“生きるか死ぬか”から「現実をどう生きていくか」がテーマに。『アオハル・ポイント』佐野徹夜インタビュー

新刊著者インタビュー

公開日:2018/11/6

 月光を浴びると体が光る「発光病」に侵された少女と、彼女が死ぬまでにしたいことリストの実行を手伝うことになる少年の間に生まれる淡い恋――。現在本誌でマンガ版が好評連載されている佐野徹夜さんのデビュー作『君は月夜に光り輝く』の実写映画化が決定! 主演の永野芽郁をはじめ、今、注目を集めるスタッフ・キャストの集結が話題を呼んでいる。そして待望の第3作目『アオハル・ポイント』がこのほど発売された。

著者 佐野徹夜さん

佐野徹夜
さの・てつや●1987年、京都府出身。同志社大学を卒業後、会社員を経て本格的に小説を執筆しはじめ、『君は月夜に光り輝く』が第23回電撃小説大賞《大賞》を受賞し、2017年デビュー。同作は30万部を突破するベストセラーとなり、19年3月に公開される映画化が決定。他作品に『この世界にiをこめて』がある。

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 人間のポイント、すなわちルックス、学力、コミュニケーション能力などを総合したその人の点数が見えるようになってしまった高校生・青木直人。クラスメイトたちのポイントをひそかに記していたノートを、同級生の春日唯に見つかってしまう。教室内屈指の高ポイント78を持つ曽山に片想いしている春日。彼女のポイントを42から引き上げるため、協力することになるのだが……。

「最初はまったく違う作品を書いていたんです。1、2作目を読んでくださった読者の方が求めているような、泣ける恋愛小説だったんですが、途中で筆が止まってしまって……井戸を掘り尽くした感じでした。同じ路線でやっても、先の2作を超えるものは今の自分には書けないことに気づいたんです。一作ごとに背伸びをしないと書けないような課題を設けて、それに挑戦するやり方でないと自分は書けないんだと感じました。なので、一から方向転換することにしました」

 そうして新たに目指したのは、テーマ性だけに依らない、より開かれた小説だった。

「例えばコミカライズ向きの小説ってありますよね。キャラが立っていて、シリーズもので、明るい直線的なストーリーで、そこにちょっと不思議な要素が入っていたら完璧という。そういうのをできないものかと思い、人間のポイントを見ることのできる主人公を考えつきました。プロット段階では青木くんの頭の中だけの妄想ポイントだったんですが、それだとあまりにも嫌な奴になってしまう。そこで、実際にポイントが見える特殊能力を授かってしまったという設定に変えてみたら、いける感じがしてきました」
 

物語の主役になり得ない人間の魅力を伝えたい

 ポイントと教室内での立ち位置は連動する。

 作中で青木はこう語る。〈しかし学生生活の死とは、俺に言わせればポイントの下落である〉。ポイントが下がったら教室内での立場も下がり、ポイントが高い者は教室内での地位も高い。いわゆるスクールカーストの法則だ。

「スクールカーストって僕たちくらいの世代には分かるんですが、自分の親の世代に説明するとなると、どれくらい通じるのかなと思うんです。どうすればいろんな世代の人にも理解できるよう伝えられるだろうかと考えて、ポイントという概念を使ったら、うまく説明できるんじゃないか、と。さらにそこへ青木くんのお姉さんの結婚話を絡ませることで、大人社会でもポイントによって人間関係や物事を見ていますよね? と問いかけたかった」

 ポイントを可視化できるがために、それに振りまわされる青木。前2作の主人公たちより格段に“いっぱいいっぱい感”が増していて、今を生きる十代の切実さが迫ってくる。

「これまでもそうだったのですが、青木くんにも自分が投影されているところがどうしてもありますね。『君は月夜に~』の主人公は“生きるべきか死ぬべきか”という境地でしたが、本作になるともっと俗っぽく“現実をどうやって生きていくか”がテーマになっています。実際、僕も就職活動中から会社員をやっていた時期は、青木くんみたいにポイントにこだわっていました。そんな自分のみっともなさとかカッコ悪さが、如実に反映されています(笑)」

 そんな青木くんにも、気になる女子はいる。少女マンガを貸し借りする仲のクラスメイト・成瀬のことがひそかに好きなのだけれど、彼女のポイントは74。対して自分は54。その差に萎縮してしまい、告白はおろか、もっと距離を縮めようとすることすら諦めてしまっている。

 彼と対照的なのが、空気を読まず、身の程を知らず、ポイント差も気にせず、玉砕するかもしれない相手に体当たりでぶつかっていく春日だ。

「ライトノベルによくある“天然ドジっ娘キャラ”というものではなく、マジでリアルにどうしようもないアホな女子。それが春日です。そういう子をヒロインにしたのも今回の挑戦の一つでした。青木も春日も、物語の主役になり得るようなタイプではありません。だけど、そういう人間がもっている魅力というのをなんとかして伝えたかった。本来なら魅力的であるはずがないのに、だんだん素敵に見えてくる……読者の方にそう感じてもらいたいんです」

 この二人だけでなく、成瀬に曽山、婚活に勤しむ青木の姉とその元カレのコウちゃんといった周囲の人物たちも立体的な存在感を放っている。

「書いていて楽しかったのはコウちゃんです。親戚のお兄さんとか知り合いの大人で、子どもの頃は憧れの対象だったけど、大きくなってから見ると輝きが失せている人っていませんか?」

 作者が“一番裏表のない人物”と評するコウちゃんのポイントは36で、一番低い。対して、最も高いポイントを持つ曽山は物語が進むにつれて本性を現していく。

「たとえば会話をしている途中で、急にマウントを取ってくる人っていませんか。脈絡もなく年収の話を始めるとか、とにかく自分が優位に立とうとする。そういう有象無象のマウントを取りたがる人間たちが曽山の原型です。それと、中高時代にヤンキーたちからいじめられたりしてたんですが、その頃の経験も活かして曽山像をつくっていきました」
 

生きていくことは俗っぽく、無限のマウントの取り合い

 不吉な予感を潜ませつつも、前半は春日のポイントアップ大作戦という軽快なテンポで展開してゆく。それが後半になると雰囲気は不穏に、展開はハードになる。ある出来事がきっかけで青木にはポイントが見えなくなり、成瀬と曽山、そして春日との仲がもつれて教室内で孤立する。学校という空間の中の閉塞感、スクールカーストに代表される緊張感に充ちた人間関係の描写が今までになく生々しい。

「自分としてはポジティブな小説になっていると思うんです。というのも、これまで書いた二作品は生と死の間で悩む内容だったのですが、青木くんには死のうかどうかという迷いはない。生きることに目を向けています。ただ、生きるっていうのは本当に俗っぽくて、嫌なこともたくさんあるし、無限のマウントの取り合いだったりもする」

 そんな世界で生きていくことの大変さに苦しみながら、青木は少しずつ変わっていく。彼を取り巻く状況はヘヴィだ。おそらくラストシーンのその後も苦闘は続くだろう。それでも――いや、それだからこそ、最終ページのモノローグは力強く、そして明るい。

「本当に普通のことを言ってるだけですよね。そんな普通の結論に達するまでに色々あって、自分の中ですんなりと呑み込めるようになるまでの物語で。ここで青木くんが言う『俺は綺麗事を信じてる。』という言葉は、彼と同じ世代の高校生や中学生など若い人たちに対する願いのようなものでもあります。どうか綺麗事を信じて生きていってほしいんです。僕自身も何だかんだで綺麗事を信じているし、若い子たちが綺麗事を信じられるような世界を、小説をつくっていきたいと思っています」

取材・文=皆川ちか 写真=干川 修