マンガやイラストを描きたい人必見!「バズる」だけでは意味がない? Twitterで話題のマンガ『今どきの若いモンは』著者が考える効果的なSNS活用法 [PR]

マンガ

公開日:2018/8/28

 一昔前まで、マンガ家の登竜門と言えば出版社への持ち込みやマンガ賞の投稿が中心だった。ネットが普及した現在は、SNSが一番の近道と言われている。Twitterなどにアップしたマンガが「バズる」ことで、出版社の目に留まり連載化したケースは数多く、近年はこうしたSNS発のマンガからヒット作が多数生まれている。

 吉谷光平さん(@kakikurage)もSNSで人気を集めているマンガ家の1人。Twitterフォロワー数は10万以上。サイコミで連載しているお仕事マンガ『今どきの若いモンは』(8月30日には第1巻が発売)は、第1話が25万“いいね”を獲得したほど大きな反響を呼んでいる。

『今どきの若いモンは』(吉谷光平/講談社)

 今回、吉谷先生にSNSでの作品がヒットする秘訣や、近著『今どきの若いモンは』の誕生秘話、デビューまでの道のりからアシスタント時代の思い出などとともに、マンガ制作で愛用されているペンタブレットについてのお話やデジタルでのマンガ制作のメリットについて、たっぷりとお話を伺った。

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■2度目の持ち込みで賞を獲ってマンガ家の道へ

――吉谷先生がマンガ家を目指そうと思ったのはいつ頃ですか?

吉谷光平(以下、吉谷):大学時代です。もともとマンガを読むのは大好きだったのですが、学校の同級生やネット仲間にいたマンガを描いている人たちの影響もあって、夏休みのヒマな時期を使って「マンガを描いてみよう」と思ったんです。

――いきなりマンガを描こうとしたんですか。それまで絵の勉強は?

吉谷:特にしてないです(笑)。なるべく少ない労力で結果を出そうと思っていて、ネームのように描きたい物語のイメージができたら、今まで読んでいたマンガの中からそれに近いコマを探して絵や構図を参考にしました。

 それで夏休み中に作品が描き上がったので、「じゃあ持って行くか!」と週刊少年マガジンさんに持ち込みに行って……。

――いきなりすごい行動力ですね。結果はどうでした?

吉谷:全然ダメでした(笑)。でも、編集者さんに「また持っておいでよ」と言ってもらえて、そのときはなぜか「俺って天才かも!?」って思っちゃったんですよ。それで自信が湧いてきて、2回目に送った作品で月例賞をいただきました。

――おお、それってすごすぎませんか?

吉谷:いや、そんなことないですよ。運が良かったなとは思いますが、今はマンガ賞に持ち込む以外にもマンガ家を目指す方法がありますから。それこそ僕もやっているTwitterのようなSNSを活用して…みたいな方法が。

■フラッシュアイデアだけのネタで連載化は難しい

――吉谷先生はマンガ家活動を続ける上で、SNSを意識して使っていますか?

吉谷:そうですね、意識しています。もともとは2~3年前、仲のいいマンガ家たちと「Twitterでマンガを描いて誰が一番バズるか」みたいな勝負をやっていたんです。そのときに描いた「30秒で泣ける」というマンガがすごく反響があって、出版社やWEBメディアから仕事が来るようになりました。Twitterでマンガを読む文化が世間で定着してきたんだな、という気がしましたね。

――SNSはTwitterが中心ですか?

吉谷:Twitterをメインにしつつ、同じ作品をpixivやニコニコ静画にもアップしています。インスタグラムだけは実例でここから流行ったというマンガを僕が知らないこともあって、まだ利用していません。

――SNSに投稿する作品で気を付けていることはありますか?

吉谷: Twitterへの投稿は暇つぶしのお遊びからはじまっているので、大喜利感覚で気軽にやっています。編集部から怒られることもないし、何より読んだ人からリアクションがもらえるのがめちゃくちゃ嬉しいです。

 ただ、仕事を勝ち取るために使うには、ちゃんとその先に連載があることを意識して描かないとダメだと思いますね。

――というと?

吉谷:たとえばTwitterは全部で4ページしか載せられないから、4ページで区切りのある話が一番よく伸びると思います。その中で完結しててほっこりする、みたいな。でも、それだと継続して何巻も描き続けることは難しいんですよね。

「30秒で泣ける」シリーズも、ある出版社から「こういう話を100個作って本にしましょう!」と言われたことがあって、「絶対無理!」と断ったことがありました。そんなにポンポンとエピソードが生まれてくるわけないでしょ、って。それでも新人だったら「描きたい」と思うかもしれません。「お前それしんどいぞ」って教えてあげたいですが(笑)。

 それよりも、ちゃんと読者に愛着を持ってもらえるようなキャラクターを考えて、そのキャラありきのストーリーで回した方が、心身共に疲弊しなくて楽だと思います。『今どきの若いモンは』の場合、渋めのおじさんである課長がジュース飲んでたりタバコを吸うだけでマンガが作れちゃう。本になるときに長い話が描けますよ、と誘導するためのTwitterであるべきかな、っていう風に僕は思っていますね。

■バズる目的の“殺し文句”、連載目的の“お仕事ドラマ”

――『今どきの若いモンは』が生まれた経緯をお聞きしたいのですが、最初に浮かんだのはキャラクターですか? それとも課長の殺し文句ですか?

吉谷:最初はおじさんが良いことを言ったら面白いなと思ったところからスタートしました。それでちょっとリアル目のかっこいいおじさん(石沢課長)と、ポップなかわいい見た目のヒロイン(麦田)でギャップを作って、という感じです。

 連載をはじめた当初は色々な決めゼリフで話題性を作って進めていき、作品が認知されて落ち着いてきたら社会人のお仕事マンガとしてシフトしていきたいと考えていました。

――『今どきの若いモンは』はやっぱり課長に対しての反響が大きいですか?

吉谷:そうですね。まさかここまで女性ファンが多くなるとは思っていなかったというか。こうなるのが分かっていたなら、自分は原案で、作画は誰か別のかっこいいおじさんを描ける方に頼めばよかったと後悔したくらいです(笑)。

――エピソードはいつもどうやって考えていますか?

吉谷:最初はやっぱり“お仕事あるある”から引っ張ってくる感じですね。あとは僕も会社員時代があったので、それを思い出しつつ……。他には知人などの仕事でイヤなことがあった愚痴を聞いて参考にしてます。

 今は単行本2冊分くらいまでのストーリーは作ってあるのですが、この先の展開を考えると、どこかの企業を取材して、もう少し具体的にお仕事関連のネタを取り入れていきたいなと思っています。

 麦田たちが務めている会社は総合商社のイメージなので、グループ企業として色々な事業を手掛けていても良いのかなって。そう思うと麦田って意外とハイスペックなんだなって思いますけど(笑)。

――吉谷先生、社会人経験があったんですね。

吉谷:はい。大学卒業後に不動産関係の営業を1年ほどやっていました。朝8時半に出社して、終わりは基本的に深夜2時みたいなハードな環境で、精神的にも体力的にもこれは無理だと思って辞めて、上京してアシスタントをはじめた感じです。

 マンガ家もかなりハードな仕事と言われますが、あのころに比べれば全然楽だと思ってます。アシスタント時代もちゃんとしていて、その日のうちに帰ることができましたからね(笑)。

■曽田正人先生のアシスタントでデジタル作画をマスター

――普段はどんな作画環境でマンガを描いていますか?

吉谷:液晶ペンタブレットを使ってますね。ワコムの“Cintiq 13HD”というモデルを5年前くらいから利用してます。

――もともとデジタル環境で描いていたのでしょうか?

吉谷:いえ、最初はアナログでした。デビューする前、アシスタントとして入った曽田正人先生(『め組の大吾』『昴』など)の仕事場がデジタル環境だったんです。ちょうど『テンプリズム』の立ち上げ時期で、フルデジタルに移行しようとしていて……。それまで全くデジタルを使ったことがなかったので戸惑いましたが、「一緒に頑張ろう!」と詳しいスタッフの方に教えてもらいつつ、イチから覚えていきました。

――板型のペンタブレットを使ったことは?

吉谷:アシスタント先で使ったことはありますが、トーン貼りみたいな簡単な作業が中心でしたね。

――使ってみた感触はいかがですか?

吉谷:液晶ペンタブレットは画面を見ながら描けるのでアナログに近い描き心地ですが、板型のペンタブレットはパソコン画面を見ながら手元のタブレットに描くタイプなので、使うときの姿勢が少し変わってきます。慣れるまではちょっと違和感があるかもしれません。

 でも、板型のペンタブレットの魅力はやっぱり価格ですよね。今だと“CLIP STUDIO”みたいなマンガ・イラスト制作ソフトなどが付いて1万円ちょっと。タブレットは軽くて反応も良いし、ペンの性能も向上していて自然で滑らかな描き心地です。あとはパソコンにつなげてソフトを入れるだけで環境が整いますから、誰でも気軽にはじめられるんじゃないかと思います。

――作画環境をアナログからデジタルに変えたことで、便利になったと実感しますか?

吉谷:めちゃくちゃ実感します。やっぱり直したい線を消すのが簡単ですし、机が消しゴムのカスで汚れないのも嬉しいです。気になったところは簡単に描き直せるし、コピー&ペーストやトーン貼りも楽になりました。

――ペンタブレットを使うときのコツは?

吉谷:ペンのサイドスイッチや、本体のファンクションキーなどカスタマイズ可能なボタンがあるので、自分に合わせてカスタマイズしたほうが良いと思います。たとえば作業をひとつ前に戻したいときの「Ctrl+Z」みたいに、ショートカットキーをあらかじめボタンに登録しておけば、もっと使いやすくなるんじゃないかと。僕も本当はそうしたいんですが、あまりカスタマイズしすぎるとアシスタント先で困るので、全部デフォルトにしています。

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■先輩マンガ家から教わった「マンガ家は描き続けろ」

――曽田先生のところ以外にもアシスタント経験はありましたか?

吉谷:そうですね。有名な方では東村アキコ先生(『海月姫』『かくかくしかじか』など)。あとは知り合いのマンガ家さんのところでもいくつかやりました。

――曽田先生といい東村先生といい、貴重な体験ですね。そういったマンガ家の先輩から言われて響いた言葉はありますか?

吉谷:東村先生に「ヒットするなんて私にも分かんないから、描きゃいいよ描きゃ」って言われて「なるほどなあ」って思ったことはあります。本当に描くのがものすごく早い先生なんですけど、そんな方でも「とりあえず何でもいいから早く描け」と言うんだから、そうなんだろうなって納得しましたね。

 あと、東村先生って「男ってやつは」が口癖なんですけど、「男は大作を作りたがる、だからダメなんだよ」って言われたことがあります。「こういう男になりたい、かっこいい男になりたい、大きな仕事を成し遂げたい、だからダメなんだよ」って(笑)。それぐらいいいじゃん!とも思ったけど、一理あるんですよね。「20歳かそこらで大志を抱くのは良いけど、25を過ぎたら現実も見なさい。小っちゃなところから積み上げろ。プライドは一回たたんで置いとけ。いずれまた使うかもしれないけど、今は要らないでしょ」って。たしかにそうだよなあって説得力がありましたね。

――何かものすごく胸にグサグサと刺さる言葉ですね……勉強になります。

吉谷:僕、ドラマの『おしん』がすごい好きなんですけど、おしんの旦那もロマンを語って何度か事業に失敗してたなあ……って思い出しました(笑)。

■いつか挑戦してみたい戦記物ジャンル

――そろそろ〆に向かおうと思いますが、『今どきの若いモンは』の今後の展開は?

吉谷:できれば5巻くらいまでは描きたいなあって思ってます。『あきたこまちにひとめぼれ』がもうすぐ終わるので、その分『今どきの若いモンは』のペースを上げていけたらいいなあって。8月30日の第1巻には、石沢課長の家庭事情がわかる描き下ろしマンガも載っているので、ぜひ買っていただけたら嬉しいです!

――他にも日刊月チャンの『恋するふくらはぎ』など4本を連載中ですよね。

吉谷:そうですね。今がちょうどこれ以上は描けないくらいのパンパン具合なので、『あきたこまち~』が終わったら、また新しいネタを考えたいと思います。

――今後描いてみたいジャンルやテーマはありますか?

吉谷:戦記物を描いてみたいなという気持ちはありますね。『三国志』みたいな歴史ものとか、『銀河英雄伝説』みたいなスペースオペラが大好きなので……。ちょっとやってみたいネタは考えてあるんですけど、いつかできる機会が来たらチャレンジしてみたいです。

■マンガの上達の近道は「描く」と「見てもらう」こと

――最後に、これからマンガ家を目指している方に向けて、吉谷先生が考える一番の近道って何だと思いますか?

吉谷:やっぱりSNSですかね。マンガ家になるだけだったら簡単だと思うんです。今の時代、雑誌もアプリもWebメディアもいっぱいあって、マンガで何かをしようと考えている企業も増えているから、特にこだわりがなくマンガ家になることをゴール地点にしているなら、何かしら描いてネットに上げていけばいいのかなって思います。

 でも一番は自分がどうなりたいか、なんですよね。マンガに何か特別な思い入れがあって、自分はどういうマンガ家になりたいのかまで考えた方が良いと思います。あんまり漠然とスタートしても大変なだけで、あまりオススメできる職業じゃないのかなって。

――とはいえTwitterでやろうと思ったら、バズらせないといけない、フォロワー数を増やさなきゃいけないというハードルがありますよね。

吉谷:曽田先生や東村先生を見ていても思うんですけど、やっぱり描き続けられることがマンガ家の必要条件だと思うんですよ。無限に描いているのが楽しい、という人の方が向いているのかなあって。そういった最初のハードルでつまずくようだったらマンガ家は目指さない方が良いんじゃないかと思ってるんです。

――マンガ力を上達させる一番の方法は?

吉谷:絵の練習よりもまず、いきなりマンガを描いたほうが良いと思います。趣味でやるんだったら好きなようにやるべきですけど、マンガ家を目指すなら、ちまちま練習していても無駄じゃないかなあって。

 描いて出版社に持って行けば、編集者というマンガのプロが見てくれるわけですから。本番を練習にしちゃえばいいんです、っていう考え方で僕は今も練習中です(笑)。

取材・文=小松良介 撮影=内海裕之