3月生まれの人は4月生まれを逆恨みしてる!? 3月生まれのつぶやきシロー『3月生まれあるある』が切なおもしろい!!

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公開日:2021/3/10

つぶやきシロー

 冬の寒さがやわらぎ、桜のつぼみもふくらんでくると、新しい季節への期待で、なんだかそわそわしてしまう……そう、日本の社会は、なにごとも4月が“はじまりの季節”。ところが、そんな習慣のせいで、割りを食っている人たちもいる。4月生まれの同級生に比べて約1年もあとから生まれた、3月生まれの人たちだ。

 幼いころはとくに発達の違いが目立ち、同級生に「おくれを取っている」と感じることが多いという3月生まれ。一方で、大人になると、同学年の人の中でも年を取るのが遅いというメリットもある。ほかにも「同じ年だと、何月生まれか必ず聞く」「年齢を学年で言う」など、3月生まれの悲喜こもごもを『3月生まれあるある』(つぶやきシロー/さくら舎)として1冊にまとめたのは、3月10日生まれのつぶやきシローさんだ。フォロワー95万人超(2021年3月現在)のTwitterアカウントでつぶやく“あるある”も人気の彼が思う、3月生まれの隠れがちな功績とは? 今後の人生で、挑戦してみたいこととは? お話をうかがった。

3月生まれあるある
『3月生まれあるある』(つぶやきシロー/さくら舎)

ピンポイントすぎるあるあるネタ、「3月生まれ」

──『3月生まれあるある』、3月生まれの切なさがよくわかりました……!

つぶやきシローさん(以下、つぶやきシロー) そうなんですよ。書いている途中で、出版社の人に「ネガティブすぎるので、ちょっと前向きな“あるある”も出してください」って言われたくらいですから(笑)。その流れで4月生まれの人を逆恨みしているふしもあるので、4月生まれの人が読むと怒っちゃうかもしれないなぁ。

 このテーマで本を書くことになったのは、音楽ユニット レ・ロマネスクのメインボーカルTOBIさんと、エッセイストの能町みね子さんという、3月生まれの人たちのトークライブに呼んでもらったことがきっかけです。そのトークライブを出版社の人が見に来ていて、TOBIさんと能町さんには「『3月生まれあるある』ってテーマだけじゃ1冊は書けないよ」って、出版を断られたんでしょうね……最後に僕のところに来たんじゃないかな(笑)。軽くOKしちゃったんですが、書きはじめたら、本当にページが埋まらないんですよ。ピンポイントすぎる“あるある”ですからね。3月生まれの有名人を取材して埋めていこうかなとも思ったのですが、けっきょくはネタとイラストだけで完成させました。

──収録されているイラストも、つぶやきシローさんが描かれているんですよね。ゆるカワな感じで、和みました。

つぶやきシロー 3月生まれ以外の人が読んでくれることもあるだろうし、ずっと字だけが続くよりは、イラストがあったほうが見やすいかなと。ちょっと多めの箸休め的なイメージで、「3月生まれあるある」にまつわるイラストや8コマまんがを描いてみました。ただ、おしゃれにタブレットなんかで描いているわけではなく、時間の関係もあって、「こんな感じでOKなら清書するから!」って提出した鉛筆描きがそのまま載っちゃった(笑)。絵のクオリティに関しては、目をつぶってください。

──あるあるネタを1冊分集めるのも大変だったのではないかと思いますが、ネタはどのように思いつくのですか?

つぶやきシロー 机に向かって考えます。僕は漫談のネタを書くときも、小説を書くときも、ぜんぶそうなんです。おしゃれにカフェで仕事、とかできないんですよね。コーヒーがぬるくなっちゃうなとか、ずっとお店にいて悪いかな、そろそろ出ていかないと、なんて気になって……。家でも、テレビをつけたり、音楽をかけたりすると、気が散っちゃって無理ですね。「そろそろサビだ」って気になるし、サビが来たら歌いたくなる(笑)。家にいても、なにもない状態で集中します。あ、でも、部屋の中は歩いてるかもしれないな。部屋の中でぐるぐる回ってるだけですけど、仕事しながら運動もできますし。

──執筆には、どのくらいの時間をかけたのでしょう。

つぶやきシロー 昨年の秋くらいにお話があって、そんなに焦るスケジュールでもなかったんです。それが、「あれ、ネタが出てこないな」と一度立ち止まってしまうと、ほかにも仕事をしながらの執筆だったので、頭の隅には常にあるんだけど……という状態になってしまって。

 でも、この3月に合わせて本を出さないと、次のタイミングは1年先ですよね。1年延ばして時間を取れば、そのぶんネタが出てくるかっていうと、たぶんそうでもない。「どうせ出すなら、今、出しちゃおう!」と、年末にがんばって書きました。出版社の人には、「来年の3月だと思って諦めてました」って言われちゃった(笑)。

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日本の社会をうまく回しているのは、早生まれの人!?

3月生まれあるある

──内容も、3月生まれの人の共感を呼びそうです。

つぶやきシロー 『3月生まれあるある』と言いつつ、“早生まれあるある”くらいに内容の幅を広げているので、1月生まれ、2月生まれの人にもわかってもらえると思いますよ。学年で一番遅い誕生日の、4月1日生まれの人についても書いています。誕生日がこのあたりの人は、4月生まれの人と、誕生日が1年くらい違いますからね。そこを対比させてみたりもしました。

──大人になってしまうと、ちょっとでも若くいられるのはうらやましいです……。

つぶやきシロー そうですね。小さいころは年齢を学年で言っていたのに、急に学年を言わなくなりますね。「20歳の学年です」って言うはずのところを「19歳」みたいに言って、同級生から「同じ学年でしょ!?」って突っ込まれる(笑)。でも、19歳は19歳ですからねえ。

 たぶん3月生まれの人は、それまでずっと、自分の年齢を学年で言ってきたと思うんです。日本は学年社会ですから、そこをはっきりさせないと、敬語を使ったり使わなかったり、あとから気まずい感じになっちゃう。早生まれの人が前もってちゃんと確認するっていう面倒な作業をしているから、日本の社会はうまく回ってるんですよ(笑)。そんな大事な作業をね、早生まれ以外の人は、ふだん「はいはい」みたいな感じで聞き流してしまっているんです。この本を読んではじめて、「あ、そうか」って気づいてくれるみたいですよ。

──人間、きちんと話し合わないと、わかり合えないですね。

つぶやきシロー そうなんですよ。そういう面倒で重要な作業をぜんぶ、早生まれ、とくに3月生まれが受け持ってるんですよっていう大変さを知ってもらいたいんです! そして、3月生まれの人で一致団結したい。でも、いまだに3月生まれの人の感想を聞けていないんですよね……取材でも、「3月生まれです」っていう人には会わないし。

──Twitterなどで、3月生まれの人が感想を書いてくれているのでは? 1日にひとネタのペースで続けていらっしゃって、すごいですよね。

つぶやきシロー あっ、そうか、誰かが『3月生まれあるある』の感想を書き込んでくれてる可能性もあるんですよね。Twitterは、発信しているだけなので……ぜんぜん使いこなせていないんですよ、機械にも弱いし。

 Twitterは、1日に1回くらいはお笑いの脳を使おうと思って続けているのですが、毎日のことだから、「今日はもうお酒を飲んで寝ちゃおう」という日もあります。昔なら、そんな日でも夜中の3時には起きて、つぶやいていたんですけどね……誰かに褒めてもらえるわけでもないし、ただでさえやめたくなっちゃうので、最近は「やらない日があってもいいや」って、自分を甘やかすことにしています。

──昨今、SNSを続けていくのも大変ですしね。

無理をして情報過多になっても、おもしろいネタにはできない

──反対に今後、挑戦してみたいと思うことはありますか?

つぶやきシロー 人生の目標ですか?(笑)日本人として生まれたからには、一度くらいは富士山に登ってみたいと思いますね。でも、普通のシーズンに行くと、人だらけで「山」という感じがしないと聞いたので、まわりに人がいないコースを登りたいです。富士山じゃなくて、日本の山の中で2番目に高い北岳なんかに登るのもいいかもしれないな。

 読書もね、読まなくちゃという気持ちはあるのですが、読んでいるうちに言葉からいろいろ連想してしまって、なかなか進まないんですよ。これまでに読んでこなかったぶん、マンガは『ONE PIECE』や『キングダム』から取りかかりますから、『鬼滅の刃』にたどり着くまでにはけっこう時間がかかりそうです。小説は『ノルウェイの森』から、映画も『ロボコップ』からだから、『ラ・ラ・ランド』まで行くのは大変だなあ。

──まだまだ、ひとりで楽しめそうですね(笑)。

つぶやきシロー そうそう(笑)。僕、世の中の流行りから、ものすごく遅れてるんです。これも3月生まれのせいだと思うんですけど(笑)、あるあるネタをやっている人間としてはダメですよね。流行も、常に把握しておくべきだとは思うのですが、一方で、そこまで仕事に生きたくないよと思う自分もいる。仕事ですから、ある程度の無理は必要かもしれませんが、無理をしすぎて情報過多になっても、自分の中で消化しきれないし、ネタとしておもしろくもできないんじゃないかなと。若いころ、そうやって無理をしても、けっきょく成果はあげられませんでしたからね。もちろん、無理をして成果をあげられる人もいるけれど、それはその人の運もある。だから、自然と諦められるようになりましたね、「もういいや」って。

 本当は、見栄を張る必要ってないんですよね。たとえば、ちょっと運動するにしても、どこのジムに通って、どういうウェアを着るか、「どう見られているか」を気にしてしまうから、しんどくなるんだという気がします。そこを気にするのをやめると、けっこう楽になるんですけどね……気にするのをゼロにまでしなくても、そこまで第一に考えなくてもいいんじゃないかなと思います。

人生でやりたいことは「子どもを育ててみたいです」

つぶやきシロー だけど、ある程度の諦めがあると、人生にやりたいことなんてなくなっちゃうんですよねえ(笑)。こういうことを言っていると老けるとも言われますし、正解はないんだと思いますが……あ、でも、やりたいことといえば、子どもを育ててみたいです。結婚は考えていませんけどね、わずらわしさしかないから。

──同感です。でも、この『3月生まれあるある』を読んで、誕生日というのも自分ではどうにもできないものだよなあと思いましたし、「そんなこと考えてたんだ」という気づきを笑いのテイストで見せてもらえると、実際に当事者と話してみたくなりました。「そういえば、どうして日本って4月はじまりなんだろう?」みたいに、当たり前だと思っていたことにも目が向きますよね。ちょっと大げさかもしれませんが、笑いを手がかりに、みんなでなにかを語り合うきっかけにもできる本だなと。

つぶやきシロー ありがたいですね、そう言ってもらえると。

──ご本人としては、この本をどんな人に読んでもらいたいですか?

つぶやきシロー まずは3月生まれの人に読んでもらいたいです。この本を2月に発売したのは、3月生まれの人の誕生日プレゼントにどうぞという意味なので(笑)。誕生日プレゼントって、けっこう悩みません? 変に高いものをあげるより、こういう本をギャグっぽいノリであげるのも、しゃれがきいていておもしろいんじゃないかなと。そうやって、まずは3月生まれの人の同意を得たいです(笑)。ネタはもうこの本で出しつくしたので、続刊は難しいし、ほかにも同じネタの本は出てこないんじゃないかな。めずらしい3月生まれあるある本として読んでいただけると、ありがたいです。

取材・文=三田ゆき