ロンブー田村淳さんのHSP処世術「周りと意見が合わない時は、HSPのせいにしてます(笑)」

暮らし

更新日:2021/6/17

——気配り上手はモテそうですね(笑)。HSPだと分かってから、日常の中で特に変わったことはなんでしょう。

田村:もともと自己肯定感はあるほうですけど、「これはおかしい」とか「これは合ってる」とか、自分の直感をさらに信じられるようになりました。昔から、ボールペンを使う時に「もっと細いのがあると書きやすいのになぁ」と思っていたんですけど、SNSで見かけた金継ぎ師の方が「ジェットストリーム エッジ」という日本で一番細く書けるボールペンを教えてくれて。実際取り寄せて使ってみるとすごく書きやすいし、自分と同じように考えている人がやっぱりいるんだなと。

 その金継ぎ師の方も文字に相当思い入れがあるんでしょうね。その方もHSPじゃないかって勝手に思ってますけど(笑)。金継ぎって「捨てちゃえばいいのに」って思うような器に、わざわざ伝統的な技術を施してアートにしていく作業。そこが楽しくて僕に合っているし、細かいことが気になるHSPの人向きだと思います。

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苦しみの数だけ、成功体験を増やしていく

——直感や共感はHSPの長所とも言える気質。ところが、それが強すぎてつらくなってしまう人もいます。どうやったら田村さんのようにポジティブに捉えられるのでしょうか。

田村:相手も共感してくれればいいけど、僕は負の声にも気がつきやすいんですよ。それは繊細だから仕方がない。こういうインタビューでも、100人が100人共感してくれるとは思っていなくて。納得できない人がいたとして、その人の人生感や考え方があるから、それをねじ曲げるのは違うと思っています。だから、自分の中で負の声をコントロールするというか。

——負の声をどのようにコントロールしますか?

田村:僕は、受け止めようとします。で、どんな言葉を交わしたら分かり合えるのか想像します。その時に出てくるのは、相手への譲歩だったり優しさだったりするので、それはもう自分の宝としてしまっておく。実際はそんなにうまくいかないだろうから、想像だけでとどめて楽しんでいます。

——受け止めた上で、うまく逃すという。

田村:うん。そうやって、苦しみの数を上回る成功体験を増やすといいと思います。成功体験を増やすことで、苦しみは減っていくから。最初はほんの小さなことでいいんですよ。それこそ“成功”と言うのも大袈裟なくらい、自分が機嫌よくなれるような体験。そうすると、繊細であることにどんどん慣れてくる。

 苦しい時って目の前が真っ暗になるけど、どの方向にでもいいからとりあえず動いてみる。一歩進んで壁にゴチンとぶち当たるか、トンネルを抜けた感覚になるのか。僕がみなさんの正解を示すのは難しいけど、その苦しい場所に居続けることは間違っていると思う。今の時代、SNSなら人と直接絡まなくても自己発信できるし、苦しいエネルギーをどこにぶつけたら抜け出せるのか、つらいけど、苦しさの理由にきちんと向き合ったほうがいいと思います。

限られた人ではなく、たくさんの人に楽しんでほしい

——最近は以前よりさらに、HSPの表現上手なところを生かしたお仕事が増えているように思います。YouTubeの『鬼滅の刃』コスプレも話題になっていますが。

田村:相方の(田村)亮が地上波復帰できないかもってことでYouTubeのチャンネルを持ったんですけど、始めてしまったからには、たくさんの人にYouTubeを楽しんでほしくて。2019年からアニメを見始めて、やっぱり日本の文化としてすごい。自分のチャンネルでも紹介していきたいなと。

——アニメの中でも『鬼滅の刃』をチョイスした理由はなんでしょう。

田村:心揺さぶられる優良作品がたくさんある中で、昔の『ドラゴンボール』や『ワンピース』みたいにみんなが共感できるのが、今で言うと『鬼滅の刃』だと思って選びました。マニアックな作品も好きだけど、限られた人しか楽しめないのは、僕がやりたいこととは違うと思ったので。いつも衝動に駆られて動くので、理由が後付けになることも多々ありますけど、後から理由をつけても意外と腑に落ちる感覚があるので、常に繊細なセンサーが働いているからかもしれませんね(笑)

——意識せずとも、答えが常にご自分の中にある感じが伝わります。全力疾走の毎日の中で、息切れしたり、ストレスが溜まることはありませんか?

田村:あまりとらわれすぎずに、「自分にストレスはない」と考えるようにしています。たぶんそれなりにあるだろうし、重力を感じていること自体ストレスなんでしょうけど。どんな仕事も、お腹がすいたら食べるくらいの自然なことにしたくて。これ、HSP特有の返し方なんです、きっと(笑)。

ひとつでも楽しめたら、あとはエンジンがかかってパーっと前に進める

——HSPの人ならビビッとくるかもしれません(笑)。芸能界で影響を受けている人や、意識している人はいますか?

田村:最近は、芸能界の中に意識する人がいちゃダメだなと思っています。昔から不思議だったんですけど、芸能界ってバラエティに富んだ人が集まるところだから、ジャンルでくくる必要ないですよね。「芸能界」というジャンル分けをすることで、可能性を縮めているような気がする。そういう気づきも、HSPだと知ってから強くなりました。

——では、異業種で気になる存在が?

田村:植松電機の植松努さんという方に出会って、HSPと同じくらい大きな気づきを得ました。小さい頃、将来の夢を羅列して書いていたら、先生から「ひとつに絞りなさい」と言われたんですよ。「総理大臣」と書きましたけど、それは先生が望んでいる見栄えがいいものをチョイスしただけ。

 植松さんも子どもの頃に同じような境遇があったみたいで、「可能性を狭めることは教育じゃない」と言ってくれたんです。「淳くんのやりたいことが100個あるのなら、そんなに素敵な人生はない。それを人に伝えなさい」と。「明日カレーが食べたい」と伝えて、誰かから美味しいカレー屋さんを教えてもらったら、それだけでもひとつの成功体験。その積み重ねで人生は楽しくなる。そう言ってくれた植松さんをリスペクトしていますし、そういうことを実践している人に関心があります。

——植松さんはTEDxSapporoでの講演も話題になった方。最近読んでおもしろかった本についても、ぜひ伺いたいです。

田村:最近おもしろかったのは『実験思考 世の中、すべては実験(NewsPicks Book)』(幻冬舎)。著者の光本勇介さんにお会いしてお話ししたんですが、めちゃくちゃおもしろくて、もしかしたら、この人もHSPなんじゃないかと(笑)。世の中のすべてを実験と捉えて、それによって問題意識がどう変わるのかを観察している思考が好きです。たとえば、この本の価格も「読んでから自由に決めてください」という実験で、中には定価の何倍もの価値を見出す人もいる。僕が書いた『即動力(SB新書)』(SBクリエイティブ)とも感覚が似ていて。おもしろかったです。

——HSPが引き合わせる出会いもありそうですね。この記事を読んだ人にも、HSPが人生に多くの気づきを与えてくれることが伝わればと思います。

田村:5人に1人ってけっこう多いし、まだ自分で認識できていない人が多いと思うんですよ。武田友紀さんの本『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(飛鳥新社)を読むだけでも救われる人がたくさんいると思います。それを知って余計に苦しくなることがあるかもしれないけど、知らないで死んでいくより、僕だったら納得した上で対処しながら生きていきたい。自分を100%理解するのは無理だけど、まずはひとつでも楽しめる繊細さを見つければ、あとはエンジンがかかってパーっと前に進めるような感覚になると思います。

取材・文=麻布たぬ 写真=吉本興業提供

※取材は、5月上旬、リモートで実施しました