「無能」と家族から虐げられて育った私が、最強と恐れられる異能者に嫁ぐことに? 契約結婚から始まるシンデレラストーリー【書評】
PR 公開日:2026/2/28

家族や周囲が当たり前にできていることが自分にはできない。素質がない。そんな現実に直面したとき、多くの人は自信をなくし、負い目を感じて自分を責めてしまう。それでも周りの人間に恵まれていれば居場所を確立できるだろうが、そう上手くいかないのもまた現実だ。でも、必要とする力は人によって違うもの。無能だと思っていても、別の誰かにとってはかけがえのない存在になることもある。
『無能令嬢の契約結婚』(九条みに:作画、香月文香:原作/スターツ出版)は、異能が尊ばれる日本の自治州・至間國(いたるまのくに)で無能に生まれ、虐げられてきた主人公の和風シンデレラストーリー。現在、原作小説、コミック版ともに3巻まで単行本化され、重版になっている人気シリーズだ。
異能なしの「無能」だと思っていたら、実は――。
主人公・相良櫻子は、由緒正しい男爵家の娘として生まれながら無能だった。一方、妹の深雪は強力な発火能力の持ち主。櫻子はいつも妹と比べられ、家の恥だと虐げられ、使用人以下の扱いを受けていた。


だがある日、そんな櫻子に転機が訪れる。仁王路伯爵の次男で至間國軍務局少佐を務める当代最強と恐れられる異能者・仁王路静馬(におうじ しずま)の元へ嫁ぐことが決まったのだ。しかも現れた静馬は、白皙(はくせき)の肌に整った顔立ち、白銀の髪と緋(あか)い瞳を持つ美しい男性だった。

いったいなぜ無能の自分が――と戸惑う櫻子だったが、仁王路家の別邸へつき問い詰めると、静馬は強すぎる異能力が持ち主の体を蝕む「異能病」であることを白状した。力の発散が追いつかない彼は、日々さまざまな形で積極的に力を使っているが、その生成能力は未だ成長し続けているという。そこで櫻子の無能に目をつけた。無能とは、「無を能(あた)う」能力、つまり直接触れた異能の効果すべてを無効化できる能力だったのだ。

きっかけは櫻子の「無能」を欲する契約結婚だった。でも――。
静馬は櫻子に「これは契約だよ」と話し、仁王路家との繋がりを与える代わりに異能を発散させる機会を与えるよう要求。最初は怖いと感じた櫻子だったが、「君は僕の唯一の妻だ」「誰にも渡さない」という強い情念を向けられ、生まれて初めて誰かに何かを望まれた現実を嬉しく思い、「この人と一緒にやっていきたい」と笑顔を向ける。ここから、ふたりの関係は始まっていく。

静馬が櫻子に要求したことは、毎晩寝室に来て少しの間手を握ってほしいということのみ。それ以外は自由に過ごしていいと、最高の待遇を用意してくれた。だがずっと虐げられてきた櫻子は、自分自身には価値がないと考えており、あくまで能力のみを求められているのだという姿勢を崩さない。それに加えて普段の生活にも滲み出るその痕跡は、静馬に違和感を覚えさせた。
静馬が櫻子に目をつけたきっかけは「無能」だったが、彼は櫻子を人として扱い、彼女の育った境遇に胸を痛め、少しずつ櫻子を心から思うようになっていく。彼もまた、普通じゃない異能力を持ち人と違うゆえに、昔からさまざまな嫌がらせを受けていたのだ。静馬が同期に対して発した「人は自分とは違うモノに対してどれだけでも残酷になれる」という言葉には、彼に世界がどう見えているのか、世界が彼をどう扱ってきたのかが凝縮されているように感じた。でもそんな環境にいた静馬だからこそ、櫻子の心情を心から慮ることができたのだろう。

だがそうした生活の中、とある事件が発生する。そこで起こった出来事や櫻子の勇姿はぜひとも本編で楽しんでほしいが、この一件で静馬からの信頼が一層高まり、ふたりの距離がぐっと近くなっていく。それは辛い境遇で育った者同士が拠り所を見つけかけているような、切なくも温かい、しかし今はまだ不安定なもの。でもきっとふたりならいつか――と、自然と未来に期待を寄せてしまう。
これからふたりの仲がどう進展していくのか、それぞれの異能力や櫻子の実家である相良家との関係はどうなっていくのか、まだまだ気になることだらけだ。今後も危ういふたりの幸せを願いつつ、引き続き見守っていきたい。
文=月乃雫
