新型コロナ問題は「電子書籍」の可能性を拓く――世界で無料公開の動き

ビジネス

公開日:2020/3/6

ジャーナリスト・まつもとあつし氏が、出版業界に転がるさまざまな問題、注目のニュースを深堀りする連載企画です!

 日本でもコロナ感染の拡がりが懸念される中、電子書籍の世界で無料公開の動きが出ている。東日本大震災の際も『週刊少年ジャンプ』の電子版が無料公開され注目を集めたが、「全国一斉休校」や「図書館の閉鎖」という思いがけない事態に、電子書籍の可能性に再び光があたることになりそうだ。

 東日本大震災では、津波の直接の被害を受けた東北地方だけでなく、放射能への懸念や計画停電など関東にまで影響が拡がった。社会に暗い空気が漂い、消費活動を控える中、本や雑誌が提供する娯楽や物語に気持ちが救われたという人も少なくない。

 今回は影響が全国に及んでいる。しかも1ヶ月以上という長期にわたってほとんどの学校が休業するという異常事態。ニュースでは自宅でテレワークを行う親が、子どもの勉強を見てやる様子が報じられているが、夏休みのように沢山の宿題が与えられているわけではない中で、この突然の長い休みをどう過ごさせれば良いのか悩んでいる人も多いはずだ。「ちょっと目を離すとすぐYouTubeを見ている」という声もよく聞く。

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“子どもの読書離れ”といったイメージが強いため、「こうなってしまうのもやむを得ない」と思う人も少なくないはず。けれども、実は特にスマホをまだ持っていない小学生は月に10冊以上は本を読んでおり、読書離れが指摘される中でも中学生・高校生に比べて「多読」と言える状態にある。

(子供の読書活動に関する現状と論点 – 文部科学省より)

 この数字は30年前に比べると半減しているという評価もあるが、いずれにしてもこの「長い休み」で読書習慣は絶やしたくはないし、普段本をあまり読まない子どもにも本の楽しさを知ってもらう絶好の機会になるはずだ。「気がつけばYouTubeを見ている」と諦めてしまうのではなく、積極的に本に触れてもらうよう親も働きかけると良いのではないだろうか。

 自宅での読書や学習で改めて注目を集めそうなのが、AmazonのFireタブレットのキッズモデルだ。1万円台という価格には「絵本、学習まんが、児童書のほか子ども向けアプリ、ゲーム、ビデオ、その他の知育コンテンツが1年間使い放題」となるAmazon FreeTime Unlimitedが付属しており、コンテンツのフィルタリングや利用時間制限、利用コンテンツの遠隔での確認も可能となっている。

 こういった安価なタブレットでも、ブラウザに対応した電子書籍コンテンツを閲覧できるため、各社が今回のコロナ問題を受けて無料開放している書籍・雑誌も利用できることになる。

 学研はデジタル学習ドリル「ニューコース学習システム」と、デジタル百科事典「ニューワイド学習百科事典」を期間限定公開している。また、KADOKAWAは学習まんがやつばさ文庫をはじめとした子ども向けコンテンツ200冊以上を児童書ポータルサイト「ヨメルバ」で無料公開中だ。そして今後もこういった動きに追随する企業は増えていくだろう。

(『ケロロ軍曹』などで知られる人気漫画家吉崎観音氏が作画したことでも話題になった「日本の歴史」も)

 今回のコロナ感染は重い症状が現れにくい若者が、人の多い繁華街などに外出することで、拡がってしまっているという見方もある。外出を控えなければならない中、没頭できる読書は今この困難な時期を乗り越えるために重要であるだけでなく、後から「あのとき沢山本を読んでおいてよかった」というきっかけにもなるはずだ。そのためにも「家に居ながらにして本をどんどん読んでいくことができる」という電子書籍の利点には改めて注目が集まるべきだと筆者は考えている。

<プロフィール>
まつもとあつし/研究者(敬和学園大学人文学部准教授/法政大学社会学部/専修大学ネットワーク情報学部講師)フリージャーナリスト・コンテンツプロデューサー。電子書籍やアニメなどデジタルコンテンツの動向に詳しい。atsushi-matsumoto.jp