たった1コマであなたもニヤリ。『サラリーマン山崎シゲル』がやみつきになる理由 ――作者・田中光インタビュー

アニメ・マンガ

2017/11/15

 SNSに投稿したイラストネタが注目を集め、著名人によるリツートで人気に火がついた『サラリーマン山崎シゲル』。ほとんどが1コマで完結する、起承転結で言うならば全てが結というスタイルは、著者であるお笑い芸人・田中光は決して計算したものではないと言うが、インスタ映えなど一目見た瞬間のインパクトがものを言うSNS文化にぴったりとハマっている。そして山崎シゲルの常人には想定外の飛躍したボケと部長のゆるいツッコミが、一つずつ完結しているにも関わらず、スクロールする手を止められない中毒性を生み出しているのだ。今回、第4巻となる『サラリーマン山崎シゲル Love&Peace』が発売されるタイミングで、その中毒性がなぜ生まれるのか話を聞いた。

なんぼ面白くても、見てもらわないと伝わらない

――Twitterに絵をアップし始めた理由から教えてください。

田中 当時、吉本をやめて東京に出て来て、トリオのお笑いをやっていたんです。そしたら新しい事務所には劇場がなくて、吉本のように劇場についてるファンがいなかったんですよ。なので「こんな面白いことを考えている人たちなんだよ、僕たちは」っていうのをPRする目的で初めたんです。「得意じゃないわぁ、こういうの」と思いながら。

――SNSは苦手なんですか(笑)?

田中 Twitterとかブログとかほんとにダメなんです。設定したり登録したり、更新する度に写真をはっつけて、文字数制限もあるし……とか考えてると「ああ!」ってなっちゃうんです。だから今はもう全部マネージャーさんにお願いしてます。大変な時に「あれアップしといてください」とか、多分腹立ってると思うんですけど(笑)。

――その後二階堂ふみさんなど著名な方がリツイートしたことで、フォロワーが増えていきました。

田中 やっぱりなんぼ面白くても、見てもらわないと伝わらないんですよね。キムタクが乗ってたバイクがバカ売れする、みたいなのあるじゃないですか。バイク自体はとってもいいバイクなんですけど、それまでそんなに売れてなくて。でもキムタクが乗ったから注目されるみたいな。入り口がキムタクでも、「このバイクほんまにええやんけ」って最終的にバイクに注目してくれたらいいんですよ。今は本当に作品が多いですし、インスタでもプロじゃない人がエッセイ漫画とか書けちゃうじゃないですか。そんな中でどうしても埋もれやすいので、ぜひ有名な方に定期的にリツイートしてもらいたいですね(笑)。

――(笑)。フォロワーが増えて来た時は自分の中でどう感じましたか?

田中 一日一万人くらいのペースで増えていったので、びっくりです、すげえなぁと。あとちょっと不安でした。「この売れ方めっちゃ怖いやつちゃう」みたいな。当時ちょうど一巻が発売される直前で、「とりあえずビレバンさんとかに置いてもらって、じわじわ火がついていった方が根強くいけるかな」みたいな話をしてたんですよ。あんまり売れるっていう段取りではなかったんです(笑)。それが突然バーンっていったんで、もちろん嬉しいんですけど、「すぐ飽きられるんちゃうか」みたいな不安もありましたね。

メインディッシュがいきなりきてる状態が、世の中の流れに合ったんやろうなって

――でもその後も人気は衰えませんでした。その理由は1コマや1ページで完結するというキャッチーさにあるのかなと思ったのですが。

田中 それは僕も感じていました。例えばYouTuberって、内容はお笑い芸人が作るお笑い、っていう面白さじゃないこともあるじゃないですか。でも見ちゃうのは、最初に興味のあることを持ってきてるからだと思うんですよね。今ってスマホでさっと見れたりするから、テレビの前にわざわざいって番組が始まるのを待って観るという時代ではなくなってきたと思うんです。最初1コマ漫画にした理由は、当時Twitterにアップできる画像の枚数が一枚だったからというだけなんですけど、たまたまそういうメインディッシュがいきなりきてる状態が、世の中の流れに合ったんやろうなって感じです。
あとは一枚で完結されているっていう気持ち良さもあるんとちゃいますかね。5・7・5じゃないですけど、その決められた枠に納める粋というか気持ちよさみたいなものが、日本文化っぽいんじゃないかなという気もしています。

――これまでのコントや漫才の作り方とは違って、一枚に内容をまとめるのは大変でしたか?

田中 いや、大喜利も好きだったので大喜利の感覚でやって、そんなに行き詰まったりはしなかったですね。漫才・コントもどっちかっていうと大喜利をつなぎ合わせたようなネタが多かったし、全く別物というわけでもないです。あとは引き算の楽しさというのもあると思います。ギャグ漫画は引き算だと言われていて、あんまり描き込みすぎると情報量が増えて読むのが大変になるから、余計なものを減らしていく作業が必要なんです。1ページ漫画も限られた枠に納めるからこそ、言葉もあんまり喋らせすぎると野暮になっちゃうし、説明臭くなるのも嫌やし。言葉を削いで、なるべく状況は絵で表現して、とか考えるのが楽しいです。

――すでにかなりの数を描いていると思うんですけど、行き詰まったりはしないんですか?

田中 確かに今まで何個挙げてきたかわからないくらいにはなってるので、いささかしんどいなって思う瞬間はありますけど、お笑いの芸歴的には16年目くらい。ずっとやってきたことにはなるんで、ある一定のライン以上は出せるっていうのはあります。ただ、自分だけだと題材が絞れないんですよ。作ってる最中に他のアイディアが気になっちゃったりして。集中して考えるには「これでやりなさい」って言われた方がいいです。漫才を作ってた時もネタは僕が考えていたんですけど、相方に「警察」とかお題だけメールで送ってもらってました。お題というのは、いわば入れ物みたいなものなので、そこを悩む時間がもったいないなあと。

――いつもどこで作業されてるんですか?

田中 事務所で描いてるんですけど、だいたい社長は留守なので、社長の机に座って描いてます。今やっている47都道府県シリーズでいえば、パソコンで「北海道といえば」で検索して、出てくる上位3つくらいの中で「これ作れそう」っていうのから膨らましていく感じです。

普通の人が変なことをしていた方が不気味だったり面白かったり、怖さもある

――設定をサラリーマンにした理由はなぜですか?

田中 漫才やコントをしていた頃からそう思ってるんですけど、普通の人たちがおかしなことをしていた方が、落差があると思うんですよね。もちろんギャグ漫画として変な姿のものが出て来て変なことをするというのもあると思うんですけど、普通の人が変なことをしていた方が不気味だったり面白かったり、怖さもあるじゃないですか。

――ご自身はサラリーマン経験はないとのことですが、実情がわからなくて困ったりしないですか?

田中 なので詳しいことは全く出てこないですね(笑)。事務机っぽいのと電話っぽいのとパソコンがあるぐらいのことしか会社らしさはないですよね。あとは「サラリーマンじゃなくてもいいやんか」って言われてしまえばそうだなっていう。部長も具体的にどんな役職かはわかってないです。会社の規模にもよると思いますけど、クラウン・レクサスくらいに乗るんかなあ、一応一戸建てはちゃんと持ってるのかなあ、くらいのイメージではいますけどそれくらいです。

――その他に山崎シゲルと部長について設定やイメージしていることはありますか?

田中 それも漫才の頃からの話ですけど、バンっていうツッコミはあまりしないってことですね。「なんでやねん!」みたいなのがもともと得意じゃなくて。幼馴染とコンビを組んで漫才をやっていた頃のツッコミの姿勢、というか雰囲気で喋らせていたりします。当時のネタをまんま漫画にしちゃったやつとかもあって。当時は劇場のアンケートに「何が面白いのかわからなかった」とか書かれて、「面白いのになあ」と思ってたんですけど、今思えば言葉で伝える能力が足りなかったんだなと。イメージさせよう、頭で描いてもらおうって思いすぎて言葉が増えてしまったりして、笑うってところまでに至れなかったのかなと。絵はイメージしてもらう必要がないので、そこが強みだと思います。

――今後の目標を教えてください。

田中 海外の人が見たらどう思わはんのかなあ、って気になったりします。これまで台湾で出版したことはあるんですけど、海外の人にも読んでもらいたいですね。ただ、例えば英語だと左から右に読むんですけど、今の二人の立ち位置は右から左に読んでいく位置で配置してるとか、課題も多いと思うんですけど。でも隙あらば「世界」っていうことを時々口にしていこうと思います。

取材・文=原智香

田中光さんが、ダ・ヴィンチニュースのために『山崎シゲル』を描き下ろしてくれました!

【『サラリーマン山崎シゲル Love&Peace』発売記念・田中光サイン会】
11月18日(土) 13:00~熊本・蔦屋書店 熊本三年坂店
11月18日(土) 19:00~福岡・六本松 蔦谷書店
11月19日(日)15:00~長崎・TSUTAYA BOOK STOREさせぼ五番街店
※参加方法等の詳細は店舗にお問い合わせください。