明日食べる米がないほどの貧困、それでも不幸ではない!? 貧困のリアルを伝える注目のコミックエッセイ

マンガ

公開日:2021/4/13

明日食べる米がない!~親が離婚したら、お金どころか、なーんにもなくなりました!!~
『明日食べる米がない!~親が離婚したら、お金どころか、なーんにもなくなりました!!~』(やまぐちみづほ/KADOKAWA)

 社会問題にもなっている貧困。この言葉を聞くだけで悲惨さを感じる人もいるのではないだろうか。だが、「貧困=不幸」と第三者が勝手に結び付けていいとは限らない。

『明日食べる米がない!~親が離婚したら、お金どころか、なーんにもなくなりました!!~』(KADOKAWA)の著者・やまぐちみづほさんは、5歳で両親が離婚した。その後母子家庭となり、お米すらなかなか食べられない生活が始まる。これだけ読むと悲壮感を抱く人もいるかもしれないが、絵のタッチは愛らしく、貧困のリアルをしっかりと伝えながらも、読者の同情をひこうとはしていない。

 母は仕事を掛け持ち、土日も出勤する。やまぐちさんの食べるものはコンビニ弁当が多い。子どもながら体に良くないものを食べていると感じながらも、こう思う。

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“でも食べるものがあるだけありがたいよね…”

 素直に現実を受け止め、貧しさを学校でクラスメイトに馬鹿にされたときは、年齢に見合わないほどの「大人の対応」をする。いわば通常より精神面での成長を早めることを求められた結果なのだが、同時期に彼女は人のやさしさにも触れることとなる。

 やまぐちさんの母はスピリチュアルが好きで書類の管理が苦手、そして非常にマイペースだ。中盤では家賃滞納、電気とガスが止められるといった事態も起こる。この時点でまだやまぐちさんは就労可能な年齢にも至っていない。中学生になると、友達と遊ぶときに多少のお金が必要になることも多い。それがないことで、誰かと遊ぶこともままならなくなってしまった。

 中学校生活が終わりに近づくと、彼女はひとつの希望を手放すことになる。美術高校への進学だ。経済的な理由で不可能だった。

 辛い思いをしながらも、自宅からすぐに通える公立高校を専願で受け合格したとき、やまぐちさんは心から喜ぶ。悔しさ、怒りだけではなく、喜びもしっかりと描かれているのが本作の特徴だ。諦めないといけないことがあっても、人生はそこで終わりではない。

 高校ではアルバイトを始めるが、ストレスに耐え切れず辞め、学業に専念する。人見知りな性格から、高校では「ぼっち生活」を送ることになる。

 やがて時が経ち、次の進路を選ぶ時が来る。ここでぶつかるのもお金の問題だ。大学に進学したいがお金が足りず難しい。学校の先生には教育ローンを勧められるが、母に相談してもはぐらかされる。子どもの頃からの夢だった絵の仕事をしたいと先生に相談すると夢を見過ぎていると叱られた。

 彼女は決意する。

“私 浪人します
アルバイトしながら 勉強して
自分のお金で 大学に行きます”

 彼女はまだ若い。だが、将来について地に足をつけ、しっかりと考えているのだ。

 高校生活の終盤に描いたエッセイ漫画の受賞、アルバイトしながら浪人することの苦しさからニートに、母の病気による仕事探し、美術系のアルバイトや職業訓練など、その後も人生はめまぐるしく動く。

 現在はフルタイムでデータ入力のアルバイトをしながらひたすら漫画を描き、今までの自分、そして今の自分を受け入れられるようになった。そして彼女にはひとつの目標ができた。

“一人暮らしがしたい! この家を出て自立するんだ”

 その前向きさは中身のないものではなく、壮絶な貧困の経験からくるものだ。だからこそ本書は、読者に希望を与える内容になっている。

 貧しいと断念しないといけないこともある。だが、思いもしないところに道はあるはずだ。次回作にも期待が高まる。

文=若林理央

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