押井守「難物だけどこれはやる価値があると思いました」『火狩りの王』アニメ化記念! 西村純二×日向理恵子×押井守鼎談

マンガ

公開日:2023/1/8

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年2月号からの転載になります。

西村純二さん、日向理恵子さん、押井守さん

 人類最終戦争後、人間は火に近づくと体が燃え上がる病に冒されていた――。日向理恵子さんの長編ファンタジー小説「火狩りの王」シリーズ(ほるぷ出版)がアニメに! WOWOWにて、1月14日より放送・配信が開始される。監督の西村純二さん、構成・脚本を手掛ける押井守さんとの鼎談で、アニメならではの魅力を解き明かしていていこう。

取材・文=野本由起 撮影=冨永智子

日向:おふたりのような雲の上の存在にアニメ化していただいて、とても光栄です。映像化は企画から実現までのハードルがとても高いと伺っていたので、自分の作品がアニメになるなんて今でも夢のようです。

押井:今は、実写作品もアニメもほぼ小説やマンガが原作なんですよね。オリジナルなんて数えるほどで、プロデューサーは原作を探して権利を取ることに躍起になっている。だから、作家さんからすると「話は来るけどなかなか実現しない」ってことになるんですよね。特にファンタジーは、ハードルが高いんですよ。しかも、日向先生の作品はエンターテインメントっていうより文芸だからね。正直言えば、よくこの企画が決まったなと思いました。WOWOWだからできたんだろうね。

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一人称のハードボイルドで世界観を描きたい

――押井さんは、原作のどんな点に魅力を感じましたか?

押井:画にすることで、小説とは違った魅力が出せるか。そういう視点で原作を読んで、難物だけどこれはやる価値があると思いました。だから、原作をきれいに再現してみせるよりは、ちゃんと映像に翻訳しようと思って。自分だったらどういうふうに構成し直すかって考えていくうちに、どんどん深みにハマっていった(笑)。やっぱりキャラクターに情が移っていくんですよ。そうなったら、もうやるしかないですよね。

日向:私も小説と映像作品はまったく別の表現だと考えているので、アニメならではのアレンジを加えていただけたらと思っていました。なので、とてもうれしいです。

押井:脚本を書くにあたって、まず始めたのは、先生の原作からセリフを全部抜き出すこと。マーカーで塗って、いいセリフを引っ張り出して、そこからまた絞ってリストにしておく。あとは、そのセリフに向かって、シーンを作っていくんです。今回は登場人物も多いし、人間関係は複雑だし、設定も山ほどあるし、まぁ大変(笑)。でも、やっていくうちにキャラクターが「ここは俺を出してくれ」って訴えかけてくるようになるんですよ。私の仕事はもう終わってるから、あとは西村君がどれだけ頑張ってくれるか楽しみだね。

西村:今回の企画は原作ものだし、押井さんが脚本を書くことも決まっていました。俺は素材をまとめるポジションなわけです。といっても、そこに不満はなく、むしろ職人的な立場で作品に関わるのは好きなほう。ただ、だいぶハードルの高い作品だなとは思いますね(笑)。ひとつ感じたのは、この作品は物語が劇的に転がっていくタイプではなく、全体を通じて世界観を示すような作り方なのかなということ。日向先生ともお話ししましたが、主人公たちが自分で行動して道を切り拓くというより、一歩引いた話、つまりは群像劇だなと思ったんですよ。そのうえで、押井さんには「ハードボイルドにしてほしい」と伝えました。俺が考えるハードボイルドは、一人称なんですね。つまり、登場人物が見たものを視聴者も見ているということ。「一方その頃、悪の組織は……」みたいなシーンはなくて、主人公たちと同じ情報量で物語が進んでいく。群像劇だけど、ハードボイルドのようにカメラ位置を固定するという構成なら、世界観を示すこともできると思いました。

押井:それにあたって、登場人物のラインを何本引くかが重要なんです。灯子と煌四のライン、あとは灯子たちと出会う火狩りの明楽が半分くらいかな。つまり2・5本のラインがあるわけ。灯子のラインと煌四のラインは第1話から交差します。彼らはどちらも普通の子。そんな少年と少女が悪戦苦闘して傷つきながら、自分の本質みたいなものを掴んでいく。自分はどうやって世の中と関わるのか、自分の生きる道がどこにありそうか、誰を大事にするのか。そういったことに気づいていく話なんだよね。そうやって2本のラインが交互に綾なしていく中で、ヒーロータイプの明楽をどこで交差させるべきかが問題なわけです。困ったことに、明楽はヒーローなんだけどブレてるし、すごく悩んでいる。これが日向作品の最大の特徴だと思うんだけど、登場人物が全員葛藤しているんですよ。しかも、みんな周りの人間との関わりを絶えず意識して、相手を気遣う心優しい人たちなんです。3人が3人とも揺れ動きながら、お互いに関わり合っていく。これはなかなか大変だなと思いましたね。ファンタジーって、ヒーローがいて悪がいて……と、役割が固定された世界なんですよ。でもこの作品は、通り一遍のファンタジーでは収まらない。だから文芸なんだよね。

日向:執筆の際、ファンタジーにありがちな型を壊したいという動機がありまして。そこを汲み取っていただけてうれしいです。

『火狩りの王』場面写真

ファンタジーは凄惨な世界。だからこそ老人が作るべき

押井:それと同時に、火というテーマがすべてに表れている。つまり、文明論的なテーマも含んでいるんだよね。でも、そっちに行き過ぎるとイデオロギッシュな作品になるから、バランスが難しい。だからこそ、映像っていう多義的な表現に向いてると思ったわけ。映像作品は、見方によってテーマもメッセージも変わるからね。個人的には、日向先生が今後この作品をどうしていくかも気になっている。要するに、続編があるかって話なんだけど。1作で終わるのは惜しいから、先生の中に内的な要請があれば続けてもらいたいんですよね。

日向:とってもうれしいお言葉です。続編についても模索はしておりまして、内的な要請を今待っているところです。いつかお目にかける日がくればと……。

押井:それはうれしいね。そもそも先生の作品って、思いが強いんですよ。僕は原作者と揉めるほうで、これまでうまくいった経験は一度くらいしかない(笑)。今回も作品から思いの強さを感じたから衝突するかなと思ったけど、お互い犬好きだというのもあって大丈夫だった(笑)。私の立場としては、先生と西村君をつなぐ橋渡し役だったけど、そこもうまくいったんじゃないかな。

西村:俺も今回は職人的な立場ですから、自分の思いをガンと表現する気分は薄いんですよ。そういう若い感じはないですね。

押井:昔はあったでしょ?

西村:強くありました(笑)。

押井:私もありまくったから(笑)。今回思ったけど、極論を言えばファンタジーの映像化って老人がやるべき仕事なんですよ。少年少女の激しい闘争の世界、凄惨な世界を描くことになるから、若くて血気盛んな監督がやると大変なことになる。今回はメインのスタッフがみんなジジイだからさ(笑)。情緒になだれ込まないし、バランスがわかってる。いい時期にいい仕事をしたな、幸運な出会いだったなと勝手に思ってます。それに、今回丁寧にやってるなと思ったのが、扉の開け方から服の着方から全部設定を作っていることだよね。ファンタジーってスケールが大きいけれど、地に足のついた生活感も大事だから。そのうえで、アクションや何やらで快感原則を満たしていく。間違いなくやりがいのある仕事だし、何とか成功させたいよね。微力ながら、私もやれることはやりました。

――日向さんが、アニメに期待することは?

日向:一番楽しみにしているのは、動く犬たちです(笑)。しぐさや表情をとても細かく描いてくださっていて、これに色がついて毛がふわふわしたらかわいいだろうなと。あとは首都の街並みです。私が小説を書いた時は、洋風建築が立ち並んでいるような街を想像していましたが、西村監督から壁の代わりに衝立で仕切るという和の建築様式を取り入れたいとおっしゃっていただいて。アニメでどう描かれるのかとても楽しみです。

西村:今のお話で、またハードルが上がりました(笑)。映像作品としてはハードルが高いし、非常に大変なのも事実です。よほど大変そうに見えるのか、うちの嫁さんが俺に優しくしてくれるほど(笑)。でも、日向先生と押井さんからゴーッと圧を受けつつ、揃えた材料を使って調理するのは楽しくもあります。しかも、その材料が抜群にいい。視聴者に楽しんでもらうためにサービスするのが僕は大好きですし、映像作品はそうあるべきだと思っています。皆さんに喜んでいただける作品にしたいですね。

アニメ『火狩りの王』

『火狩りの王』メインビジュアル

人類最終戦争後の世界。人間は天然の火に近づくと、体が内側から発火して燃え上がる「人体発火病原体」に冒されていた。人が安全に扱える唯一の〈火〉は、炎魔から採れるもののみ。人々は結界に守られた土地で細々と暮らし、黒い森では火狩りが炎魔を狩っていた。ある時、紙漉きの村に生まれた灯子は、森で火狩りに命を助けられる。一方、首都に生まれた煌四は、母を病で失い、幼い妹とともに富豪の燠火家に身を置くことに。ふたりの生きざまが交差するとき、新たな運命が動き出す。

『火狩りの王』灯子

灯子(とうこ) CV:久野美咲
紙漉きの村に暮らす11歳の少女。薬を探して森に入ったところを炎魔に襲われ、見知らぬ火狩りに助けられる。自分をかばって命を落とした火狩りの形見を家族に届けるため、彼の狩り犬・かなたとともに首都を目指す。だが、その道中、思わぬ危機に見舞われて……。

『火狩りの王』煌四

煌四(こうし) CV:石毛翔弥
首都に暮らす15歳の元学生。火狩りである父は失踪し、母親は勤務先の工場が排出する毒によって死亡。優秀な頭脳を認められ、飛翔する炎魔・落獣からしか手に入らない雷火の極秘研究を行う代わりに、病弱な妹・緋名子とともに富豪の燠火家に引き取られる。

放送・配信日:2023年1月14日(土)午後10時30分より放送・配信スタート(第1話無料放送)
毎週土曜 WOWOWプライムで放送 WOWOWオンデマンドで配信

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西村純二
にしむら・じゅんじ●1955年、佐賀県生まれ。映画監督・演出家。押井守監督作品『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』演出。監督作品に『SAMURAI DEEPER KYO』『今日からマ王!』など。

日向理恵子
ひなた・りえこ●1984年、兵庫県生まれ。児童文学作家、日本児童文学者協会員。「雨ふる本屋」シリーズほか、『魔法の庭へ』『星のラジオとネジマキ世界』など著書多数。

押井守
おしい・まもる●1951年、東京都生まれ。映画監督・演出家。主な監督作品に『機動警察パトレイバー』『GHOST IN THE SHELL /攻殻機動隊』『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』など。

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