母を殺した相手に、会いに行く――「坂口健太郎さんの演技があったから、私も朝子として、心からの想いをぶつけることができた」映画『私はあなたを知らない、』【早瀬憩インタビュー】
更新日:2026/8/27

8月28日より劇場公開される映画『私はあなたを知らない、』。主演に坂口健太郎さんを迎え、『湯を沸かすほどの熱い愛』以来、約10年ぶりに中野量太監督が完全オリジナル脚本を手がけた最新作だ。
本作は、「人を愛すること」「罪と贖罪」「赦し」をテーマに、「家族」という幸せの形を追い求める中で、人を殺めるという罪を犯してしまった孤独な青年・西山夕平の人生を描くヒューマンサスペンス。夕平と、彼が出会うシングルマザー・紗月、その娘・朝子との関係を通して、人と人とのつながりや、愛することの難しさ、心の葛藤が丁寧に描かれている。
ヒロイン・朝子を演じるのは、『この夏の星を見る』などで知られる早瀬憩さん。オーディションで本役を射止めた早瀬さんに、役作りや撮影を通して感じたこと、そして作品に込めた思いについて伺った。
父親らしき人が母を殺したかもしれない――早瀬「愛するとはどういうことなのかを、今一度、考えさせられました」
――早瀬さんが演じた朝子は、5歳で母を亡くし、13年間祖母との二人暮らし。亡くなる間際の祖母から、実はかつて半年間だけ父親らしき人がいた、その人が母を殺したのだと知らされるところから始まる『私はあなたを知らない、』。簡単にわりきることのできない感情が、うずまいている映画でした。

早瀬 憩(以下、早瀬):人それぞれに愛のかたちがあり、どれだけ純粋に想っているつもりでもすれ違い、相手を傷つけることもあれば、傷つけられることもある。その複雑さを丁寧に描いた作品で、私自身、家族とはなにか、愛するとはどういうことなのかを、今一度、考えさせられました。ただ、はじめて脚本を読んだときは、不安のほうが大きかったです。物語の複雑さと深さが、一読しただけではつかみきれなかったし、監督にとってこの映画がどれほど大切なのかがオーディションを通じても伝わってきたので、物語の核を握る朝子の人生を引き受けるには相当な覚悟がいるな、と。
――朝子は、どんな人だと思って演じていらっしゃいましたか。
早瀬:素直で、純粋で、まっすぐ。とても魅力的な女の子だけど、物心ついたときには両親を失ってしまっていて、かわりに愛してくれた祖母も失い、心が枯渇しそうな孤独を常に抱えている子なのだということは、常に意識していました。ただ、いったいどんな気持ちで、母を殺した夕平という男性と面会室で向き合ったのか、そもそも彼の弁護をした町村弁護士にはどんな気持ちで会いに行ったのか、脚本を読んだだけでは容易に理解することができなくて。今の自分の力量では演じきれない、と思ってしまったんですよね。
監督がモニター越しの涙。監督も同じ場所にいるんだ、三心同体なんだと思えた
――それを、どんなふうに乗り越えていったのでしょう。
早瀬:それでも演じたい気持ちが強かったので、とにかく食らいつくしかないと。それに、現場では監督がいつも、私や朝子と同じ目線に立っていてくださって。物語の冒頭、お医者さんから祖母の余命宣告をされた朝子が病室に向かう途中、涙をこぼすシーンがあるんですけど、撮りながら、監督もモニターの前で泣いていたんです。私は、朝子と一心同体になるつもりで演じていたけれど、監督も同じ場所にいるんだ、三心同体なんだと思えたことが心強かったです。それから、監督は「それが限界じゃないでしょう、もっといけるはずですよ」と奮い立たせるような言葉をかけ続けてもくださって。「これでいいや」と妥協することのない、120パーセントの力を出し切るまでは何度もテイクを重ねるその姿勢にも励まされました。
――ご自身でも、とくに120パーセントの力が出せた……この映画だからこそひきだしてもらえた演技、というのはありますか。

早瀬:最初から最後まで、そんな瞬間だらけでしたね。たとえば、冒頭でおばあちゃんが亡くなったあと、1人で牛乳を飲むシーン。原田美枝子さんとの共演シーンはほんのわずかでしたけど、この人に13年間、愛情をもって育ててもらったんだと実感できるようなお芝居をしてくださったおかげで、「本当にいなくなっちゃったんだ」と実感するそのシーンの喪失感が、すさまじかったんです。町村弁護士を演じた滝藤賢一さんは、お芝居に対して常に真摯に向き合われていて、監督ともたびたびディスカッションされていましたが、自分の演技だけでなく、常に全体を見渡している方だから、どうすれば私が演じやすいかにも気を配ってくださったんです。だから、不安だったシーンものびのびと演じることができました。
