「好き」の気持ちはどこへ向かう?――『やがて君になる』キャスト対談:高田憂希×寿美菜子(前編)

マンガ・アニメ

2018/10/5

『やがて君になる』10月5日より、AT-X、TOKYO MXなどにて放送 (C)2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

「人に恋する気持ちがわからない」という悩みを抱える、高校1年生の小糸侑。そんな侑が、入学して間もない頃に出会う生徒会役員の2年生・七海燈子は、「誰に告白されても相手のことを好きになれない」。既刊は重版を連発し、待望のコミックス最新6巻が発売されたばかりの仲谷鳰『やがて君になる』は、第1話のラスト、燈子から侑への「思わぬ告白」から物語が動き始める。学校生活をともに過ごす中で交わす何気ない会話、友人にも打ち明けられない秘密、発した言葉とは裏腹に加速していく感情。それらを通して描かれる侑と燈子の関係は、作品としてはいわゆる「ガールズラブ」にあたるが、『やがて君になる』が素晴らしいのは、登場人物の心の動きが鮮やかに伝わってくること、そして彼女たちが抱えているものは決して少数にしか共感しえない「特殊な気持ち」ではなく、ある種誰にでも身に覚えのある感情であり、それがとても丁寧に表現されていることだ。映像化を心待ちにしていた方も多いことだろう。ダ・ヴィンチニュースでは、TVアニメの放送開始を機に、『やがて君になる』にさまざまな視点から迫ってみたいと思う。第1弾は、主人公ふたりを思い入れたっぷりに演じるメインキャスト、高田憂希(小糸侑役)と寿美菜子(七海燈子役)の対談インタビュー前編をお届けする。

まっすぐ生きるための嘘をついたりすることも、ある意味美しい(寿)

――まずは、原作やシナリオを読んで感じた作品の印象を教えてもらえますか?

寿:アニメ化される前のCMの段階で、初めて原作を読ませてもらったんですけども、「とにかく美しいなあ」が最初の印象でした。他にもいくつか作品にお世話になる形で、百合作品を観たことはありましたし、女子同士でも男性同士でも男女でも、恋愛作品はいろいろ読んできたけど、『やがて君になる』はふたりの描写が甘酸っぱくて、今にも壊れてしまいそうな儚げな感じがとても素敵だな、と思いました。

高田:わたしも、「すごくきれいだなあ」という印象でした。それは侑が抱える「特別っていう気持ちがわからない」というある意味真っ白な気持ちと、燈子さんの特別を知りたいという気持ち、これから何色にでも染まれそうな侑の純真な気持ちがきれいに描かれていて。「美しい」「きれい」が第一印象でした。

――人には言えない気持ち、という意味では、さわやかで朗らかなだけじゃない内面も描かれたりする作品ですけど、そういうシーンを演じながら新たな印象が生まれたりしてますか。

高田:侑は、燈子さんと関わっていくことによって、ほんとにいろんな気持ちが芽生えているんだなって思います。誰かを好きになることって、嬉しい、楽しい気持ちもありますけど、やっぱりちょっと不安だったり苦しい気持ちもあるものだなっていうことを、演じながらもそうですし、原作を読み進めながら改めて感じてます。

寿:あえて表情ではなく、足元を映してふたりの歩みの速度で「こういう心情なんだろうな」を感じ取れたり、切り取り方としての美しさは残りつつ、先ほど言ってくださったように、より内面が描かれることによって、ちょっとしたダークサイドな部分も出てきたりするじゃないですか。でも、きれいだけじゃないけど、ドロドロしていないところがすごいな、と思って。それはきっと、嘘がないからなのかな、と思うんです。だから裏の部分を見ても素直だな、と思えるし、これはこれでひとつの美しさなのかなっていう印象があります。恋愛に対する価値観という意味でも、『やがて君になる』に出てくる登場人物たちには、好きがわからない子もいれば、恋を見てる方がいいという人もいて。いろんな立場の人がいるけど、そこに嘘はなく、まっすぐ生きてる感じがあるので、まっすぐ生きるための嘘をついたりすることも、ある意味美しいのかなって思います。

――深いですね(笑)。

寿:そうなんですよ! 高校生の話とは思えないくらい深くて。

高田:確かに(笑)。

――侑は、会話の中で発している言葉と思っていることが真逆のシーンが、けっこうありますよね。

高田:そうですね、モノローグとして。

――序盤で印象的なのが、写真を撮るときに見えないところで侑から手を握ったら燈子さんが照れて、侑が「ずるい」って思うシーンだったりするんですけど。怖い顔してますよね、あのときの侑は。

高田:あの一言ですよね(笑)。裏切られたような気持ち、というか。

寿:愛憎、愛と憎しみっていう言葉ができる理由が、ちょっとわかる気がします(笑)。愛が形を変えていくと、好きな気持ちが怒りに向いちゃったりもするんだろうなって。「なんでなの?」みたいな。

高田:でも、侑が「ずるい」って思った気持ちって、わりと皆さんも持ったことがある気持ちでもあるんじゃないかな、と思います。普通に生活をしている中で、友達との間でもあったりすることかな、と思っていて。そう考えると、「侑って素直だな」の一言に尽きちゃうんですけど(笑)。作品に触れれば触れるほどリアルだなあって思うんですが、素直な気持ちをアニメーション用にきれいに包むというよりは、そういう気持ちもしっかり出すことによって、感情の揺れ動きや、表にはちょっと出しにくい部分が表現されているので、すごく魅力的だな、人間らしいなって思います。

とにかく美菜子さんが引っ張ってくださっていることに感謝(高田)

――侑が抱えている「人を好きになる気持ちが、本当の意味ではまだわからない」っていう心のありようって、実はそんなに特別じゃないというか、わりと身に覚えのある人が多い感情だと思うんですよ。おふたりも、完全に別次元のキャラクターを作り込むというよりは、自身の記憶や経験から「気持ち、わかるわかる」っていう感じで音にする部分もあるのかな、と想像してたんですけども。

寿:確かに。わたしはもともと、キャラクターと向き合うときも自分から発信するというか、自分が持っているもの、経験してきたことをそのまま役に入れ込むことが多くて。今回も「自分が燈子だったら」みたいな気持ちで考えることが多いです。そういう意味では、燈子が侑といろいろ話していくにつれて、どんどん好きな気持ち、特別な気持ちが加速していくことで歯止めがきかなくなってきたりするけど、そういう心の開き方も実際あるなあって思います。自分にも経験としてあることだからこそ、「ここまで言っていいかな?」とか「こういう表情になっちゃうよね」とか「思わずこぼれちゃうよね、笑顔」みたいな感じで、普段の自分から引っ張ってくることは多かったですね。

 スタートの段階では、わたしの中で燈子は固めな人だって思っていて。外見のクールな印象だけでそう感じてたんですけど、実際は意外とおちゃめだったり、アップダウンが激しくないだけでちゃんと感情の波がある人なので、別ものを作るというよりは、自分らしさも入れていったほうが、燈子らしさにつながってくるのかなって思いながらやらせてもらってます。逆に、燈子が抱えている闇の部分は、わたしがそこまで抱えていないものなので、そこに関してはちゃんと構築していかなくては、と思います。

――ちょっとピンポイントなんですけど、原作2巻で、試験勉強を「家でやります?」って侑に言われて燈子が「えっ」ってなるシーンがあるじゃないですか。あそこは、燈子の内面の起伏が表に出る象徴的なシーンなんじゃないかな、と思ったりするんですけども。

寿:「えっ」の一言は、アニメでもちゃんといいポイントで出てくるので楽しみにしててください(笑)。確かにそこは感情が波打つというか、大きめに動くシーンではあって。コミカルになりすぎても違うし、まったく驚かないのも違うので、そのバランスはすごく悩みながらやらせてもらいました。燈子が侑を好きになればなるほど起伏が大きくなっていく感じが面白いな、と思います。そこをあえて仕掛けてるというか、「ここが起伏としてお客さんに届けばいいな」というところが、シナリオの段階で組み立ててあるので、役者側もそれを受け取りつつやってます。日常の中でも、突然「えっ」ってなること、あるじゃないですか。そのナチュラル感、日常感に沿いながらできるかどうかは、『やが君』をやる上では大事なポイントになる気がしてます。侑も、ナチュラルだよね。

高田:そうですね、わたしがいろいろ演じさせていただいた作品の中でも、侑が一番ナチュラルだし、自分の中の引き出しをとにかく開いて開いて、投影しているキャラクターだなって思います。ナチュラルだからこそ、どこまで表現の幅を広げていいんだろうって思ったりもしますし。たとえば、燈子さんの一言に侑が「びくっ」てなるシーンがあったりするんですけど、それがただの動揺なのか、好意を感じて特別な気持ちみたいなものがちょっと揺れたからなのか、どこまで侑として表現したらいいんだろうって、すごく悩みます。それこそ、わたしは「好き」って言われたら、「イエーイ、好き!」みたいになっちゃうところがあるんですけど(笑)。

――(笑)。

高田:だけど「好き」っていう気持ちがわからない中、「燈子さんからの好意を受け取っている侑は一体どんな気持ちなんだろう?」っていうことは、すごく考えます。

寿:『やが君』は、ありがたいことに尺は一応決まっているものの、実際にこちらがやった「間」に絵を合わせますって言っていただいていて。その安心感がありますし、アフレコ中に出来上がる空気感でやっていったものが、オンエアのときにどんな感じで戻ってくるのか、そのキャッチボールがすごく楽しみです。

――おふたりで掛け合っていてしっくりきた、息がぴったり合った、と思ったシーンってありますか? 何かを事前に確認しなくても「やっぱり、そう考えてるよね」みたいな。

寿:自分は固めて作りがちなので、最初は頭のガチガチなイメージをほどく作業でいっぱいいっぱいで。たぶん、みんなもそういう感覚はあった中で、1話の段階から燈子さんはけっこう攻め入る感じがあって――最初の頃は「超絶動物的な人だな」って思ってました(笑)。本能の赴くまま生きてる感じがあるので、「素直に演じよう」って思ってたんですけど、それに対して侑を演じてくれてる憂希ちゃんがしっかり受け止めてくれて、まさに侑だなって感じていて。本能的に、「寄りかかってもいいかも」って思える感覚がありますね。「憂希ちゃんがなんとかしてくれるかな」みたいな(笑)。

高田:(笑)。

寿:そういう信頼があって、自然とハマってたかなって、最初のほうの会話から思ってました。だけどそれはわたしの一方通行で、もしかしたら「重いです、美菜子さん」って思ってるかも (笑)。

高田:わたしはむしろ逆のイメージで、燈子先輩を演じる美菜子さんがとにかく引っ張ってくださっていることに感謝です。役柄としてもそうだし、現場の雰囲気も作ってくださっていて。ある意味、燈子さんはとっても自由な人で、侑に対しては思ったことを素直に言葉にしてくれるところがあるんですけど、そこは美菜子さんともすごく重なるところで、すごく安心感があります。こうして、会話劇の比重が高い役をやらせていただくのは今回が初めてなんですけど、最初から打ち解けていたというか、「燈子さんみたいな人だな」と思っていて。誰からも好かれて頼りにされる先輩、まわりに人が集まるカッコいい先輩っていう感じが、まさに美菜子さんの内面から出ている気がします。

寿:(笑)。

高田:本当に、引っ張っていただいていると思います。だから今、「寄りかかってたんだよ」って言われて、感覚的には不思議な気持ちでした(笑)。アフレコのときは、ただただ「先輩たちすごいな」という気持ちで、一生懸命やらせてもらっているので、なんだろう、「そういうふうに思ってくださってたんだ、嬉しいな」って思います。

インタビュー後編はこちら

取材・文=清水大輔

TVアニメ『やがて君になる』公式サイト http://yagakimi.com/