嫌いな女の幸せなんて見たくない――OLの本音が炸裂! 人間くさくて愛おしくなる、疲れたあなたを救う短歌集『限界OLクソ短歌』【書評】
PR 公開日:2026/10/1

『限界OLクソ短歌』(埃/産業編集センター)は、OLの日常をストレートな表現で鮮やかに詠む短歌集である。まずは、いくつか掲載されている歌を紹介しよう。
朝一で見たくなかった比較的嫌いな女の結婚報告(p.3)
この駅で降りる理由に使ってたマクドナルドは今はもうない(p.14)
いいですよ!なんでもやってやりますよ!心は殺しておきましたんで!(p.46)
社会人生活を一度でも経験した人ならば、少なからず共感するのではないだろうか。嫌いな誰かの幸せなど見たくない。気を遣う相手と同じ道で帰るのもしんどい。それでも清濁併せ呑んで、堪えて今日も仕事をするのである。この生々しさと勢いが、本書に掲載されている短歌の魅力である。日常の理不尽さへの苛立ちや、それを乗り越えようとする逞しさは、幅広い年代・属性の人が共感するものだろう。
働く人に勇気をくれる、OL賛歌の数々
目次は春夏秋冬に分かれており、さらに細分化されたサブトピックが掲げられている。そのサブトピックに紐づく形で、職場風景、恋愛事情、あるいは怠惰な私生活といったテーマに分類された短歌が展開されていく。
歌から浮かび上がってくるのは、パワフルで茶目っ気があり、それでいて感受性豊かで、繊細な心を併せ持つ一人のOLである。ときに自暴自棄になる一方、自分自身を大切にしたり、甘やかしたりすることも上手な人物像を想像できる。このスタンスで生きたい、と勇気をもらえるはずだ。
朝履いたときからほんとは気づいてた伝線 日和らず我が道を行け(p.68)
個人的に好きな歌である。かつては私もOLだったので、ストッキングの伝線に気づいた朝の憂鬱がどれほど重いものかはよく知っている。それでも「我が道を行け」という強い口調で締めるこの歌は、働く人間の背中を押す力があると感じた。
いつまでも黙らないのでしかたなく三枚おろしにさせてもらった(p.183)
お客様への対応や、上司との対話で膨らむストレスも、短歌にすればこんなにも軽やかに解消できるのか、と爽快な気持ちになる。苦々しい想いすらスッパリと切り捨ててくれるような、潔い歌が多い。これもまた、日々ストレスを抱えて職場で戦っている読者にとっては、一種の良い癒しとなるだろう。
短歌の先に広がる物語を想像して楽しめる
本書には、いわゆる連作短歌も含まれている。印象に残ったのは、「湘南新宿ライン逗子行き」という名でまとめられた連作だ。通勤途中、電車を乗り換えて湘南新宿ライン逗子行きに乗るところから始まり、OLが海に行く一連の流れが歌になっている。それが冬であることも含め、想像力を掻き立てられる。
反射する光の一部になりたくて削れたヒールを脱ぎ捨てて海(p174)
この歌を詠んだ瞬間、光り輝く冬の海と、ハイヒールを脱ぎ捨てて砂浜を走るOLの姿を思い浮かべられた。彼女はストッキングを履いているだろうか。それでもきっと、冷たい水面に足を運ぶのだろう。続く短歌には、ふいに訪れた海での時間が、彼女にどんな気付きを与えてくれたのかも描かれている。まるで一つの物語を読んだかのような、満足感のある連作だった。
紹介したのは、ほんの一部である。ぜひ本書を手に取り、一人のOLが一生懸命に生きる姿を、三十一文字から味わってほしい。この短歌集が手元にあれば、くじけそうな日も大丈夫だと思える歌と出会えるはずだ。
文=宿木雪樹
