昭和の頑固オヤジと家事が得意な魔性のゲイが同居生活!? 65歳×53歳BL開幕『銀次と桃田』

マンガ

公開日:2022/1/28

銀次と桃田
『銀次と桃田』(柳沢ゆきお/主婦の友インフォス)

 ドラマ化や映画化によりお茶の間でも観れるようになるなど、BL作品は次第に世間に広く受け入れられるようになってきた。それはSNSの普及などによってセクシャルマイノリティに対する理解が少しずつ広がってきていることと無関係ではないだろう。

 とはいうものの、それはネットをよく使う世代の、その中でもさらに一部の人たちの話であって、偏見や差別意識を持っている人たちはまだまだ多い。私自身、周りの親世代(50~60代)の人たちの心ないひと言に傷ついたことは何度もある。

 そんな、セクシャルマイノリティに対する偏見や差別意識を持った男性が主人公の『銀次と桃田』(柳沢ゆきお/主婦の友インフォス)というBL作品がある。

advertisement

 主人公は、自然豊かな長野の田舎町で仕事一筋で生きてきた銀次(65歳)。彼は誕生日当日に定年退職を迎え、妻と2人、ゆっくりと老後を過ごしていくのだろうと思っていた。しかし、その翌日、妻は突然死をしてしまう。

銀次と桃田 1話 p5

銀次と桃田 1話 p6

 妻の死後3週間たち、心配した娘夫婦と、夫方の父・桃田優吾(53歳)が実家を訪れると、すっかりゴミ屋敷のような状態になっていた。憔悴しきった銀次は覇気がない。3人で部屋を片付け、銀次を風呂に入れる。生活力のない父を心配した娘夫婦は、しばらく同居することに決める。

 優吾は、事故で足を悪くして早期退職をし、今は銀次の家の近くの塾講師をしているという。どうせなら、と銀次は優吾に一緒に暮らすことを勧めるのであった。

 銀次は、食べ方が綺麗な優吾に対して「女みてえだな」と言う。そして「ナヨナヨしてる」「気持ちいいもんじゃない」「もっと男らしくしろや」と言葉を続ける。そんな銀次に対して、優吾は割り切れない表情をする。

銀次と桃田 1話 p27

銀次と桃田  1話 p28

 彼がゲイだということを知ったときも、彼が入れたお茶を飲むのをやめ、「こんなもん飲めたもんじゃねぇ! 病気になっちまうわ!」と怒鳴り散らす始末。

銀次と桃田 2話 p8

銀次と桃田 2話 p9

銀次と桃田 2話 p10

 主人公が異性愛者であったり、ゲイに理解がない登場人物が出るBL作品は多数あるが、「オカマだかホモだか知らねぇけどロクでもねえ! そんなちゃんとしてねぇ奴家に入れたりするかよ!」のような酷いセリフを言う人間はなかなか出てこない。銀次の年齢や田舎暮らしというのも相まって、とてもリアルに描かれている。

 そんな頑固オヤジの銀次は、しかし優吾の人間的な優しさや良心に触れていく中で、遅々としたものではあるが、次第に考え方が変化していく。

 彼らが分かり合えるのはまだまだ先な気がするが、果たして銀次がどのように優吾を受け入れるのか、読んでいてとても気になる。ちなみに、この作品が掲載されている「推す♂BLコミックス」はスタートしたばかりのレーベルだが、他にも非エロでプラトニックながらも不思議と耽美なBL作品『声が響いて優となり』(主婦の友インフォス)を発売するなど、今までのBLレーベルとはまた少し違った雰囲気の作品を扱っている。『銀次と桃田』にハマった読者には今後が楽しみなレーベルかもしれない。

 いつもと違った趣向のBL作品を読みたい人はもちろん、BLには興味がありつつも躊躇していた人や、過激な性描写などは求めていなかった人にもオススメの作品だ。

文=園田もなか

あわせて読みたい