延命治療で人は幸せになれるのか? 現役看護師が描く“看取りの物語” 『命の終わりはだれが決めるのか』【書評】
PR 公開日:2026/4/8

命の終わりは突然、訪れることもある。もし、家族の身に何かが起き、急に延命措置の可否を尋ねられたら、自分はどんな選択を下すだろう。そして、自身の身に何かあった時、どんな選択を家族にとってほしいだろうか。
看取りをテーマにした『命の終わりはだれが決めるのか』(ソファちゃん:著、諸岡真道:監修/日本文芸社)は、そんな“もしも”を考えさせられる作品だ。著者はイラストレータ・漫画家であり、現役看護師。“命の最期”に関わる現場で働く人々に取材し、本作を完成させた。
看取りをテーマにした書籍は重々しい雰囲気を放っていることも多い。だが、本作では温かみある漫画で様々な最期における選択や知っておきたい知見が描かれており、手に取りやすい。そして、1000人の最期を診てきた医師や納棺士などといった“看取りのプロ”と著者の対談が収録されているので、知識もしっかり得られる。
物語のメインキャラクターは、看護師の田中ゆうなだ。ゆうなが幼い頃に、ゆうなの祖母はある日突然、脳出血を発症。寝たきりになったものの、胃ろうを造設するなどして、命をつなぐことができた。


祖母は脳の障害によって話すことは難しく、体も動かせない。それでも、ゆうなは「生きている」祖母に寄り添い生きてきた。
だからこそ、ある患者の家族が延命治療をしない最期を選んだ時、心が揺らいだ。自分たち家族の選択は正しかったのだろうか。そう考え、祖母は幸せなのだろうかとの疑問を持つようになっていく。


こうした心境は、とてもリアルなものだ。看取りは、正解がないから難しい。家族に命の終わりが迫ると、「どうすればいいんだろう」と選択を悩んでしまうし、他の家族の看取り方を知ると、「私たち家族が選んだ看取り方は正しかったのだろうか」と答え合わせをしたくなる。
そんな葛藤が丁寧に描かれているので、今まさに家族の最期が迫っている方は共感し、看取りの経験がある人は「こういう想いを抱えるのは私だけじゃないんだ」という安心感を得られるはずだ。
なお、本作に描かれているのは、ゆうなの祖母の看取りだけではない。看護師であるゆうなの視点を通して、様々な場所で終末期を過ごす選択が描かれている。
ゆうなは納棺士の友人と関わる中で、ご遺体にとって本当に必要なことは何か、エンゼルケアについても考えるように。施設型ホスピスへの転職後には、妻の最期を受け入れられない夫への寄り添い方を模索するなどし、より命の終わりを選択することへの理解を深めていく。


収録作の中で印象的だったのは義母の介護をしながら、難病で寝たきりとなった娘・やよい(35)の介護について悩む家族の話だ。


介護や看取りは高齢者がいる家庭の問題と思われやすいが、自分や家族に思わぬ病気が見つかったり、予期せぬ事故に見舞われたりする可能性は誰にだってある。だからこそ、できるだけ早いうちから介護や看取りについての考え方を家族間で話し、共有することが大事なのだと思わされた。
また、やよいの話は、「できる限りのことをやってあげたい」と思っていても介護がいざ現実のものになると、「背負っていくのが怖い」などの心理的な葛藤が生じてしまうこともあるという気づきももたらしてくれる。




そうした状況になった時には、どう自分の心を守り、現実を受け入れ、向き合っていけばいいのか。本作を手に取ると、そんな視点からも介護や看取りについて考えていきたくなる。
なお、本作のラストでは、ゆうなが自身の母の看取りを経験する。延命を選択した祖母の看取り方をめぐって、けんか別れのような形になってしまった母。その最期を、様々な人の看取りを経験してきたゆうなはどう看取るのか。ぜひ、その目で見届けてほしい。
命の終わりに、正解はない。その人らしさを尊重し、悩んで選択したことが正解になる。本作には、そう寄り添ってくれる優しさもあるように思う。自分や家族が“その人らしい人生を終わり方”を考えるきっかけとして、元気な時から「どうしたいか」を話し合うために手に取ってほしい。
文=古川諭香
