ためになる情報満載&サラリーマン漫画として痛快! 山下智久さん主演ドラマも放送中、『正直不動産』の魅力

マンガ

公開日:2022/5/2

正直不動産
正直不動産』(大谷アキラ:作画、夏原武:原案、水野光博:脚本/小学館)

 4月にスタートしたNHKのドラマ『正直不動産』。同名の漫画が原作です。不動産営業として働く永瀬財地は、これまで嘘八百を並べたてて顧客を騙し、営業成績ナンバーワンを維持してきました。しかし、とあることがきっかけで、突然嘘がつけない体に。自分に不利な条件も正直に話さざるを得なくなった永瀬は、たちまちナンバーワンから転落します。一方、結果的にカスタマーファーストとなる営業スタイルが、時には良い結果を生むことも。永瀬が苦戦しながらも、新たな営業スタイルを模索し成長していく物語と、主人公・永瀬財地をこれまでも多くの人気ドラマに出演してきた山下智久さんが演じていること。その二点が話題となり、高い注目を集めています。ではなぜ『正直不動産』は物語として面白いのか。その理由となる原作の魅力を紹介します。

作画・原案・脚本に分かれた万全の制作スタイル

 本作の作者は三人。漫画家の大谷アキラさんが作画、ライター・漫画原作者の夏原武さんが原案、同じくライター・漫画原作者の水野光博さんが脚本を務めます。特に原案の夏原さんは、同じく山下智久主演でドラマ化もされた漫画『クロサギ』でも原案を担当。詐欺師という、普段出会うことのない人々にフォーカスを当てた『クロサギ』は、ドラマも原作も人気を集めました。今回の『正直不動産』では、取材のほとんども夏原さんが担当されているそう。詐欺師と比べて不動産業界は、私たちにとって近しい存在にも思えますが、実際に読んでみると、“千三つ”と呼ばれる営業スタイルや、家の売り買いに関する複雑な法律などによる客と業者の情報格差など、私たちの知らないことだらけ。またしても私たちの知らない“闇”を描くことで、読者の興味を引き付ける漫画が誕生したのです。

 そこに、児童相談所をテーマにした漫画『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』などを手掛けてきた水野さんが参加し、脚本を担当することで、難しくなりがちな法律の話も読み進めるうちにすとんと理解できる仕掛けが成り立っています。不動産業界のありようから、鋭い視点でテーマを見つける夏原さん。それをよりわかりやすく、おもしろく整理する水野さん。それをさらにさらに、画の力で人目を惹くものにしている大谷さん。三人の手によって、『正直不動産』は連載開始5年近くが経つ今も、『ビッグコミック』で連載中。読むと不動産知識が身につく、そして何より面白い漫画として支持されているのではないでしょうか。

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時に痛快、時に胸アツ。 正直営業マンの業界への逆襲劇

『正直不動産』のもうひとつの魅力は、サラリーマン漫画としても痛快なこと。永瀬は職場の同僚、上司にも次々と本音を言ってしまい、社内での立場が危うくなります。でもそこが、同じくサラリーマンとして働き、上司に言いたいことがあっても口が裂けても言えない私たちには痛快。ドラマでは上司からのお酒の誘いを「嫌で~す。あんたのしょうもない自慢話聞くの、もううんざりなんです」とバッサリ却下するシーンがありましたが、漫画では「仕事の効率が悪いヤツに残業代が支払われるって、日本の残業制度はおかしい」など制度にまで切り込むセリフが出てくるなど、ますます切れ味抜群です。

 また、営業成績が急降下し、会社にとって不利益なこともしゃべってしまう永瀬は、たびたびクビの危機にさらされます。それでも永瀬が嘘はつけない自分を受け入れ、営業スタイルを変更。自分や会社の利益を度外視してまで顧客に寄り添おうとする新入社員・月下を時に指導し、時に協力しながら、「カスタマーファースト」と会社の利益を両立させる道を四苦八苦しながら模索していきます。その展開には、ピュアな希望を持っていた読者自身が新入社員時代を思い出し、仕事との向き合い方について改めて考えさせられるような力があります。またピンチの時にはライバルである桐山がアシストしてくるなど、少年漫画のような展開も。漫画の熱意が読者の仕事への熱意に飛び火していくようなアツさがある。それが『正直不動産』の魅力なのだと思います。

 永瀬の痛快さにスッキリし、不動産について詳しくもなれる『正直不動産』。原作コミックもドラマも目が離せません。

文=原智香

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