現代の詐欺テクニックで異世界を駆け上がる! 悪党を罠にはめる『天才詐欺師の異世界世直し』の爽快感がたまらない【書評】
PR 公開日:2026/9/29

うまい話には裏がある。分かっていても、人は「自分だけは得をする」と思えば、つい手を伸ばしてしまう。そんな人間の欲を巧みに利用し、異世界で悪党たちを罠にはめていくのが、『天才詐欺師の異世界世直し』(田鵺功空:漫画、ヒグマ:原作/白泉社)だ。
悪名高い天才詐欺師のトガネは、信頼していた仲間の裏切りに遭い、命を落としてしまう。そんな彼を待っていたのは、異世界への転生だった。魔法と剣の世界「カーザブラン」で新たな人生を歩むことになったトガネは、ある事実を知る。自分を裏切った“アイツ”も、同じ世界にいる……。トガネはこれまで培った騙しの手口を武器に、復讐へと動き出す。

科学や医療、農業など、現代の知識や技術で異世界を生き抜く主人公は珍しくない。だが、トガネが活用するのは“人を騙す技術”。そして彼が狙うのは、弱者を食い物にする悪人たちだ。村人を支配する悪徳貴族や、強欲な古美術商など、「いないほうが世の中のためになるのでは?」と思ってしまう人物ばかり。そんな彼らにトガネは身分を偽って近づき、魅力的な儲け話を持ち掛ける。
そしてここからが、詐欺師の本領発揮だ。相手が何を欲し、どんな言葉をかけられたいのかを見抜き、欲をくすぐる。その手口を支えるのが、詐欺師として磨いてきたテクニックと、転生の際に付与されたチートスキルである。だがスキルそのものは、詐欺を成立させるための道具にすぎない。チートに頼りきるのではなく、心理戦で相手を追い詰めていくのがトガネのやり方だ。彼の術中にハマった悪人たちが、自ら破滅へと向かっていく姿に、なんとも言えない爽快感を覚えるだろう。
なにより面白いのは、トガネが読者にすら手の内を最初からすべて見せないこと。「一体どうやって信じ込ませたんだ?」と、読みながらワクワクしてしまう。種明かしを見て、こちらまでまんまと騙されていたことに気づき、思わずニヤリとするはずだ。
タイトルに「世直し」を掲げる本作だが、その構図は少し歪んでいる。トガネ本人は世直しや人助けをしているつもりがないからだ。彼の目的はあくまで復讐。悪人を騙すのも、自らの利益のため。困っている人が目の前に現れても、手を貸すかどうかをコインの裏表で決めることさえある。そんな彼の行動が、結果的に虐げられていた人々を救っていく。

そして気になるのは、転生の仕組みそのもの。死んだ彼をあの世で迎えたのは、「元いた世界と新たな世界の階層を行き来する」という、謎のエレベーターガール。斬新な設定だが、どうやら単なる遊び心ではなさそうだ。読み進めるうちに、現代と異世界とのつながりも気になってくる。
『天才詐欺師の異世界世直し』待望の第1巻は2026年9月29日発売。話を追うたび、「次はどう騙すのだろう」と期待せずにはいられない。そして各地で仕掛ける詐欺の数々は、果たして“アイツ”への復讐とどう結びついていくのか。今後の展開に注目したい。
文=倉本菜生
