田舎ぐらし×ピュアな恋を描く『アリスさんちの囲炉裏端』。2巻ではふたりの関係に大きな転機が!?

マンガ

更新日:2022/5/25

アリスさんちの囲炉裏端
アリスさんちの囲炉裏端』(キナミブンタ/集英社)

※本稿は作品の内容を含みます。ご了承の上お読みください。

 田舎に暮らす男子高校生・晴海と、10年ぶりに地元に帰ってきた“大人”のアリスさん。年の差がある幼なじみのふたりをつなぐのは、アリスさんが住む古民家の囲炉裏端だ。今日も晴海はおすそわけの食材を持ってきて、それをアリスさんはさまざまな工夫を凝らしながら囲炉裏端で調理する。ふたりでそれを分け合い、楽しむ。相手の笑顔に、ふと目を奪われることもある。そんな日々を丁寧に描いた作品が『アリスさんちの囲炉裏端』(キナミブンタ/集英社)だ。

 囲炉裏端のある生活の魅力は、「食」と「人」にある。

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 まず食については、囲炉裏端があることで熱を通すプロセスにこだわれるのが良い。細かな解説が書き込まれた調理シーンからは、手間をかけるぶん、食材の旨みが引き出されることが伝わってくる。工夫次第で調理のレパートリーも豊富になるし、複数品の同時調理もできる。本作を通じて、調理スペースとしての囲炉裏端の優秀さに惚れてしまった。

 そして囲炉裏端があると、そこに人が集える。人間同士の関係も、食材のように時間をかけて、じっくり火が通っていく。主人公の晴海はアリスさんに恋心を抱いているが、幼なじみから一歩先にはなかなか踏み込まない。そこには晴海自身の葛藤もあるが、囲炉裏端がふたりの間にあることも大きく影響していると思う。アリスさんと晴海が囲炉裏端を囲む時間を重ね、互いの成長を認識し、心の距離を近づけていくプロセスが尊い。人の心が揺れる時間を丁寧に描いてる本作は最近の作品では珍しく、貴重ではないかと感じた。

 2022年3月に発売された2巻では、そんなふたりの関係に大きな転機が訪れる。注目してほしいのは、その転機となるシーンで交わされる晴海とアリスさんの会話だ。互いが描く理想の未来には、囲炉裏端があって、ふたりがいる。それを知って頬を染める、晴海の横顔がまぶしい。

 恋愛の価値観は千差万別だ。たとえ互いに好意があっても、どんなふうにふたり一緒に歩んでいくのか、そのビジョンが合致していないと長続きしない。「こんな日々を重ねたい」と思える最高の時間でふたりを結んだ囲炉裏端は、恋のキューピッドと言っても過言ではない。

文=宿木雪樹

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