父の借金で極貧生活を送る姉妹の幸せでいとおしい日常。マンガ『つきかけ姉妹』が教えてくれる「幸福」の正体とは?【書評】
PR 公開日:2026/4/23

『つきかけ姉妹』(さかなかなすか/講談社)は、極貧ながら幸せに暮らす姉妹の日々を描いた心あたたまる日常系の漫画作品である。
あらゆる能力が高く容姿にも恵まれているが、とにかく運がない天然キャラの姉あきらと、満月の日に運のいい数字が思い浮かぶという特殊能力を持つクールで大人びた妹のぞみ。
父親の残した借金を背負い、極貧生活を送っている2人には、月に一度とっておきの楽しみがある。それは満月の日、のぞみが思い浮かべる数字と共に、小さな冒険に繰り出すことだ。

■何気ない日常を冒険に変える「運」という要素
本作の鍵を握る要素が「運」である。姉のあきらはハイスペックな資質を持ちながら、その効果的な使い方がわかっておらず、多くのチャンスに恵まれながらも大きく好転することがない人生を送っている。おおらかな本人は、それを深刻な問題とも思っていないようだが……。
そんな姉の幸せを強く願い、やきもきしているのぞみの不思議な能力が、物語の魅力を引き立てる。満月の日にのぞみが思いつく数字が何を示しているのかは、わからない。2人で外に繰り出して、出会う人や起こる出来事から、その数字をどう活かすのか探っていくのだ。
何らかの幸運をもたらす数字と共に一日を過ごす。この設定がとてもいい。謎解きのヒントのような感覚で数字を携えて出かければ、なんてことのない日常がたちまち冒険に変わるのだ。どんな幸運が訪れるのか終始ワクワクしながら読むことができる。
その一方、あきらの善良な性格が邪魔をして思い通りの一日はなかなか過ごせない。あきらが誰かのために回り道をしているうちに、数字のことは後回しになってしまうのだ。
しかしこの絶妙なバランスこそが、本作の肝だと思う。
■互いを思いやる心が、生活を彩る「幸運」を巡らせる
姉妹に共通しているのは、利他的であることだ。姉は妹のために、妹は姉のために何ができるだろうと常に考えている。そして自分たちだけではなく、他者の幸せにも想いを馳せる。その恩や感謝が循環することで、問題が起こっても、自然な形で解決していく。
「幸運」とはいったい何なのであろう。本作を読みながら、あらためてそんなことを考えていた。この極貧姉妹にもたらされるのは、「宝くじで借金がチャラになる」といったわかりやすい幸運ではない。自分自身の幸せの軸をぶらさず、周りの人の幸せにも思いを馳せて生きていくことで、互いの思いやりが巡って、必要な分の「運」が生まれていくのだ。そうやって生まれていく日々のちょっとした変化こそが、姉妹の「幸運」の正体なのかもしれない。
2人には「満月の日に姉妹で遊びに行く」という楽しいルーティンがある。「いつか月に行く」という大きな夢もある。そして何より2人は孤独ではない。周囲に愛され家族を愛している。だから2人の生活には、小さなトラブルでは揺るがない幸せの土台がある。

「運が悪い」「うまくいかない」と思っている人こそ、ぜひ本作を読んでみてほしい。代わり映えしない日常に、きっとささやかな光が見出せるはずだ。
文=宿木雪樹
