悪い子どもにバツを与える。「黒いサンタ」を働かせる、ブラック企業コメディがおもしろい!

マンガ

公開日:2020/12/18

ブラックナイトパレード
『ブラックナイトパレード』(中村光/集英社)

 悪い子のもとを訪れる、「黒いサンタクロース」を知っているだろうか? これはドイツを中心に広まっている伝承で、黒いサンタは石炭をプレゼントしたり、部屋中に臓物をぶちまけたりして、悪い子たちにお仕置きをするのだという。日本では「サンタ=プレゼントを配るやさしいおじさん」とのイメージが強いため、なかなか強烈な伝承だ。

 そんな黒いサンタをモチーフにしているのが、『ブラックナイトパレード』(中村光/集英社)である。クリスマスを前にしたこの時期、ぜひ読んでもらいたいマンガだ。

 主人公の日野三春(ひの・みはる)は、大学受験と就活に失敗し、コンビニバイトで食いつないでいる青年。とても善良な市民だが、どこか要領が悪く損をしてばかり。バイト先の後輩には舐められ、無実の罪をなすりつけられてしまうこともあるほどだ。

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 しかし、あることをきっかけに、三春の日常は一変する。それは北極にある「サンタクロースの会社」にスカウトされたこと。社長を務めるのは、両手首を鎖につながれ、顔がない怪しいモンスターのような風貌の人物。けれど、とても紳士的な口調の持ち主で、三春に社員として働くことを提案する。曰く、月給は手取りで30万円。残業代、ボーナス、昇給アリ。しかも3食付きの寮も用意されている。思いがけぬ好条件に誘惑されてしまった三春は、そのまま就職することを決意する。

ブラックナイトパレード

 そこでの業務は意外なものだった。三春に課せられたのは、黒いサンタとして「悪い子たちにバツを与える役割」。とはいえ、本作で描かれる「バツ」は、ただ単に子どもたちを酷い目に遭わせるというようなものではない。たとえば、カンニングをしている男の子には「ピンクのゲーム機」をプレゼントする。欲しかったゲーム機は手に入ったけれど、求めていた色合いではない。一瞬喜ばせて、後にがっかりさせる。これが悪い子たちへのお仕置きなのだ。三春はその「がっかりするプレゼント」を選別する役目を担うようになっていく。

ブラックナイトパレード

ブラックナイトパレード

 作者の中村さんは『聖☆おにいさん』で知られる人気マンガ家。本作も「黒いサンタ」という伝承と現代のブラック企業をうまく組み合わせたコメディになっており、やはり神話や宗教と現代をミックスさせるテクニックの見事さに唸らせられる。

 ただし、読み進めていくと、本作がただのコメディではないことが少しずつ明らかになっていく。随所に謎がちりばめられていて、物語に大きなうねりを見せ始めるのだ。なかでも一番の読みどころは、三春の生い立ちと潜在的な才能にまつわるエピソードだろう。

 本作では「赤いサンタ」がなにやら特別視されている。それになれるのは、限られたごく一部の人間だけ。どうやら選ばれし者だけが赤いサンタになれるらしい。そして要領が悪く、とても平凡な人間として描かれていた三春に、実は赤いサンタの素質があるという。それは何故か。亡くなった三春の父親が、赤いサンタだったからだ。その血を引く三春自身に素質が備わっているのも納得だろう。

 さらに第5巻では、そんな父親がまだ生きていることが明かされる。いや、正確には一度死んだものの……。ここから先は本編で確かめてもらいたい。

 第5巻で怒涛の展開を迎えた『ブラックナイトパレード』。続く第6巻では、より一層、物語が複雑に交錯していく。また、主人公の三春だけではなく、同僚である志乃(しの)、鉄平(てっぺい)、皇帝(カイザー)ら個性的な面々も重要な役割を果たす。彼ら一人ひとりのエピソードからも目が離せないはずだ。

 黒いサンタになった三春の運命は、このままどうなってしまうのか。今年はおこもり時間も増えたことだし、クリスマスの夜にはぜひ本作を読んでもらいたい。

文=五十嵐 大

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