「3人それぞれの人生の記録」サニーデイ・サービス刊行記念トークショー(前編)

音楽

公開日:2017/10/7

 一緒にレコード屋に並んだり、好きなレコードを電話口で聞かせ合ったりした若かりし日の話。アルバム制作の裏側や、HIPHOPや漫画作品から受けた意外な影響の話。さらにはドロドロの解散劇まで、包み隠さず記録したサニーデイ・サービスの単行本『青春狂走曲』(サニーデイ・サービス 北沢夏音/スタンド・ブックス)。

 サニーデイ・サービスは、曽我部恵一(vo,g)、田中貴(b)、丸山晴茂(dr)からなるロックバンドで、1995年『若者たち』でアルバムデビュー。本書を執筆したのは、デビュー当時から同バンドを追ってきたライターの北沢夏音さんで、結成から25年間の3人のメンバーの人生を辿る内容。90年代に発表した原稿や、解散2年後のルポなどに加え、2016年から2017年に行った約40時間のインタビューをもとに構成している。

 その刊行を記念したトークイベントが、代官山 蔦屋書店で開催。北沢さんと、メンバーの曽我部さん、田中さんが行なったトークの内容をレポートする。

advertisement

「田中くん本来の毒舌感も生かされた本になりました」

 トークショーは、田中さんの“ラーメン評論家”としての活躍ぶりの賞賛から始まり、「サニーデイ・サービスの本を出す話は過去にあったのか」という話に。

 曽我部さんいわく、「こういう歴史をまとめる本の話はあまりなかったかな。基本的にそういう本はあまりやらないし」とのこと。今回は、デビュー当時から一緒に走り続けてきた北沢さんが執筆を担当するということ、編集を担当するのも旧知の森山裕之さん(出版元のスタンド・ブックス代表)だったこともあり、「絶対にいいものが作れる」と満を持して刊行に至ったという。本書は「ずっと一緒にやってきた人達との共同作業の本」(曽我部さん)なのだ。

 この本の発行に至るまでには、さまざまなドラマがあったのだそう。北沢さんは、この本のはじまりを2015年の年末と話す。「サニーデイ・サービスとPIZZICATO ONE(小西康陽のソロ・プロジェクト)のツーマンライブでDJをしてほしいと依頼されたんです。ピチカート・ファイヴとサニーデイ・サービスって、どちらも90年代の音楽シーンを作った重要なグループだったし、曽我部くんがソロになったときも、小西さんが立ち上げたレーベル、レディメイド・インターナショナルからソロデビュー曲の『ギター』を出している。それを出す経緯にも、森山くんが関わっていて。彼が雑誌『Quick Japan』の編集部で、最初に僕とした仕事が、曽我部くんと小西さんの対談だったんですよ」と語っている。

 さらに遡ると、本書には北沢さんが曽我部さんに95年に行った最初のインタビュー「YOUTH OF TODAY’95」も掲載。「だから22年分のストーリーが詰まっている。そういう意味では集大成の本になっても不思議はないんだけど、まだバンドが現在進行形だからね」と北沢さん。

そして話は、バンドの存続中に出たインタビュー本としては『GOTTA!忌野清志郎』 (角川書店)が赤裸々で最高!という内容に…。

 「ちなみにこの本も赤裸々ですけど、ここにいる2人にも、ドラムの丸山晴茂くんにも、事前に内容を見せていますよ」と北沢さん。原稿チェックでは赤字を入れることの多いという曽我部さんだが、今回のインタビューではほとんど直しがなかったという。

それは他のメンバーも同じ。田中さんが「間違えているところを直させてもらったぐらいですね。あと、悪口をカットしたりとか(笑)」と話したのに対し、曽我部さんが「悪口カットしたんだ、これで(笑)」とツッコミを入れる場面も。北沢さんいわく、「ここは表現を直されるかな?」と思った部分も田中さんは直さなかったそう。「田中くん本来の毒舌感も、ちゃんと生かされている本になりました」と会場の笑いを誘っていた。

「3人のメンバー、それぞれの人生を記録する本に」

 なお北沢さんは、メンバーに本書の感想を聞くのは今日が初めてだという。ふたりに感想を問うと、「読んでみて、晴茂くんという存在の大きさを改めて感じました。ライブやるのも、レコードつくるのも」と曽我部さん。

サニーデイ・サービスの丸山晴茂(dr)は、長引く体調不良により、現在はバンドの活動から離脱中。だがトークショーでは、丸山さんの話がたびたび登場。解散と再結成を挟みながら、25年を過ごしてきた3人のつながりの深さが、トークの端々から伝わってきた。

 なおサニーデイ・サービスの『DANCE TO YOU』(2016年8月リリース)の「桜 super love」という曲には、『君がいないことは 君がいることだな』というフレーズが登場。そのフレーズは、丸山さんのことを考えて出てきたものだと『青春狂走曲』では明かされている。

 北沢さんはその逸話に触れつつ、「この本もやっぱり晴茂くん抜きでは成立しなかったんですよね。もちろんサニーデイ・サービスの本なんだから、3人それぞれの人生を記録する本にしようという考えは最初からあったんだけど、それをちゃんと取材できてよかったなと思います」と語っていた。

 トークショーはその後、曽我部さんが「この話が本に載っててビックリした!」という、韓国で丸山さんが田中さんを殴った事件(!)の裏話などに発展。さらには下北沢のおでん屋で、曽我部さんと丸山さんの服がボロボロになるまで大ゲンカした話なども飛び出し、会場は爆笑。その後も結成から解散、そして再結成に至るまで赤裸々なエピソードが盛りだくさんだったので、その先の内容は次回、後編で紹介する。

文=古澤誠一郎