「この本5,000万円で買う」って約束したよね?――この意思表示は法的に有効? 読解の難しい民法を、口語&図解付きでわかりやすく解説『口語 民法(令和新版)』【レビュー】

ビジネス

公開日:2026/2/24

口語 民法(令和新版)
口語 民法(令和新版)(根田正樹:監修/自由国民社)

 はじめまして。弁護士業の傍ら、漫画も書いている「弁護士のたぬじろう」と申します。さて、皆様、法律の条文って読んだことありますでしょうか。私の場合、法学部での民法総則の講義で、初めて法律の条文に触れることになりました。そこで、軽い衝撃をうけたのが、この条文。

「(心裡留保)
第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」

…うん。
日 本 語 で お 願 い し ま す 。

 心裡留保? 表意者がその真意ではないことを知ってした? 善意の第三者?

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 何を言っているのか、全然分からなくないですか!?(少なくとも私はそうでした) 条文が難解な言葉で書かれているせいで、法律に苦手意識を持ってしまう人も多いはず。

 そこでご紹介したいのが、『口語 民法——令和新版』(根田正樹:監修/自由国民社)です。この本は、このような分かりにくい条文を口語形式で直してくれています。

 例えば先ほどの民法93条なら、

「九三条〔表意者が、うそをいった場合はどうなるか〕
① 意思表示をした者が、うそや冗談をいった場合であってもそのために、その意思表示が無効になるようなことはない。もっとも、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知っていた場合、または普通なら当然知ることができたはずだと考えられる場合には、その意思表示は無効となる。
② しかし、その意思表示が表意者の真意ではないことを知らないで利害関係をもつようになった者(善意の第三者)に対しては、無効であることを主張することはできない。」

 と口語訳されています。とっても分かりやすいです…!

 私なりに例を挙げるとこんな感じでしょうか。冗談で「本書を5,000円で買う」(定価3,520円)と意思表示したら、後から「あれは冗談だから無効だよ」では済まされない。でも、これが「本書を5,000万円で買う」だったら、普通そんなの冗談だと分かるから無効になると。

 しかも、本書は条文の口語訳だけじゃありません。それぞれの条文に注解(解説)がついていて、さらに噛み砕いて説明がされているし、図示までしてくれているという丁寧さ。

 くっ、この本を学部生の頃に知っていれば…!

 他にも、不法行為というものについて定めた民法709条を見てみましょう。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 この条文は、見ての通りシンプルなのですが、それが故にどんなケースに適用できるのかが法律初学者にはイメージしにくい。この条文、かなーり幅広く使われる条文です。契約関係にない損害賠償請求は大体これが根拠といってもいいくらい。交通事故の損害賠償請求も、SNSの誹謗中傷の損害賠償請求もこの条文です。弁護士実務においても頻繁に使用します。

 本書は口語訳部分も良いのですが、注解の中で、不法行為に該当する具体的な例も挙げてくれていて、初学者にもイメージがつきやすくなっています。

 例えば、上記で挙げた交通事故やSNSの誹謗中傷(名誉権侵害)以外にも、

 ・人のものを盗んだり、壊したりした場合
 ・漁場を荒らしたり、特許を侵害したりした場合
 ・日照権侵害や悪臭・騒音問題等で隣家を訴える場合

 等々。本書にはありませんが、実務でよくあるものを補足するなら、不貞相手に対する損害賠償請求も不法行為の一例ですね。

 ちなみに、不法行為という類型はそれだけで本が書けるほど、膨大な情報が詰まっているのですが、本書ではそれがコンパクトに分かりやすくまとめられていて、そこもまた初学者には嬉しい仕様。

 本格的に法律の勉強をしている人も、条文をひくごとに、その注解を読み直せば、周辺知識を埋められそうです。

 法律を勉強している人にも、していない人にも、「条文を読むハードル」を一段下げてくれる、そんな本だと思います。

文=弁護士のたぬじろう

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