「埼玉ディス」マンガとして大きな話題になってから4年。 映画『翔んで埼玉』魔夜峰央×千葉出身の武内監督対談

アニメ・マンガ

2019/2/26

 30年以上前に発表された『翔んで埼玉』が復刊され、「埼玉ディス」マンガとして大きな話題になってから4年。原作者の魔夜峰央さんも「正気か?」と思ったという、まさかの実写化! オリジナル要素をたっぷり加えて「愛と革命の物語」として描いたと話す、千葉出身の武内監督が対談。話すほどに、クリエイターとしての共通点が明らかに!

魔夜峰央さん、武内英樹さん

魔夜峰央(右)
まや・みねお●1953年新潟県生まれ。73年『見知らぬ訪問者』でマンガ家デビュー。78年に連載開始した『パタリロ!』は、現在も続く大ヒット作に。他の著書に『ラシャーヌ!』『May探偵プリコロ』『眠らないイヴ』など。
武内英樹(左)
たけうち・ひでき●1966年千葉県生まれ。90年フジテレビ入社。人気テレビドラマの制作を多数手掛け、映画監督としては『のだめカンタービレ 最終楽章』『テルマエ・ロマエ』などマンガ原作の映画化に定評がある。

 

翔んで埼玉場面写真

映画 『翔んで埼玉』 2月22日(金)公開!!
かつて埼玉県人が東京都民からひどい迫害を受けていた時代。都内の名門私立高校で強権をふるっていた生徒会長・壇ノ浦百美は、アメリカ帰りの転校生であり隠れ埼玉県人である麻実麗と出会い、東京をめぐる埼玉vs千葉の抗争に巻き込まれていく――。そんな物語を描く「伝説パート」と、この都市伝説をラジオで聴いている家族を描く「現代パート」の2つのパートで展開される。

 

――魔夜先生、映画をご覧になっていかがでしたか?

魔夜 映画のほうがマンガよりはるかに内容が詰まっているので、どうなるのかな? と思いながら観ていたんですよ。でも最初の麗と百美のキスシーンを観て、安心しました。完全に二人の世界観ができあがって、ドラマがここから動いていくんだぞ、というのがわかったので。楽しいシーンでしたね。

武内 とても大事なシーンなので、どういう演出にするか、すぐには決められなかったんですよ。そうしたら(百美役の)二階堂ふみさんが「このキスシーンはとにかく美しいことが大事だと思います」とアドバイスをくれて。なので、すごい数の照明を用意して、光をバーッとあてて撮りました。

魔夜 だからきれいだったんですね。監督と私の感性がすごく似ているなと感じましたね。私が映画を作ってもこうなるだろうな、と。

武内 恐れ多いです……光栄です。

魔夜 特に川を挟んだ、埼玉と千葉の合戦のシーンがよかったです。

『翔んで埼玉』場面写真

――原作にはない、埼玉県人と千葉県人の対決シーンですね。

魔夜 カードバトルのような、まったく無意味な対決で(笑)。あとツボだったのが、群馬の空を飛ぶプテラノドン。ただ私だったらUFOを飛ばしたかもしれない(笑)。

――武内監督は原作を読んだ時どう思われたのですか?

武内 最初に書店で手にとった時、こんなふうに描いてもらって、埼玉がうらやましいなと思ったんですよ。僕は千葉出身なので。ここに千葉をねじこむことで、未完の原作を完結させようと思いました。それで最初に思い浮かんだのが、先ほど先生がおっしゃった合戦のビジュアルです。戦国時代の「姉川の戦い」みたいに埼玉県人と千葉県人を対峙させて、白黒つけてやろうじゃないか!という欲望で後半を作りました。とにかくあのシーンがやりたかったので、そこに向かってどう話をうねらせていくかを考えていました。

魔夜 マンガ家にも、そういう作り方をする人がいますね。描きたいシーンに向かって描いていく作り方。私はそういうことは何も考えずに描いていきます。30ページあったら、20数ページまでは、起承転結の「起」なんですよ。残りの数ページで「承転結」を全部やる(笑)。

武内 映画でそれは難しいと思いますが(笑)、僕もあまり考えないで作っていますね。

魔夜 考えたってできないですよね。いきあたりばったりがいい。

武内 そのほうがライブ感が出ておもしろくなる。あまり計画的にやると、お客さんに先を読まれちゃう。

魔夜 作っている自分がわからないから、お客さんにもわからない。

武内 本当にそうですね。まっすぐ進んでいるようで、突然横からカウンターパンチを食らわせてみたり。

魔夜 時々は後ろから殴りかかられたりね(笑)。

横浜市民の私にはわかりません(笑)

――魔夜先生は最初に映画化のお話が来た時はどう思われましたか?

魔夜 「正気か?」と思いました。

武内 ハハハ!

魔夜 実写は無理だろうなと思っていたので。でもできあがってみたらすごいものになりましたねえ。要するに「格差」がテーマですから、今の時代にそれをやっていいのかなと思っていましたし。監督が一番きつかったのもそこだと思いますけどね。

武内 どうやったら納得してもらえるものにできるか、すごく考えました。埼玉県人の方にはあまり「自分たちの話だ」と身近に思われ過ぎないように「あくまでも別次元のおとぎ話ですよ」というサインをいたるところで出し続けないと、と。埼玉の方にはだいぶリサーチしたんです。「もっとディスってほしい」「物足りない」という人がほとんどだったんですけどね。千葉県人としては、お互いつらい思いをして生きてきたよね、と思っていて。好敵手というか。

魔夜 横浜市民の私にはわかりません(笑)。

武内 先生は、新潟のご出身じゃないですか!

魔夜 新潟も千葉より上ですよ。いろんな名産があるし、新潟には新潟のイメージがある。千葉とか埼玉はぼやあっとしているでしょう。

武内 確かに……郷土愛の温度が違いますよね。千葉はベッドタウンですから。

――なるほど、都会かどうかではなく郷土愛の差が「上」とか「下」を決めると……。

武内 映画の途中からは、描きたいことは格差じゃない! これは愛と革命の物語だ! と自分に言い聞かせながら作りました(笑)。

――後半は、まさに愛と革命のスペクタクル巨編でした。

武内 スペクタクルにすればするほどばかばかしさが強調されていくんですよ。クライマックスでは、都庁前のシーンが登場しますが、そのあたりのスケールの大きさは見応えがあると思いますよ。

魔夜 映画人の発想ですよね。現実の都庁が使えるわけで。マンガだと、何を描いても「絵空事」なのでそういう意味でのリアリティは出せない。でも映画だとそこに「本物」があるわけだから。

武内 今回はできるだけアナログでやりたかったんですよ。今、どんなことやっても「CGでしょ?」と思われてしまうので。

魔夜 人海戦術で来ましたからねえ。さすがだなと思いました。

僕の家族が全員出演しています

魔夜 ほかのシーンのエキストラには、私の知り合いもたくさん出ていますよ。

武内 オープニングには魔夜先生ご本人にも出ていただきました。

魔夜 「通行人でいいから出してくれ」と言ったら、あんなことに(笑)。

――魔夜先生はマンガにもある「この物語はフィクションであり、実在の人名団体名、特に地名とはまったく関係ありません」というメッセージを伝える役として出演されています。

武内 この世界にいざなう部分に先生に出てもらうと説得力が出るなと。「これは絵空事ですよ」っていうサインの一つにもなりますし。

魔夜 実はあのシーンには家族全員出ているんですよ。息子と妻と娘もダンサーとして僕のまわりで踊っています(笑)。

――いろんなネタがしこまれているんですね。

魔夜 そこも私のマンガと似ていますよ。いろんなところに細かい描き込みがしてあって、何回か見ているうちに気が付く、みたいな。

――何をおもしろいと思うかが一致していないと……もしくは監督が原作を完全に理解していないと映画にはできないのですね。

武内 原作のファンを裏切っちゃいけない、というのはいつも考えますね。とにかく原作を徹底的に読み込んで「これはどういう種類の笑いなのかな?」と研究することから始めます。今回の映画オリジナルの部分は、「先生だったらこう考えるかな?」と魔夜先生になりきって作っていきました。

魔夜 よく「続編は?」と聞かれるんですが、これで続編は描かずに済む、と思いました(笑)。完全に映画でやり切られましたから。

武内 うれしいです!

魔夜 今までは「横浜に引っ越して、もう自虐ネタじゃなくなったから続編は描かない」という言い方をしていましたけど、これからは「映画につぶされた」と言います(笑)。

虚構を描く時は、熱量で押し切らないと!

――魔夜先生の作品では、『パタリロ!』が舞台化され、さらに映画の公開も控えていて、ほかのメディアへの展開が増えていますね。

魔夜 『パタリロ!』は宝塚でも舞台化の話が出たことがあるんですが、美形はいても、パタリロがいなかった。そんなところに、加藤諒くんが出てきて。『翔んで埼玉』では、GACKTさんですよね。この作品自体が完全に虚構なんですよ。その1人の主人公を張るからには、役者も大きな虚構でなければいけない、と思っていた。

武内 麻実麗は高校生なので、最初は若い俳優さんで考えていたんです。でもピンとこなくて……もっとぶっ飛んだキャスティングにしないと、という話をしている中でGACKTさんの名前が挙がった。「それだ! そういうことだよ!」と思いましたね。

魔夜 私もGACKTさんがやってくれたら、この映画は成功すると思いました。

――GACKTさんは魔夜先生のファンでいらっしゃるんですよね。

魔夜 光栄なことにそう言ってくださっています。マンガがお好きだとは聞いていたので、最初にお会いした時に「少しは私の作品も読んでくださっていますか?」と聞いたら「『パタリロ!』の大ファンです!」と言ってくれて。うれしかったですね。

武内 (『パタリロ!』の)バンコランをやりたかったって言っていましたよね(笑)。

――武内監督は、キャストのみなさんにはどんな演技指導をされたのですか?

武内 こういう世界があると信じて……信じづらいかもしれませんが(笑)、とにかくまじめにやってください、一切ふざけなくていいです、と言いました。「NHKの大河ドラマのつもりで」と。お客さんに「こんな話をまじめにやって、役者ってすごいな」と思ってほしくて。虚構を描く時は、熱量で押し切らないと。

『翔んで埼玉』場面写真

魔夜 ああ……!

武内 熱量があれば、最初は「ありえないだろ」と思って観ていたお客さんも、気がつけば感情移入している状態になる。

魔夜 演技のちょっとした嘘が見えちゃうと、全体が崩れますからね。

――魔夜先生が、演技で印象深かったシーンはどこでしょう。

魔夜 二階堂さんが縛られて、吊るされているところですね。「本気で怒っているな、この人」と思ったんですよ(笑)。それくらい演技がうまいということだと思います。二階堂さんの衣装も、ここまでやるか?というくらい、完璧でしたね。

武内 衣装やメイクを先生の世界に合わせるのは大変でした(笑)。二階堂さんの衣装は、原作ではここまで派手ではないんですけど、受ける印象ってこういう感じですよね。実写ならあそこまでやらないと!

1人の脳みそで、幅を出す

――マンガ家と映画監督という、ジャンルの違うクリエイター同士として、お互いのお仕事をどう見ていらっしゃいますか。

武内 やることは似ているような気はするんですけど、僕らが大勢でやることをマンガ家さんは1人でやる。それがすごいなと思いますよね。キャラクターづくりから衣装デザインから全部……ちょっと信じられないですね。

魔夜 逆に私は人を使うことができないので、あれだけたくさんのスタッフをまとめるのがすごいですよね。1人は気楽ですよ。

武内 確かに難しいこともあるんですけど、自分にはない考え方をいっぱいもらえるので……脳みそをいっぱい持っているような。自分が持っていたイメージとずれるものができることもあるんですが、それが意外とよかったりするんですよ。頭を固くせずに、できるだけ柔軟にしておきたいですね。

魔夜 よくわかります。私も自分で「これはだめだな」とか「失敗かな」と思うようなこともあるんですけど、そういう時はあえてそのまま出すんですよ。そうすると意外と受けたりする。自分がこうだ!と思うことだけで作ると、おもしろみがないものになるのかなあ。自分がだめだと思うようなものを描いてしまう、ということは、自分にないものがたまたま出てきてしまった、ということですからね。そうやって私は1人の脳みそで幅を出しているのだと思います。

――作品を世に出す怖さみたいなものは今でもありますか?

魔夜 今はほとんどないですね。マンガ家になりたてのころは、一本描き上げるのが怖かった。原稿があるのに、掃除とか関係ないことをやり始めてしまうことがよくありました(笑)。

武内 僕も最初のうちは怖かったですが、だんだんそれが快感になってきて(笑)。マヒしてくるので、強い刺激が必要になるんですよ。

魔夜 だんだん薬が強くなる(笑)。

武内 今回の映画は、今までで最も危険な企画だなと思っているので、これは怖いぞと(笑)。

魔夜 私はどれだけ受けるか、公開に向けて楽しみしかないです。

武内 「笑ったら不謹慎かな?」と思ってしまう方もいるかもしれませんが、ぜひ笑ってください。

魔夜 ファンタジーですから。何も考えずに笑いたいところで笑ってください、と申し上げたいです。

取材・文:門倉紫麻 写真:江森康之

 

【登場人物】

麻実 麗
容姿端麗で都会的なセンスを持つアメリカ帰りの転校生だが、実は埼玉県の大地主の息子。都知事となって、埼玉県の通行手形制度を撤廃することを目指している。

壇ノ浦百美
都内の超名門私立高校の生徒会長。日々、生徒の埼玉県人に横暴な態度をとる。父は東京都知事のエリート都民。突然現れた麗に心惹かれるようになり、運命が大きく変わる。

阿久津 翔
百美の父である東京都知事の執事として働いているが、実は千葉解放戦線のリーダーとして、麗同様ひそかに千葉県の通行手形制度撤廃を目指している。

埼玉デューク
東京を歩いていても誰からも疑われることのない、伝説の埼玉県人。クーデターを計画していたが行方不明となっていた。麗の助けとなる人物。