もしも「魔法少女」が、誰もが憧れる職業だったら──? 令和の時代に新しい魔法少女の姿が描かれる!

マンガ

更新日:2022/9/7

株式会社マジルミエ 1
『株式会社マジルミエ 1』(青木裕:作画、岩田雪花:原作/集英社)

 読者諸氏は「魔法少女」と聞いて、どんな作品を思い浮かべるだろうか。昭和世代なら『魔女っ子メグちゃん』とか『魔法のプリンセス ミンキーモモ』かもしれないし、平成世代なら『おジャ魔女どれみ』や『魔法少女まどか☆マギカ』あたりかもしれない。一般的にこれらの魔法少女たちは個人、あるいはグループでの活動がメインであり、社会的にその存在が公になっていることはほとんどない。しかし、である。もしも魔法少女が社会的に「職業」として認識された世界があるとしたら──。『株式会社マジルミエ 1』(青木裕:作画、岩田雪花:原作/集英社)は、社会で活躍する魔法少女たちの姿を描いた新しいタイプの「魔法少女」ものである。

 本作はその冒頭で「魔法少女──それは強くて格好良くてしなやかで、誰もが憧れて高給取りで人気が高い、立派なひとつの職業だ」と語る。では一体、何のために魔法少女は職業として必要なのか。それはこの世界には突如発生する自然災害の一種「怪異」現象が存在するからだ。魔法少女は怪異を退治することが、主たる業務なのである。そして物語は、就職活動中の女子大生「桜木カナ」を中心に紡がれていく。

 カナは就活で何社も面接を受けていたが、そのいずれも失敗していた。誰かの役に立ちたいという思いは強いが、面接でいかにそれをアピールしてよいか分からなかったのだ。そしてとある企業での面接の際、その場に発生した怪異現象にカナは巻き込まれる。連絡を受け、退治に現れたのは魔法少女の「越谷仁美」。しかし事前情報以上に成長していた怪異は、彼女ひとりでは手に余るものだった。そこで協力者を募った仁美に対し、カナは協力を申し出る。魔法弾の管理をするのがカナの役割だったが、彼女は気づく。管理アプリに設定された魔法弾の種類が間違っているのでは──と。カナは以前、このアプリを開発した会社の面接を受けており、そのアプリのことも調べていたのだ。そして優れた記憶力を持つ彼女は、アプリの使用法まで明確に覚えていたのである。カナの考えを聞いた仁美はその提案を了承し、見事に怪異を退治することに成功。そのままカナを自分の会社へスカウトするのだった。

advertisement

 仁美の所属する「株式会社マジルミエ」は、ベンチャー企業である。ベンチャー企業とは旧来の慣例に囚われず、新しいことにチャレンジする会社だが、大手の企業に比べてその規模は小さいことが多い。「マジルミエ」も、社長を含めた社員は4人の零細企業だ。さらに社長の重本は、男性だがなぜか魔法少女のコスチュームに身を包んでいる変人。仁美を含めクセのある人だらけの会社に、やや引き気味のカナであった。そして重本はカナが協力した怪異退治の報告を見て「君はとても優秀だ」と高く評価。仁美と共に、いきなり実戦の怪異退治に向かわせるのだった──。

 本作は「魔法少女が会社化してて、社長が魔法少女コスのおっさんだったらウケるわ」という作者の思いつきから生まれたという。実際ウケるし、作品のエッセンスとしてよく機能している。それでもやはり、ポイントなのは主人公たちが非常に魅力的に描かれている点だろう。自分に自信のなかったカナが、才能を見出されて戦いと共に成長していく。まさしくこれは王道の「ジャンプ作品」なのだ。本作はこれまでの「魔法少女」の概念を一新する、まさにベンチャー企業的な作品なのかもしれない。

文=木谷誠

あわせて読みたい