「女子の控え室はピリピリしてる(笑)」中野友加里さん×小塚崇彦さんが、今だから語れるフィギュア現役時代の裏話とは?

スポーツ

2017/10/28

『トップスケーターのすごさがわかるフィギュアスケート』(中野友加里/ポプラ社)

 『トップスケーターのすごさがわかるフィギュアスケート』(中野友加里/ポプラ社)の発売を記念して、著者の中野友加里さんと、元フィギュアスケーター小塚崇彦さんのトークイベントが開催された。

 同じコーチのもとで切磋琢磨していたこともある2人。中野さんは小塚さんを「たかちゃん」と、そして小塚さんは世話焼きな中野さんを「新横の母」と呼ぶこともあったそう(笑)。

 気の置けない2人のトークイベントは、現役時代のお話を中心に、現在の生活について、また来年の平昌オリンピックの展望など、大変興味深いものばかりでした。

■「怒られ役」があった? 新横浜のスケートリンクで一緒に練習をしていた時代

中野(敬称略):たかちゃんは、おじい様やお父様から受け継いだDNAというか、やっぱりすごくスケーティング技術が素晴らしい。練習の時、いつも間近で見ていたんだけど、どうやったらあんなに氷に吸い付くようなスケートができるんだろうと、いつも惚れ惚れしていました。何かコツとかあったんですか?

小塚(敬称略):まずは一番、自分が気持ちよく滑ること。自分が思い描いたものを氷の上で表現するのが一番大事で、じゃあ、そうならなかった時どういう風にすればいいんだろうと考える時間も必要だなって。

中野:(コーチの)佐藤信夫先生のもとで「小塚選手みたいなスケーティングスキルを身につけたい」と練習をしていたんですけど、次の日あらゆるところが筋肉痛になって「スケーティングってこんな細部まで筋力を使うんだ」と思ったのが印象的だった。やっぱり無駄な力がなく滑るっていうのは、スケーティング技術が高い証拠だと思うので、私はすごく憧れてました。

小塚:ありがとうございます。そんなに褒められてもなんにも出ないです(笑)。

中野:「今日の信夫先生は機嫌悪いよね」とかそういう話もしたよね。「怒られ役」があって。2人だけで練習する時間に、どちらかが怒られて、見せしめにされる。練習の空気がダレてしまわないように、お互いの集中力を高めるため信夫先生はどちらかを怒ってピシッとさせる。……たかちゃんが多かったかな。

小塚:そうね。3日に1回くらいはカミナリが落ちていたね。

中野:信夫先生が怖い分だけ、(同じくコーチの佐藤)久美子先生に優しさがあって、良いバランスでしたよね。

小塚:そうですね。いい感じに逃げ道を作ってくれてた気がする。

中野:一般の方に言われるのは、キスクラの信夫先生は「仏様みたい」と。実は全然そんなことないです!(笑)。

小塚:確かにリンクを離れている時はカミナリはないけど、教えてる時は、色々あったよね。昔は。

中野:でも怖い先生だから、成長できた。いつも身が引き締まりました。

小塚:そういうピリッとするものがないと、どうしてもこう……ダレていっちゃう。練習がなぁなぁになってしまって、段々成長しなくなっている時に、そういうカミナリがあるからこそ、ちょっとずつ成長ができた。そういったところも含めて、信夫先生はリンクの雰囲気を大切にしてたんじゃないかな。

■現役時代、苦労していたことは?

中野:体形を維持すること。今振り返っても壮絶だったなと。嫌だったことは陸トレ。腹筋とか嫌いだったんですよね。腹筋は、「腹筋でジャンプを跳ぶ」と言っても過言じゃないくらい大事な筋力だったんですけど。時々サボってしまったり(笑)。あと走るのも嫌いだった。

小塚:練習は嫌いでもやらなくちゃいけないので、しょうがないと思ってるんですけど……。僕は結構、人と会うのが好きで、色んな人がご飯に誘ってくれたりするんです。やっぱり練習を第一にもってこなくちゃいけないから、そういうことで断るのがイヤだった。性格的にNOと言えないっていうか。行くとか行かないとか、そういうことを考えるのが嫌だった。

■滑走順で嫌いだったのは3番滑走。理由は……

中野:本の中で滑走順についての好みを書いていて、6選手いた場合ショート・フリー共に、私は2番滑走が好きだったんですけど、たかちゃんの場合はどうですか?

小塚:2・3番目は嫌いだった。靴が脱げないから。

中野:そうだったんですか!?

小塚:脱いだとしたら、すぐ履かなくちゃいけない。あと6番目も……。

中野:6番はもう割り切りですよね。私の場合ですと、6分間練習を滑った感覚がほとんどない。一回リセットしないといけないくらい。女子だと30分から45分くらい待つんですけど、それだけ陸の上にいると、だいぶ感覚変わっちゃいますよね。

小塚:最終滑走の6番目の時は靴を脱いで、ぼーっとして足ぶらんとして、力抜いて。それからウォームアップ。もう一回身体を作り直すんですよね。10分ほど身体を動かして、また集中して呼吸法をやったり。5秒吸って、5秒吐いて。それが交感神経と副交感神経のバランスをとるのにすごくいいって。そういうルーティンをやって、靴を履いていく。

世界ジュニアの時、その靴を履くのが早すぎて……。緊張しすぎてルーティンが早くなっちゃってた。それでチームリーダーの方に3回止められたことがある(笑)。

■現役時代、試合で緊張をほぐすためにやっていたこと

中野:ジャンプは本番になると力んでしまうことが多い。一番いいのは、うまく肩の力が抜けた時に、スコーンと決まること。野球でいうと、バッターの力が一番抜けた時にホームランになるのと同じだと信夫先生はおっしゃっていた。とてもわかりやすいたとえだったけれど、やっぱりどうしても、試合では力が入ってしまう…。

小塚:その力をどうやって抜くのか、は大切ですよね。力んでやる気になるだけじゃなくて、集中して、頭は冷静で、心は熱く、身体はしっかり動かなくちゃいけない。

中野:私はどの試合もバカみたいに緊張してたんですけど、緊張を解す方法ってありましたか? 私はなくて、当時だったら逆に聞きたいくらいだった。

小塚:緊張はね。ルーティンが、流行ってるよね。僕の場合は出発する1時間前におにぎりを食べる。着いたらバナナを食べる。靴は左から履く。でも、そういうのは自分を納得させるだけの自己満で、安心感ってだけなのかなって。

そうじゃない緊張をほぐす方法は2つあって、1つは呼吸で息をとにかく吐く。緊張すると、吸うことばっかりで過呼吸みたいになってしまいますので。

もう1つは、緊張するとあっち行ったりこっち行ったりウロウロしはじめるんですよ。だから、とにかく立ち止まる。試合は気持ちがどんどん前に行っちゃうから、爪先に乗ってることが多くて、トゥに引っかかりやすい。だから立った状態で、後ろに乗ったり前に乗ったりとか「自分の重心の位置」やバランスを確認しながら、自分を落ち着かせる。

中野:わかる! ちょこちょこ動いてたので、私もよく止められてました。本番前にやってると体力を奪われてしまうですよね。私はそれを信夫先生に注意されて「そんなにちょこまか動かないで大丈夫」と言われたんですけど、どうしても不安だから動いちゃう。

小塚:緊張するとね、普段と違うことやっちゃったりする。

■「女子の控え室はピリピリしてる(笑)」男子と女子で控え室は違った……!?

中野:全日本選手権、女子の場合フリー前の控え室は、すごくピリピリしている。みなさん集中力を高めている。集中して緊張感を保っている。そして演技のイメトレとかを多分されていると思うんです。ほとんど会話がないんです。その状態が1時間くらい続くんですが、男子はどうですか?

小塚:そういうピリピリ感は、女子の試合からも感じますね。男子は、もちろんそれぞれ集中してやってはいるんですけど……。

僕がすごく覚えているのは、2008-2009年シーズンの全日本で、最終滑走の前に、友人としても仲の良い選手から「たかちゃん。緊張するわ」って(笑)。いや、わかるけどさ。わかるけど、今、それ話す? みたいなことは一回ありましたね(笑)。

基本的には緊張感があって、あんまりしゃべりはしないけど、「みんなで頑張ろうぜ」みたいな感じで、試合に向かってくという方が多いですね。

中野:もちろん、試合が終われば仲はとてもいいんですけど、女子はわかりやすくピリピリしています。男子とはまた違った集中力かなと思いました。

■スケーターの体力の衰えは23歳から?

中野:スケーターって1年1年どんどん体力が蝕まれますよね。私は22歳くらいまで4分間滑るのは、全然平気だったんですけど、突然来ましたね。久美子先生には「20歳超えたら突然体力の衰えが来るから、怪我とかに気を付けていかないとね」ってお話をされていて、私の場合、それが来たのが23歳で……。あちこち痛くなる、4分間滑るのがキツくなるっていう感じだった。

小塚:20歳もそうかもだけど、すごくこう……23歳超えると、もっと感じるようになった気がする。

中野:私はそれまでと同じ練習の分量ができなくなったり、したくても身体が追いつかなかったりとか、その後の怪我に繋がったりっていうのがありました。

小塚:それって(加齢だけじゃなくて)「蓄積した疲労」もあるのかもしれない。(小さい頃からスケートを始めて)その20年弱やってきたことの蓄積っていうのが、出てるのかも。

だから変な話、歳がいってからスケートを始めると、体力の衰えを感じるのは遅れる可能性もあるかなと。その人がどれだけ練習をしてきたかっていうのが、年月で出てきちゃうのかもしれない。

中野:真央さん(注:浅田真央元選手)が、あの年齢まで続けたのは尊敬に値します。最後の方は4分間滑るのがキツかったと思う。本当によく頑張ったなと、勝手に思っちゃいましたね。

■お互いの演技で、一番印象に残っているのは?

小塚:僕自身の演技で言えば、2011年の世界選手権で銀メダルを獲った時の「ピアノ協奏曲」が一番印象に残っている。パーフェクトで滑った時の「疲れなさ」が。

中野:スケーターって、転ぶと疲れますよね。

小塚:友加里ちゃんのプログラムなら、やっぱり「ジゼル」かな。ぴったりはまってた感じがする。

中野:一緒に練習して、一番頑張ってた時ですね。

私は「SAYURI」。和の雰囲気は日本人にしか出せないものがあると思うので、そういうのがうまく伝わればいいなと滑っていた。衣装もすごく気を遣いました。着物をスケートの衣装にすると、すごく難しいんですけど、帯を取ったり斜めの線をスカートまで斜めに入れたり。衣装と共に、すごく思い出に残っているプログラムですね。

たかちゃんのプログラムだと「ロミオとジュリエット」。一緒に練習してたっていうのもありますし、後半、一番盛り上がるところで2つ目のトリプルアクセルを跳ぶ。そこが決まってくるかどうかが大切な場面で「がんばれ~、がんばれ~」って手に汗握る思いで見ていました(笑)。

■現在、お2人とも赤ちゃんを子育て中。生活は子どもが中心に

中野:自分の子が一番かわいいですよね?

小塚:一番かわいい(笑)。

中野: 「子育てをしていて楽しい瞬間」はいっぱいあるんじゃない?(笑) 夜中は起きる?

小塚:夜中は寝てます。すみません(笑)。寝たら起きない……。

中野:夜中に旦那さん起きてくれないって悲しい時があるんですよ。お母さんだけ、頑張って起きるという…。

小塚:あと、楽しい瞬間は……母乳って僕はあげられないじゃないですか(笑)。でも離乳食だったらあげられる。そこはちょっと嬉しかった。ミルクをあげたこともあるんですけど、離乳食は自分と同じものを食べてるっていう「共有感」が特に。

中野:私は保育園に迎えに行った時に、すごく嬉しそうにしてくれること。「自分をママと認識してくれてる!」っていうのが(笑)。

■現役時代を振り返り、「今」と比べてどちらが幸せ?

中野:どちらも幸せ。それぞれの幸せがあるなぁ。

小塚:うん。試合の時にはその時にしか感じられないものがある。当時、感じていたかっていうと、そこまででもないけど、今になって「頑張ってたんだな」とか「こういう瞬間幸せだったな」と思い返すことはある。

■平昌オリンピックまであと4か月――展望は?

中野:すごいと感じているのは、たかちゃんが現役の頃は女子がメインイベントで、すごく取り上げられていた感じがするけど、いつの間にか男子が抜いてしまったかなと。もちろん日本女子もとても強いですし、誰が出ても勝てる選手だと思うんですけど、男子は、急激に成長した。

小塚:そうですね。色々な選手が育ってきている。羽生選手(注:羽生結弦選手)もそうですし、宇野選手(注:宇野昌磨選手)も。その下もちょっとずつ育ってきているので、もうちょっと団塊が出来て、激しい試合を見せてくれると、より盛り上がるかなって。でも僕はフィギュアスケートの花は女子だと思っていて、やっぱり女子があっての男子というのがフィギュアスケートだと思っている。

中野:女子は(五輪出場枠が)2枠しかないので、選手たちは大変な戦いになると予想されます。

小塚:実力が拮抗しているからこそ、頑張って成績出さないと、なかなかね。

中野:女子はやっぱり若手の戦いになるのかなって気はしてますけど……。男子は、どうですか。

小塚:そうですね。日本のトップツーがどこまでいくか。2017年の世界選手権を観ていると……。五輪も最終グループは「あの6人」なのかなと思いつつ、そこにどうやって他の選手が食い込んでいくのか。それぞれの戦い方が楽しみです。

■小塚さんの「これからの目標」とは?

小塚:スケートはもちろん、スポーツ全体としての普及活動をやっているんですけど、これは強化活動ではなく、三角形の底辺を広げる活動。三角形の頂点を引っ張ってくれてる先生たちはいるので、色々な人に(友加里ちゃんの本を読んでもらって)スケートを知ってもらい、見てもらって、やってもらう。氷に乗ってもらうことで、さらにフィギュアスケートが広まっていくのではないかと思っています。

取材・文=雨野裾 写真=内海裕之

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