ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、舞城王太郎『短歌探偵タツヤキノシタ』

今月のプラチナ本

公開日:2026/6/5

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年7月号からの転載です。

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!

誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

(写真=首藤幹夫)

★今月のプラチナ本
『短歌探偵タツヤキノシタ』

舞城王太郎
ナナロク社 1980円(税込)
小学3年生になるタツヤは、家族とともに父の生まれ故郷である福井の田舎町を訪れた。すると突然、すれ違った見知らぬ少女が一首の短歌を口にする。気になったタツヤはその意味を読み解いてゆき、やがてある事件の解決に繋がる。成り行きでその地に留まることとなったタツヤのもとには、その後も事件とともに短歌が現れ――。全5話の短編それぞれのカギとなる短歌は歌人・木下龍也による書き下ろし。

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まいじょう・おうたろう●1973年、福井県生まれ。2001年『煙か土か食い物』でメフィスト賞を受賞し、作家デビュー。03年『阿修羅ガール』で三島由紀夫賞、16年『淵の王』でTwitter文学賞第1位を獲得。他にも著書多数。近年はマンガ原作、アニメ脚本、翻訳など活躍の幅を広げている。

【編集部寸評】

短歌と少年の豊かな可能性

舞城王太郎×木下龍也によるミステリ×短歌な試みに、まず射抜かれた。小学3年生のタツヤの前に、不思議な短歌が現れるが、一読してもすぐに意味を汲みがたい。そこに短歌とは何か、どう楽しむものなのか、という問いが生まれ、謎を解く過程で31音が秘めた深淵を知る。タツヤが言葉を通じて他者や外界に接するのと同時に、読者もまた短歌の魅力に触れる。ときに日常からふわりと浮遊するファンタジックな展開と少年の輝かしい未来が、短歌の懐の深さと可能性に呼応して心地いい。

似田貝大介 本誌編集長。10月発売号をもって32年間の幕を閉じます。本誌を支えてくださった皆様に感謝申し上げます。どうか最後までお付き合いください。
 

限られた文字数からどこにたどりつくのか

小学生ながら、短歌を手がかりに事件を解決するタツヤキノシタ。本作は謎解きに留まらず、31文字を読み込むことで他者の心の深部へ踏み込み、真摯に向き合う少年の姿を描き出す。限られた文字数から広がるタツヤの思考回路を、共にたどれるのが醍醐味だ。「僕に届く短歌は《子供向け》なんかでは全然ないのだ。それは《子供らしさ》に留まっていては読み解けないものなのだ」と覚悟を決めるタツヤ。短歌を通して他者を知り、自らの世界も広がっていく。タツヤの成長にも心躍る一冊だ。

久保田朝子 気圧の乱高下のせいなのか、ここ最近は頭がだる重い日々が続いています。寝ること以外に何か有効な対処法はないものかと、模索中です。
 

短歌探偵は小学3年生

短歌探偵タツヤキノシタは、31文字に秘められた謎を解く。さまざまな方法で届く短歌を読み解き、小学3年生とは思えない大人びた言動で真相に迫っていく。その姿に心躍る一方で、どこか落ち着かないのはきっと私が大人になってしまったから。謎には危険が伴うこともあるからこそ、彼を案じ、引き止める者の気持ちもよくわかる。それでも「57577が僕のリズムだ。それがもたらす詩情のすべてが僕のエネルギーだ」と、短歌に真っ直ぐ向き合おうとする彼を応援せずにはいられない。

前田 萌 タツヤの兄も魅力的。初めての短歌に困惑する弟に「『わかんない』でいいのよ。その《わかんなさ》が面白味だったりするわけだから」と。刺さる。
 

言葉と感覚が魅せる大宇宙

たった31文字で構成される短歌。短い文字列からいかに意図を汲み取れるか……というと難しく考えてしまいそうになるが、本書では短歌探偵・タツヤキノシタが短歌の面白味を教えてくれる。わからなさを楽しむこと、言葉の本来の意味の「向こう側」を想像すること。読み進めるごとに、作中で出てくる短歌の世界がぐっと広がっていく。そして、短歌から得た学びは、タツヤの人間関係の築き方にも通じているのに注目だ。短歌が魅せる世界は広い。それを認識させられる作品だった。

笹渕りり子 30代に突入し、体の不調が増えてきた。目や耳、胃やら何やらとあちこちで要経過観察。とにもかくにも生活習慣を見直しましょうと言われる日々。
 

短歌の楽しみ方を教えてくれる

突如現れる短歌をもとに、身近な問題を解決していく短歌探偵のタツヤキノシタ。8歳の男の子である彼の目に映る短歌は新鮮だ。「どうして57577なのだろう?」「それが良いとされてきた理由はどこにあるんだろう?」。問題解決のために短歌を読み解いていく過程はミステリー作品における謎解きでもあるが、短歌をどう読むかという指南でもある。短歌に描かれた状景、そこに隠された詠んだ人の思い─短歌が、詠み手と読み手の二者によって成り立つものだと教えてくれる。

三条 凪 日記特集を担当。日記もつけつつ、食事記録アプリも家計簿アプリも使う記録魔な私。毎日あらゆる記録に追われている……それでいいんだっけ?
 

僕は言葉を、短歌を、裏切らない

短歌探偵タツヤキノシタ!? とまずは動揺。そんな不思議なタイトルを入り口にした本作では短歌の魅力があらゆる角度から展開される。あえて文字にすること、しないこと、同じ言葉が持つ意味のひろさや解釈の豊かさ。それらが著者の手により、鮮やかなエンタメ世界へと着地する。物語と短歌のなんと美しい融合なのだろう。ひたむきに物語と短歌に向き合った二人がいたからこその一冊であり、本寸評の見出しにした作中の一文が、著者の声で、そして木下龍也氏の声で聞こえてくるようだ。

重松実歩 日記特集を組むにあたり、たった3カ月で飽きた2年前の日記を読み返してみました。「酒乱大戦争」「闇落ちへ」「ギャルに負けない」。どんな日々?
 

短歌はミステリー、探偵はあなた

タツヤは、2つのことに気が付く。短歌は考えるだけでなく感じるのが大切ということ、そして字義通りの理解に留まってはいけないということ。本作の魅力の一つは、これらの一見会得が難しそうな読解の肝を、魅力的な謎解きの過程として見せたことだろう。短歌へのアクセスは誰にでも容易で、それでいてほんの31字程の言葉に織り込まれた感情を探る面白さよ。たとえそれが辛い感情でも、短歌の中では見つけて貰いたがっている。短歌の読み方にこんな提案もあるのかと目から鱗だった。

市村晃人 忘れじのゆく末までは難ければ――お正月に親戚と遊ぶとちょっと鼻が高いし古文の勉強にもなるし、と百人一首を覚えたのも今は昔となりました。
 

痛みに向き合い成長する

主人公は8歳の少年、タツヤキノシタ。短歌はまだ学校で習っておらず、彼にとって「正体のわからないもの」だが、解決すべき謎が生じると、天啓のごとく彼の元に短歌が届く。懸命に読み解こうとする姿は、未知の言葉を通じて世界と再接続する過程そのもので、胸を打たれる。全5編を通じて向き合う対象は家族、友人、そして赤の他人へと広がり、少年は短歌を介して他者の痛みに触れ、向き合っていく。時に失敗し、もがきながら少しずつ成長するタツヤ少年の姿に爽快な気分になる。

今村瞳子 今号からデビューする新卒社員です。よろしくお願いいたします! 最近ボルダリングを始めました。人生初スポーツ、続けられるよう頑張ります。

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