熱々ジューシーな餃子の連続にヨダレが止まらない! とある餃子専門店を描いた『夜凪さんのよなよな餃子』

マンガ

公開日:2021/8/20

夜凪さんのよなよな餃子
『夜凪さんのよなよな餃子』(勘米良優助/芳文社)

 餃子。それは私たちの食卓に身近な存在でありながら、なかなかそれ単体でフォーカスされにくい食べ物かもしれない。家で作るのは少し手間がかかるし、ラーメンのサイドメニューとして頼むときに食べるようなイメージという人もいるだろう。いずれにしても、多くの人の頭に浮かぶ餃子は、肉や野菜の餡を皮で包んだ半円形のあのオーソドックスな形のものではないだろうか。

『夜凪さんのよなよな餃子』(勘米良優助/芳文社)は、そんな餃子の一般的なイメージを大きく覆す作品である。舞台は、店長・夜凪さんが営む小さな餃子専門店。そこを訪れるお客さんと彼女が作る餃子がメインに描かれるグルメ漫画だ。

 第一話では、仕事を断れずに上司に押し付けられがちな上に、実家から結婚や孫の催促をされて心身ともに疲れ切ったOL・西真白が偶然お店を見つけるところから始まる。連日作り置きのカレーばかり食べていた彼女にとって、餃子はとても魅力的に映り、終電ギリギリで帰宅途中の疲労困憊な状態で店に入る。

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夜凪さんのよなよな餃子

 ちょっとした憩いを求めて入ったはずが、そこにいるのはボソボソと喋る何やら顔の圧がすごい店長が一人のみ。店選びをミスったかと落ち込みつつ、つい仕事の愚痴をつぶやいてしまった彼女に、店長の夜凪は黙って調理を始める。そして出てきたのは「会社をぶっ壊す餃子」だった。

夜凪さんのよなよな餃子

 何種類かの高さのある餃子をビルの夜景に見立てて皿に盛った独創的な一皿で、店長は「それを一思いにザクっと食べちゃいましょう」と言う。そこに盛られた餃子は、ブロッコリーと卵の餡を包んだものや、皮からタコの足がにょきっと伸びているもの、上にいくらがたっぷりとのっているものなど、見たこともない珍しい形ばかりだ。

夜凪さんのよなよな餃子

 そんな餃子を食べながら、真白は「餃子って形も中身もけっこう自由だな」と気づき、同時に自分を縛っていた常識からも解放されたような気分になる。

夜凪さんのよなよな餃子

 作品に出てくる餃子は、どれもこういった変わり種のものばかりだ。餃子専門店として、夜凪が新メニューの試作を考える回などもある。そして、豪勢な餃子もあれば、キャベツの芯などいつもなら捨ててしまうようなものを再利用したり、納豆とご飯を包んだりと、なんだか家でも真似できそうなメニューも多く登場する。読んでいると、食べたくなるだけではなく、作りたくもなってくる漫画である。

 また、出てくる登場人物たちのキャラクターがみんないいところもポイント。店長の夜凪さんは、ちょっとシャイでコミュニケーションが下手なタイプだが、黙々と餃子を作る職人気質なところはとても格好いいし、時折出る自然な笑顔はとても可愛らしく、素敵な二面性をもった女性だ。続々と訪れる客たちも、みな異なるバックグラウンドを抱えていて、彼女の餃子に救われていく。

 多種多様な餃子は餡の中身を見るだけでも、なんだか楽しくて心が躍る。そうか、餃子ってこんなに楽しくて面白い料理だったのか、と気づかされる作品だ。

文=園田もなか

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