『WITCHRIV』壊れたメガネを直しただけで親友が銃弾に…弾圧される魔法使いの少女が直面する過酷な運命【書評】
PR 更新日:2026/5/19

物語の中で描かれる「正義」は、ときにあまりにも分かりやすい。悪しき者から弱者を守ろうとする構図は、いつだって人を惹きつける。しかし、立場が変われば善悪の見方も変わるもの。『WITCHRIV』(はくり/集英社)は、「正義とは何か」という問いを容赦なく突きつけてくる。

主人公のノナは魔法使いの少女。魔法使いが迫害される社会で、人間のふりをして母と慎ましく暮らしていた。ノナの秘密を知るのは、親友のロヴィだけ。誰も信用できず、本当の自分を隠して生きる日々の中で、彼女との友情は心の支えだった。しかし、ひょんなことから街の人に魔法使いの存在が勘付かれてしまい、穏やかな日常はあっけなく崩壊する。魔法監視局の手によってロヴィを失い、母とも引き裂かれてしまったノナ。母と再会するため、ノナは過酷な現実に抗う決意をする。
代表作『幸色のワンルーム』(スクウェア・エニックス刊)で、閉鎖的な環境での人間関係や、社会から疎外された者の絆を描いた漫画家のはくり氏。本作ではそのエッセンスがファンタジーの中で引き継がれている。
作中の社会では「魔法は人間にとって危険なもの」とされており、魔法使いは弾圧の対象だ。魔法監視局が常に目を光らせていて、市民に通報を呼びかけている。そこまで危ない存在なのか。そう思いながら読み進めていった読者は、違和感を覚えるだろう。少なくとも1巻に登場する魔法使いたちは、生活のためにささやかな力を使っているにすぎない。街中のうわさのように、人の血を代償にするわけでもなければ、人を食べたり、悪魔と契約したりもしない。ノナもまた、ひっそり暮らしていただけの少女だった。
ノナが持つのは、「針糸の魔法(アルトアレ)」と呼ばれる糸を操る魔法。母から「人前で魔法を使うな」と言われて育った彼女だったが、ロヴィから頼まれ、壊れたメガネを魔法で直してしまう。そのことがきっかけで、ロヴィは魔法監視局に粛清されてしまう。魔法使いをかくまったというだけで、何も知らないロヴィの家族までもが銃弾に倒れた。

善意の行動が生んだ、取り返しのつかない悲劇。社会正義を掲げて行われる弾圧活動。どこかで見たことがないだろうか。そう、本作で描かれているのは、決して虚構の話ではない。私たち人間が辿ってきた歴史なのだと気付かされるはずだ。
また本作はノナの姿からも「正しさ」について訴えかけてくる。追われる身となったノナの願いは極めて素朴だ。家族と静かに暮らしたい、ただそれだけ。だが、その願いを叶えるためには、世界と対峙しなければならない。魔法が原因で親友を失い、母を危険にさらしたことを考えれば、その力を拒絶し、魔法使いである自分すら否定してもおかしくない。ところがノナは違う。自分や他者を守るために、自らの意思で魔法を使い続ける。その行動は、正しいとは言い切れないかもしれない。読む人によっては「軽率だ」と感じるだろう。だが同時に、自分の心に従う強さとしても映るはずだ。

何が正義で、何が間違っているのか。物語全体を通じて、読者の善悪の価値観を揺さぶってくる『WITCHRIV』。待望の第2巻は現在好評発売中。物語が大きく動き出す前に、“問い”の出発点となる第1巻を手に取ってみてほしい。
文=倉本菜生
