「僕は女性のプロフェッショナルだと勘違いしていた」新宿歌舞伎町カリスマホスト・手塚マキ

文芸・カルチャー

2019/6/7

「歌舞伎町のホストクラブは不良の全国大会のようだった。どうせ俺はホストだし、マイノリティな人間だと思っている。彼らは自ら逆差別しているんですよ」

 そう語るのは『裏・読書』(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)の著者、カリスマホストであり経営者の手塚マキさん。女性活躍支援や歌舞伎町ブックセンター、読書会など、多角的に活動をするのはホストと共に成長する為だという。手塚さんにお話を聞いた。

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女性はこうあるべきだろうと無意識に思っていた

――手塚さんは国際女性デーでの登壇をはじめ、女性の視点や立場に立った活動もされていますが、ホスト時代から女性の気持ちに敏感だったのでしょうか?

手塚マキ氏(以下、手塚):いえ、女性の気持ちの「プロフェッショナル」だと勘違いしていたんですよね。どちらかというと得をする側だったので、女性の生きづらさや繊細さに気づけていなかったかもしれません。

 視点が変わったきっかけは、結婚した妻が“こうあるべき論”がまったくない人で、女性だからこれが当たり前といった概念がないんです。何者であるかにこだわりがなく、男も女もカテゴライズしない。私は私、何がダメなの?と。

――ホストクラブでは女性の生きづらさについて話が出たりしますか?

手塚:悲観的な話題はあまり出ませんね。それよりも、ホストクラブは女性が生きづらさのタグを外して来られる場所なので、結婚してる・してないとか、どこで働いているとか、年齢とか、ここでは全部関係ないんですよ。そもそもタグを外した方が楽しいし、本質的におもしろい話ってそこにしかないはずなんですよね。

 逆にホストクラブではこんなに開放的に見えるのに、外に出て合コンとかに参加すると、お互いのスペックを気にしたり、名刺で済むようなトークをすごくするなって思います。どこか切羽詰まった空気とか、その方が窮屈なんじゃないかな。

どうせ自分はホストだから…

――他のホストの方は女性とスマートに接しているのでしょうか?

手塚:現役ホストの頃からずっと違和感はありました。女性が楽しむ場所なのに、女性を見下すような態度をとるホストや、女性をツールとしてしか見ていない人たち、または男対女の力関係で逃げてみたり…。残念ですがそんなホストがいるのも確かです。

 彼らは女性に接する以前に、自分自身にコンプレックスを抱えています。どこかまともじゃない、マイノリティな人間だと思っているんですよ。喧嘩がいかに強かったかで争ったり、実際歌舞伎町でホストを始めたときは、不良の全国大会かと思いましたね。

 水商売や不良と呼ばれる人達が、結婚が早いと言われるのも、彼らがまともだと思うことへの憧れでしょう。だから未だに結婚して、庭付き一軒家持って家族や子供がいるのが幸せな人生だと思っている人もたくさんいますし。

自分はマイノリティだと思っているホストに読書を勧めるわけ

――ところで今回ホストクラブで読書会をされましたね。

手塚:元々僕はただ本を読んでおしまいにはしないんですよ。本を読んで誰かと話をしたり、自分の行動に変えてみたり。今回も読書をツールとして歌舞伎町に足を運ぶきっかけを作ったり、コミュニケーションが生まれたり意味があるものにしたかったですね。

――ホストの方とお話しする貴重な体験でしたが、世間では多様化が進んでいるとはいえ、ホストの方がマイノリティな部類に入るというお話もありました。ホスト自身のメンタルや、自分自身を知る意味でも読書って良いでしょうか?

手塚:めっちゃいいですね! 彼らは自信がないんですよ。仰るとおり、マイノリティだしどうせホストだって思ってる。僕が偉そうなことを言っても、それはあなただからでしょってなる。ホスト自身の逆差別がまだまだ強いですね。だから読書が自信につながる第一歩になったらいいし、僕自身がそうでした。

 あと、ホストは歌舞伎町の中では名をはせた売れっ子になっても、ホスト業界を出た瞬間に舐められちゃうんですよ。一歩外に出たら軽薄な人間だと思われてしまってせっかくキャリアを積んだのに勿体ない。ホストを卒業した後の準備はしておいた方がいいとは思いますね。

 確かにはじめの1冊のハードルは高いかもしれない。でも、本に限らず映画でも舞台でもコース料理でもいいんです。何かひとつのことに2時間くらい集中するような思考はあった方がいいなと。深く物事に向き合ったり、自分の持っている価値観が全部ひっくり返るような経験をするとか。僕は現代アートが好きですが、何となくデザインがカッコいいとか好きだけだとファッションもそうですが流されてしまう。それよりも、そこにある文脈や意味を考えるクセが付くといいなとは常々思うし、その方が生きていておもしろいですよ。

――ホストとしての読書との関わり方はありますか?

手塚:ビジネス的にやりがちかもしれませんが、少し経験を積んで慣れてくると、お客さんを属性分けして見てしまうことってあると思うんです。このタイプの人はこの接し方、このタイプにはこう言葉を掛けたら喜ぶとか。ホストも一緒で、だんだんとパターン化されて思考が凝り固まっていくんですね。正直その方が楽ですし。本当は、100人いたら100通りのタイプがあるはずなのに、つい自分が知っている型にはめてみようとしてしまいがち。自分が得意なタイプの人にばかりついたり、自分がこうだ、と思い込んでいたタイプの人も、前はうまくいったのに今回はそうではなかったという話もよく聞きます。

 今回の読書会の課題図書は『ノルウェイの森』でしたが、主人公のワタナベや登場する4人の女性をみながら、こういう人達が存在するって知るだけでも全然いいと思います。ホスト目線で言うなら、テクニカルにワタナベの女性への対応ですかね。ホストは強気でグイグイいくとか、何か口説き文句を持たなきゃいけないわけでもない。ワタナベみたいに受け身で寄り添ってあげているだけで、ディフェンスが最強の攻撃だとも読んで欲しいですね。

――ご著書のタイトル『裏・読書』でもさまざまな読み方、捉え方をされていますが、そこまで「裏」を読むには何かポイントをおいて読み進めていますか?

手塚:「裏」という感覚が全然なくて、恐らく学生時代には学生時代の読み方を、ホスト経営の立場では読み方も全然違って、今はこう読めただけだと思います。たとえば自分が永沢のような強気で突っ走るタイプの人と恋愛をすれば、永沢の彼女のハツミの気持ちが分かるかもしれない。人それぞれの読み方があって、各自の読み方を口に出す機会がないだけじゃないですか。

――『裏・読書』を読む前は、たとえばワタナベの切り替えの早さや、一番にならないズルさとか、そこまで気づけなかったという人も中にはいると思いますが。

手塚:それも合っているか分からないですけどね。さっき読んだらそんなに切り替え早くないなって思ったんですよ(笑)。これを書く前はこいつすごい軽薄だなって感じましたが、さらに読み返したら、何回も緑に電話したり、緑に手紙を書く前に直子に書こうという場面があっていうほど軽薄じゃないなって。だからその時その時で感想が変わっていいと思いますよ。

 読む回数もそうですが、いい文章を読むと文字が浮き出てくるようなタイミングってある気がします。自分が心の中で思っていたことや、言語化できなかった思いが答えとしてバーッて浮き出てくる瞬間が僕はすごい好きで、その部分を何回も読みますね。

歌舞伎町ブックセンターを通し、ホストとどう一緒に成長していくか

――歌舞伎町ブックセンターは現在改装中ですが、約1年経営されていかがでしたか?

手塚:多分バズるとは思っていましたが、予想以上に取材でとりあげられましたね。儲かるとは正直思っておらず、基本的に僕は従業員たちとどう生きていくかをメインで考えています。彼らにどうやって読書体験をさせるか考えた時に、僕が言うより第三者にいいね! って言われる方が効くんですよ。うちが本屋をやっている、僕が取材に答える、それをお客さんや地元の友達や家族が、「お前の会社、本屋もやっていていい会社じゃないか」「読書推奨してるっていいところだよね」と言われると、あぁ、手塚が言っていたことはいいことなんだ、となるように僕はメディアを使うんですよ。だから意図的に話題にさせないと彼らの耳に入らないし。

――一緒に成長していきたいと?

手塚:それだけですね。本屋は1階の路面店でカラオケもあって、うちのバーのお客さんをはじめ、ホストのアフターで来たり、道沿いなので外国人も来る。本屋を目指して歌舞伎町に足を踏み入れた人がバーの常連になったり、逆に飲みに来たら本が置いてあって買ってみたとか。物凄く多種多様な人種がごっちゃな場所になって、当初予定していなかったことが起きたのは凄くうれしかったですね。

プロフィール
手塚マキ
1977年埼玉県生まれ。
歌舞伎町でホストクラブ、バー、飲食店、美容室など10数軒を構える「Smappa! Group」の会長。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。埼玉県立川越高校卒業、中央大学中退後歌舞伎町で働き始め、No.1ホストを経て独立。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を立ち上げ、街頭清掃活動を行う。2017年には歌舞伎町初の書店、「歌舞伎町ブックセンター」をオープンし話題に。2018年には介護事業もスタート。

取材・文=松永怜 写真=後藤利江