猫のため、交際ゼロ日で結婚! 猫ファーストの新婚生活で、すれ違いながらもゆっくり絆を育んでいく「新しい家族」の物語【書評】
公開日:2026/6/10

「交際ゼロ日婚」と聞くと、ふたりにどんな事情があるのか気になるところだが、本作の結婚理由は、作品タイトル通り、猫である。『ねこ婚 猫のための交際ゼロ日婚』(たけみゆき/KADOKAWA)は、猫好きの女性と男性が、恋愛でも打算でもなく、ただ「猫を守るため」に夫婦となった生活を描いた物語だ。
主人公の珠子は40歳の独身女性。ある日インフルエンザで寝込んだとき、孤独死への不安が頭をよぎる。だが自分の体のことより先に浮かんだのは、飼い猫たちの行く末だった。その恐怖に突き動かされ婚活を始めるが、なかなか希望の相手に出会えない。そんなとき、猫の保護施設でともにボランティアをしている天涯孤独の男性・篠田も、珠子と同じ思いを抱えていることを知る。互いの条件が一致したと考えた珠子は、勢いのままプロポーズ。すると篠田もあっさり受け入れ、ふたりは恋愛なし、交際期間ゼロのまま結婚を決める。
ふたりの結婚生活の「猫ファースト」ぶりが面白い。猫へのストレスを減らすため、新婚にもかかわらず家の中で別々に暮らす「家庭内別居」を選択し、猫の医療費に備えた「ねこ費」を家計に組み込むなど、猫の幸せを中心に生活が組み立てられていく。その徹底ぶりは清々しさすら感じる。
ふたりの関係にも目が離せない。互いに不器用すぎるためすれ違い、ぎこちない日常を送る。それでも同じ屋根の下で猫たちの世話をするうちに少しずつ相手のことが見えてくる。恋愛でも友情でもない感情が静かに育っていく様子も見どころだ。
きっとふたりはこの先も、不器用なままで猫たちと一緒にゆっくり歩んでいきながら寄り添っていくだろう。大切なものを守るために誰かと生きるという選択が、こんなにも温かいものになるのだと教えてくれる作品だ。
文=坪谷佳保
