『I”s<アイズ>』『ラブひな』『To LOVEる-とらぶる-』etc./【ALL30代男性】俺たちのラブコメ座談会

マンガ

公開日:2021/2/5

 主人公がヒロインと恋に落ちる。そのシンプルな物語にさまざまな味付けをし、ぼくら読者を楽しませてくれる「ラブコメマンガ」。少年時代に読んだそれは、いまでも忘れられないくらいのトキメキをもたらしてくれた。

 たとえば、繊細な絵の力とリアルな描写で、青春への憧れを抱かせてくれた『I”s<アイズ>』。一方で『ラブひな』や『To LOVEる-とらぶる-』はハーレムものの面白さを教えてくれたし、ラブコメとしても読める『GS美神 極楽大作戦!!』などは大人のお姉さんの魅力を知る一作でもあった……。

 そんな、枚挙に暇がないラブコメを愛し、ラブコメとともに大人になった男たちは、いまなにを思うのか。ALL30代のラブコメ好きが集まり、少年時代に夢中になった作品から大人になってハマった作品まで、縦横無尽に語り尽くすことに。

 ラブコメが男たちを魅了する理由が、ほんの少しだけわかる(かもしれない)座談会、いざ開幕――。

※本座談会は、『ダ・ヴィンチ』3月号「男と男のマンガの話」特集に掲載されている「三十路男子のラブコメ座談会」のWEB限定ノーカット版です。

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【ラブコメ座談会参加者】(イラスト=青木U平)
五十嵐…打たれ弱いライター
杉本…和装ライター
今川…マンガや映画が大好物の『ダ・ヴィンチ』営業マン
川戸…『ダ・ヴィンチ』編集者

少年時代に出合った胸キュン作品は忘れられない

五十嵐 少年時代に出合ってキュンキュンした作品って、大人になっても忘れられないですよね。ぼくにとってのそれが『GS美神 極楽大作戦!!』です。

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杉本 日曜日の朝に放送されていた作品ですよね。覚えてるなぁ。

今川 ぼくもアニメで観てましたよ。

五十嵐 ゴーストスイーパーっていう悪霊を退治する人たちの物語なんですけど、主人公の美神さんがとにかくカッコよくて。

杉本 いわゆるバブルファッションに身を包んだお姉さんでしたね。

五十嵐 ボディコンっていうのかな。タイトなミニワンピースにハイヒールを合わせていて、それで悪霊たちと戦う。常に高飛車で強気なんだけど、ときおり可愛らしいところも見せくれて、まさに“大人のお姉さん”だったんです。

川戸 それでいてセクシーなキャラでしたよね。

今川 そうそう。ぼくのなかでは『新世紀エヴァンゲリオン』のミサトさんにつながっているんです。

杉本 たしかにつながる! 似てますよね。

五十嵐 キャラクターとしての性格は正反対かもしれないけれど、魅力的な大人のお姉さんっていう意味では共通点があるかもしれない。

川戸 『GS美神 極楽大作戦!!』はもうひとりの主人公である横島くんがとにかく積極的なんですよね。

五十嵐 美神さんにアタックするんだけど、いつも半殺しにされてしまうっていう。美神さんはとにかく強いですからね。

今川 横島くんって結構ゴリゴリ攻めるキャラだったんですね。“ラッキースケベ”的な展開を待つわけではない。

五十嵐 果敢に自分から飛び込んでいくんですよ。それを美神さんが寸前でぶっ飛ばす。女王様と下僕みたいな関係で描かれていましたね。

杉本 そもそも横島っていう名前が“邪”を想起させますよね。振り返ってみれば、昔のラブコメは積極的なエロを描いていた。先程出たラッキースケベって、要するに受け身の展開じゃないですか。

川戸 いまは変わってきている?

杉本 そう思います。昔の作品は男性キャラクターが割と積極的なんだけど、最近はラッキーな展開を待っている感じがしますね。

今川 そこは時代の流れもあるのかな。

杉本 その流れを汲んだ作品が『To LOVEる-とらぶる-』だと思います。これは『週刊少年ジャンプ』(以下、『ジャンプ』)のラブコメマンガの歴史を変えた作品だといっても過言ではないと思う。

五十嵐 作者の矢吹健太朗さんって、もともとは『邪馬台幻想記』や『BLACK CAT』っていうハードボイルド風味のバトルマンガを描かれていましたよね。でも、登場する女の子たちがとても可愛かった。

杉本 そうなんですよ。それもあって、「矢吹先生がラブコメを描いたら面白いだろうね」と言われていたんですけど、本当に実現したんです。ぼくら読者からすれば待望ですよ。画期的なところはいろいろあったんだけど、一番は少年誌のギリギリのラインを攻めているところ。たとえば、『ジャンプ』連載時には不自然に隠されていた身体のパーツが、単行本化されたときにはちゃんと描かれてしまうんです。

川戸 それはすごいな。

杉本 単行本にすればなんでもアリ、っていうのを確立したマンガ家だと思います。読者も「あ、このシーンは単行本でちゃんと加筆されるんだろうな」ってわかっていたから、単行本がめちゃくちゃ売れた。

五十嵐 少年読者の「読んでみたい」という願望をちゃんと形にしていた作家なんですね。サービス精神が旺盛というか。

杉本 読者の想像の遥か上を行っちゃったんですよね。過去に連載していた『BLACK CAT』のキャラクターたちを『To LOVEる-とらぶる-』に出して、脱がせてしまう。

五十嵐 え! 作者自ら二次創作しているようなものじゃないですか。

杉本 そうそう。『BLACK CAT』を読みながら妄想していた少年たちの願望を、そのまま作者本人が描くんです。圧倒的な画力でそれを描いてしまうから、他の人が二次創作する余地がないくらい。途中から『ジャンプSQ.』に移籍して『To LOVEる-とらぶる-ダークネス』と名前を変えて続いていったんですけど、さらに描写が過激になっていましたね。

川戸 まさに歴史に残るラブコメだ。

ラブコメを読み、青春時代に憧れを抱いてしまった

今川 それではぼくは、『ジャンプ』つながりで『I”s<アイズ>』(以下、『I”s』)を推薦します。

五十嵐 ラブコメの王道が来ましたね。

今川 連載時は小学生だったんですけど、『I”s』で描かれていることって、中高生になったら経験できると思っていたんです。メインヒロインの伊織は演劇部に入っている高校生で、雑誌の取材を受けるくらい人気者で。主人公はそんな子と近づきつつ、他のヒロインとも微妙な関係になっていく。これが大人のリアルな世界なんだと思っていました。

川戸 ファンタジーではなく、非常に現実に即したストーリー展開に感じられるんですよね。

今川 でも……、実際にはそんな青春は送れなかった(笑)。

五十嵐 ただ、「もしかしたら、こういう出来事が起きるかも」と少年読者に期待を抱かせてくれますよね。エロもありつつ、ひとつの青春モノとしてしっかり描かれていたから。修学旅行でヒロインと同じ布団に寝るエピソードなんて、「こんな展開になったらどうしよう!」ってドキドキしますもん。

今川 まぁ、ないんですけどね。

杉本 でも、可能性はゼロではない。

今川 そういう部分の描き方が上手いんですよ。見事に少年心を弄ばれました(笑)。最終的には伊織が女優になるんだけど、ストーカーに付きまとわれてしまって。それを主人公が守り抜くっていう展開なんです。

五十嵐 好きな子を守るっていうのもリアルだなぁ。

杉本 2018年には実写ドラマ化されてますよね。連載されていたのは90年代の終わり頃だったから、正直「なんでいま?」って思ったけれど、もしかしたら子どもの頃にファンだった少年がプロデューサーになってドラマ化を実現させたのかもしれない。

川戸 そうだとしたらとても作品愛がある!

五十嵐 そう思わせるくらい求心力がある作品だったということでしょうね。ラブコメって実写化できるくらいリアルなものと、さすがにこれはありえないだろうっていうファンタジーなものと二分されると思うんですけど、『I”s』はとてもリアルに描かれていた。ドラマ化も納得です。

今川 そう、ちゃんとしたラブストーリーとして描かれていましたから。

川戸 だからこそ、読んでいて傷ついてしまうこともありますよね。

今川 いや、本当に……。

杉本 その点、『To LOVEる-とらぶる-』はとにかくファンタジーで、読者を楽しませることに特化していましたね(笑)。

川戸 リアルさだけがモノサシではないし、ファンタジーなラブコメも素晴らしいですよ!

本座談会の発端になった『ダ・ヴィンチ』3月号では、ラブコメから往年のサラリーマンマンガまで、「男と男のマンガの話」を徹底特集!