「女相撲とアナキスト」――同じ夢をみて闘った/映画『菊とギロチン』 瀬々敬久監督インタビュー【プロレス特集番外編】

エンタメ

2018/8/17

 構想30年――。『64-ロクヨン-前編/後編』などの大作で知られる瀬々敬久監督があたため続けてきた映画『菊とギロチン』がついに完成し、現在公開中だ。世界を変えようともがく、アナキスト集団「ギロチン社」と女相撲の一座を描く「青春映画」だ。監督の本作への思いを、また本誌特集に続いて「プロレス」との共通点についても語っていただいた。

「他者をも変えられるかもしれない」。その気持ちが素敵だと思った

――瀬々監督が大正時代末期のアナキスト集団「ギロチン社」のことを知り、映画の構想を最初に思いついたのは、30年前だそうですね。彼らと女相撲の一座を組み合わせて作品にしようと思われたのはなぜでしょう。

瀬々監督 ギロチン社の男たちは、巻き上げた金は酒と女性に使う、というような男子的ないい加減さがあるんですけど(笑)、「世界を変えたい」とか「世の中をよくしたい」とか純粋な部分を持っていた。でも彼らのことだけを描いたら、観た人には「青い!」と思われてしまうかなと。

――確かに、そうかもしれません。

瀬々監督 一方で女相撲の一座の人たちは、封建的な社会の中で「強くなりたい」とか「自分を変えたい」という思いで家出同然に飛び出してきた。(主人公の力士)花菊は、貧乏な人もお金持ちになれるかもしれないとか、体が弱い人も強くなれるかもしれないとか、自分のことだけ考えるのではなくて、社会的な視座まで持っている人として描きたかった。それがギロチン社の男子たちの気持ちとどこか通じるような気がして……どちらも「他者をも変えていくことができるんじゃないか」と思っているところが素敵だなと。2つをミックスしたら、お互いの弱い部分を補強できるかもしれないと思いました。

――思想が共通していつつ、対比にもなっていますよね。元の生活に引き戻されるかもしれない中で命をかけて相撲に挑む「実」のある女性たちと、大きな目標を掲げつつどこか現実味のないままでいる男性たちと……若干、男子には苛立ってしまいました。

瀬々監督 そうだよね。でも男子からすると、ああいう男子をかわいいと思ったりもするんですよ(笑)。

相撲の試合の中で、それぞれの個性を見せたかった

――女相撲の取り組みのシーンを、かなりしっかりと見せていますね。とても迫力があって、見応えがありました。

瀬々監督 こういう映画には珍しく、1試合1試合を丹念に見せています。試合の中で、それぞれの力士の個性を紹介していきたかったんですよ。日大の相撲部に稽古に行ったんですが、コーチと相談しながら試合の内容を組み立てていきました。コーチが「全部を覚えなくていい。その子にあった技があるから、それを見つけてあげる」と言ってくださって。「その技を一生懸命やればそれなりに見えるし、それが個性になる」と。かなりプロレスと共通するところがあるよね(笑)。

――ものすごくプロレスっぽいです! 終盤で警察と女力士たちとの乱闘シーンがありますが、そこもかなり長く時間をとって見せていきますね。戦う女の人たちのかっこよさや切なさみたいなものが出ていて素晴らしかったです。

瀬々監督 あそこはリハーサルなしの、一発本番だったんです。花菊の動きだけは決めていましたが、ほかに決め事は一切なし。ガチです、ガチ(笑)。

――ガチでしたか! 指示もなく、みなさまよくあそこまで動けますね。

瀬々監督 2カ月くらい稽古していましたからね。

――撮影中は合宿のようなこともされたようですね。

瀬々監督 舞鶴でのロケは旅館だったので、女子たちは大広間で雑魚寝でした。

――そこでできる人間関係もあったのでしょうね。急ごしらえの仲間ではないという感じが伝わってきました。ちなみに女優さんたちは、まわし姿になることに抵抗はなかったのでしょうか。

瀬々監督 (花菊役の)木竜さんは、最初にまわしをつけた瞬間「あっちゃー」って思ったそうです(笑)。でもだんだん慣れてきて、ゆるんできたら自然に直して、力士がやるようにパンパンってまわしを叩くようになった。自分でもその姿が「様になってるな」と思ったそうですよ。

「素のキャラ」が出せているかどうかが大事

――いくつかの恋物語が描かれていながら、甘いラブシーンのようなものはほとんどないですね。叫び合ったり、取っ組み合ったりしているシーンのほうが多いです。

瀬々監督 なんかね、甘いシーンは似合わないような気がしたんです、この映画には。

――役者さん自身の熱や「生っぽい」部分が、ダイレクトに伝わってくる映画でした。

瀬々監督 その人の持っている「素のキャラ」みたいなものが出せているかどうかが大事だと思っていて。プロレスでも、そうですよね。

――すごくよくわかります。「俺たちは、お前の本当が見たいんだ!」というか。

瀬々監督 それ、それ(笑)! 映画を撮る時は、俳優に対していつもそう思っています。

――プロレスラーはそのことに慣れている気がしますが、俳優さんにとっては、素の自分を出すのはかなりハードルが高いことのように思います。

瀬々監督 女力士たちは、稽古をして、自分の個性を自覚していく中で、素を出せるようになっていったと思います。

――ギロチン社のリーダー・中濱鐵役の東出昌大さんを始め、男性陣からもかなり生っぽいものが伝わってきましたが、彼らには相撲の稽古はないですよね?

瀬々監督 男子は相撲の稽古はないけど、リハーサルを結構たくさんやってもらったんですよ。最初は「自由にやってくれ」という感じで、ギロチン社の仲間同士で考えて動いてもらいました。それも事前の訓練だったというか、そういうことを積み重ねていく中で、彼らも素が出てきたのだと思う。

――そういうことだったのですね。今回の東出さんの印象が、これまでの作品で受けたものとかなり違っていて驚きました。

瀬々監督 男っぽいでしょう。東出くんって、意外と男性気質なんですよ。だから今回の役はすごく合っていたと思います。もともと彼が持っているものが出た。だから浮ついた感じがないですよね。

――なかったです。中濱の片腕となる古田大次郎役の寛 一 郎さんも印象的でした。花菊に「死ぬ時は、お前の顔を思い出す」と言いますが、あれは最高の愛の言葉だと思いました。

瀬々監督 プロレスのマイクパフォーマンスみたいだよね(笑)。

――「俺が死ぬ時にはな……お前の顔を!思い出してやる!」のような。敵なのに愛情が感じられる、いいマイクですね。

瀬々監督 そうそう(笑)。

正直、今「ギロチンロス」です(笑)

――30年あたためてきたこの映画を「今作らなければ」と思ったそうですが、なぜ「今」だったのでしょう。

瀬々監督 映画は関東大震災の直後の日本が舞台ですが、社会主義者弾圧とかいろいろな締め付けがあり、戦争の時代に突入していくわけですよね。それがなんとなく、東日本大震災以降の日本に似ているなと思ったんです。特定秘密保護法とか共謀罪のような法案が通ったりする、時代的な「ヤバさ」がね。

――「自分はこういう映画を作りたかったのだと初めて思えた」ともおっしゃっていましたね。

瀬々監督 そうですね。この映画って、なんだかんだ言って「青春映画」なんですよ。「何かを変えたい」という意志を持った若者たちの話です。彼らの気持ちが、映画を作ろうと思い始めた自分の若い時の気持ちと重なるように思えて。自分の原点に立ち返ったような映画になったと思います。

――そういう映画を撮り終えてみて、今どんなお気持ちですか?

瀬々監督 「いつかやろう」と思って長い間ずっと考え続けてきたものがここで終わったわけですからね。正直な話、「〇〇ロス」みたいなものが若干あるんですよ……ギロチンロスです(笑)。

映画『菊とギロチン』

監督:瀬々敬久 出演:木竜麻生、東出昌大、寛 一 郎、韓英恵、渋川清彦、山中崇、井浦新、大西信満、嘉門洋子、大西礼芳、山田真歩、嶋田久作、菅田俊、宇野祥平、嶺豪一、篠原篤、川瀬陽太 ナレーション:永瀬正敏 配給:トランスフォーマー 現在公開中

© 2018「菊とギロチン」合同製作舎

『菊とギロチン』 http://kiku-guillo.com/
8/18(土)愛媛・松山 & 広島・尾道、8/19(日)神奈川・横浜で舞台挨拶が決定しました!
詳細は公式HPで。 

取材・文:門倉紫麻 写真:山口宏之