林 遣都「命を削りながら役に向き合う人しか、俳優として生き残れない」

あの人と本の話 and more

2018/2/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌巻頭の人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『チェリーボーイズ』で、25歳のこじらせ童貞を演じた林遣都さん。名優・山﨑努さんの著作『俳優のノート』から学んだ役者にとって大切な姿勢とは。

林 遣都さん
林 遣都
はやし・けんと●1990年、滋賀県生まれ。2007年、映画『バッテリー』の主演でデビュー。日本アカデミー賞をはじめ数々の新人賞受賞。出演作に映画『DIVE!!』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、ドラマ『火花』、舞台『子供の事情』など多数。現在ドラマ『FINAL CUT』出演中。2月公開映画『野球部員、演劇の舞台に立つ!』出演予定。
ヘアメイク:SHUTARO(vitamins) スタイリング:菊池陽之介 衣装協力:ネイビーリネンジャケット 4万2000円(アンデコレイテッド マン/アンデコレイテッド マン TEL03-3794-4037)、ネイビーストライプシャツ 2万5000円(ユハ TEL03-6659-9915) ※価格は税別

「仕事に命を注ぎ込むとはこういうことなんだと学ばせていただきました」と林遣都さんが語るのが『俳優のノート』。舞台『リア王』の稽古前から公演に至るまで、山﨑努さんがいかにリア王という役柄をつくりあげていったのかが綴られた、役者としての創作ノートだ。

「これまで自分の向き合ってきた役に対する姿勢の物足りなさや浅はかさを痛感しました。納得いく瞬間なんてひとつもなくて、常に満足することなく思索を続ける。どんな役者からも才能を見出そうとし、年齢関係なく対等に仕事をしていく姿に、とにかく圧倒されて。これほど真摯な姿勢で芝居に向き合っているからこそ、役になりきって、ここではない場所を生きることができる。観る人を別世界へ誘い、のめりこませることができる。きっと努力すればするほど、積み重ねたものは自分に返ってくるんだと思ったら、あらためて、この道を選んでよかったと思うこともできました」

 10代のころは、自分の代わりなんていくらでもいると思っていた。そんな思いを吹き飛ばすものが本書にはあった。

「僕が悩んでいるようなこともきっと山﨑さんは越えて、今があるんですよね。努力次第で評価は変わる。逆に言えば、今どれだけ仕事があっても気を抜けば簡単に落ちていく。だからこそ与えられた役ひとつひとつに真摯に向き合って、自分にしかできないものにしていかなきゃいけないんだって思いました。映画『しゃぼん玉』での市原悦子さんとの共演をはじめ、ありがたいことに大先輩方とお仕事をさせていただく機会がたくさんあって、その中で気づいたのが、命を削りながら作品に取り組み続けた人しか残っていないんだ、ということ。僕もその一人になるためには努力を怠ってはいけないし、どんな役にも対応できるように知識と技術を身につけていかなくちゃいけない。あんまり読書したり映画を観たりするタイプじゃなかったんですけど、勉強することは大事だなと思います」

 本書を林さんに薦めたのは、昨秋の舞台『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』で共演した松澤一之氏。俳優としてのさらなる自覚が芽生え始めている今の林さんにこそ、本書を読んでほしいと感じたのではないだろうか。

「そうなんですかね。去年、『バッテリー』でスクリーンデビューしてからちょうど10年だったんです。その節目の年に『しゃぼん玉』やドラマ『火花』といった、監督、作品にも恵まれて、続けてこられて本当によかったなと思いましたし、また10年後に同じ思いを味わえるよう頑張っていきたいです」

 新しい10年目の始まりとなる映画1作目は『チェリーボーイズ』。25歳・こじらせ童貞の3人組による青春群像劇だ。主人公・国森は、演じた林さんをして「一言で言えば……最低人間」といわしめた、見栄っ張りで卑屈な男。監督にはじめて会ったときには「きみにこういう気持ちがわかるのか?」と訊かれたという。

「僕も学生時代は目立つほうではなかったし、監督にも女性経験を含めてコンプレックスも全部さらけだしてお話しして。監督自身のお話もうかがうなかで、男同士だからこそ通じ合う確かな瞬間みたいなものがあって、それが作品を読み解く鍵なのかなと思いました。ただ、友人・高杉役の前野(朋哉)さんにも『林くんがやるとは思わなかった、想像がつかない』と言われたので、二人に言われるということは、視聴者の方も似たような印象を抱くのだろうなと。それを覆していかなきゃいけない、見るからに童貞で卑屈な男の鬱屈感を、ひとつも嘘のないように演じなくてはいけないと思いました。見た目の童貞っぽさはもちろんですけど、ふとした瞬間の人との距離の取り方とか、女性に接したときの視線の動きとか、あらゆることを模索して。普段はあまりしないんですけど、ずっと鏡の自分を見ながら考えていたら、わけわかんなくなって、自分で髪を切ったりしてました(笑)」

 脱童貞すれば最低な今を変えられる。むしろ、いま脱童貞しなければ一生最低なままだ。そう声高らかに宣言し、ある計画をたちあげる国森。友人の高杉と吉村(栁俊太郎さん)を巻き込んだ計画は、最低ではあるが、切実で、3人の奔走は滑稽ゆえに愛おしい。

「ふだんは雑な扱いをしているけれど、高杉と吉村を失ったらさみしくてしょうがない国森。誰ともうまく関係を築いてこられなかった彼が、本当の意味でふたりに支えられて友達になっていく姿が、僕はとても好きなんです。そして僕自身、前野さんと栁くんがいてくれたからこそ僕も国森として存在できていたんだという実感があって。できあがった映画を観たときも、二人のふとした表情やしぐさに目を奪われてばかりで、その素敵なお芝居があるからこそ国森も主人公として立てていた。お芝居って本当に、対話のなかで生み出されるものなんだなと強く感じた作品でした」

(取材・文:立花もも 写真:鈴木慶子)

 

映画『チェリーボーイズ』

映画『チェリーボーイズ』

原作:古泉智浩(青林工藝舎) 監督:西海謙一郎 出演:林 遣都、栁 俊太郎、前野朋哉、池田エライザ、石垣佑磨 配給:アークエンタテインメント 2月17日(土)より シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー 
●父が倒れ地元に戻ってきた“クンニ”こと国森(林遣都)。東京で音楽の夢に破れ鬱屈を抱える彼の友達は、特殊な乳首をもつイケメンの“ビーチク”(栁俊太郎)と、内気でオタク気質の“カウパー”(前野朋哉)だけ。25歳にして童貞をこじらせている3人は、うだつのあがらない今から抜け出すためにある計画を企てる。
(c)古泉智浩/青林工藝舎・2018東映ビデオ/マイケルギオン