応えてくれる頼もしい1冊だ。

コーヒー豆に「山の名前」が使われている理由

 世界には名だたる山々が多々あるが、身近なところでもその名前を聞く機会は結構ある。それは、コーヒー豆の品種。「ブルー・マウンテン」は有名なもののひとつで、日本語で訳すとその名の通り「青い山」だが、中米のジャマイカに実在する山の名前が用いられている。

 他にも、アフリカ大陸最高峰の「キリマンジャロ」などもよく聞くが、そもそもなぜコーヒーに山の名前が付けられているのか、その理由を本書は解説してくれる。

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 じつは、コーヒー豆の品質や特徴には山の標高が関係している。寒暖の差が大きく湿度が高い土地であるほどいい味わいが出るため、霧が頻繁に発生する山間地はコーヒー栽培にまさにうってつけの土地というわけだ。なお、現地産のコーヒー豆はごく少量であることが多く、日本で飲める機会は大変貴重だという。

世界的な秘境・タスマニア島の成り立ち

 オーストラリア東南端に位置するタスマニア島は、世界有数の秘境として知られる土地だ。世界的にも珍しい動物たちの生息地としても有名で、ウォンバットやハリモグラ、世界最大の肉食有袋獣とされるタスマニア・デビルや、もっとも原始的な哺乳類といわれるプラティパスなどが棲んでいる。

 しかし、なぜタスマニア島はいまだ多くの自然を残しているのか。本書によれば、氷河期からの長きにわたる歴史がその土地の特徴を形成したのだという。

 一説によると、いまから3万7000万年前の氷河期時代には、タスマニア島の北部とオーストラリア大陸の南端は繋がっていた。そして、その時期にオーストラリア大陸と島を繋ぐ“氷の橋”を渡ってやってきたのが、今なお棲み続ける生物たちで、やがて温暖化によりそれぞれの島が切り離されたために、特有の種が生き延びたと考えられている。

都心よりも西側なのになぜ「東◯◯市」?

 身近な東京の一部でも、地図帳をよくよくみるとヘンテコな地名がいくつかある。東久留米市や東村山市、東大和市は、東京を見渡せば23区より西側に位置するのだが、西東京市のようになぜ「西」と付いていないのか疑問に思ったことはないだろうか?

 しかし、これにはきちんとした理由がある。本書によれば、それぞれの名前は「別の土地を基準にしている」という。

 例えば、東久留米市はかつては久留米町と呼ばれ、昭和45年の市昇格に伴い「久留米市」とする予定だった。ところが、同名の市がすでに福岡県にあったため、そこを基準にして、なおかつ当時すでにあった西武池袋線の駅名・東久留米を市名に使うことにした。

 また、東村山市はかつて「村山郷」と呼ばれる場所の東部にあったことから、その名前が付いた。そして、東大和市は東久留米市と同様に、大和町からの市昇格のタイミングですでに神奈川県で同名の市があったことから、現在の地名となった。

 さて、どんなものにも背景や興味深いエピソードがあるものだが、世界中の土地にまつわる雑学を紹介した本書は、次から次へと読み進めてしまう1冊である。自由な外出ができない今、ぜひこの本と地図を片手に“妄想トリップ”を楽しんでもらいたい。

文=カネコシュウヘイ