毎週更新! みんなで語る『バック・アロウ』特集⑧――フィーネ役・小清水亜美インタビュー

アニメ

公開日:2021/3/20

バック・アロウ
TVアニメ『バック・アロウ』 TOKYO MXほかにて毎週金曜24:00より放送中 (C)谷口悟朗・中島かずき・ANIPLEX/バック・アロウ製作委員会

 信念が世界を変える! 壁に囲まれた世界リンガリンドに、謎の男バック・アロウが落ちてきた。壁の外から来たというその男をめぐり、リンガリンドの人々が動きはじめた。

 信念が具現化する巨大メカ・ブライハイトを駆使して、壁の外へ帰ろうとするバック・アロウ。その彼をめぐってリンガリンドの国々は、様々な策謀をめぐらしていく。ものすごいテンポ感とともに、壮大な世界がつむがれていく「物語とアニメの快楽」に満ちた、この作品が描こうとしているものとは――?オリジナルアニメ作品ならではの「先が読めない面白さ」を味わうべく、『バック・アロウ』のスタッフ&キャストの連続インタビューをお届けしている。

 第8回は、リュート卿和国を治めるフィーネ・フォルテを演じる小清水亜美が登場。中島かずきが脚本を手掛けた『キルラキル』の主人公・纏流子役を務め、谷口悟朗監督作品『コードギアス 反逆のルルーシュ』でヒロインのカレン・シュタットフェルト役を務めた彼女は、『バック・アロウ』での表現にどのような面白さを感じているのだろうか。

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フィーネは、谷口さんと中島さんのおふたりが作るキャラクターらしいな、と思いました

――オリジナル作品である『バック・アロウ』の企画を知ったときに、小清水さんの中で最も気になった部分はどんなところでしたか。

小清水:最初にこの作品と出会ったのはオーディションでした。オーディションを受けるときに、フィーネのざっくりとしたキャラクター設定と喜怒哀楽のセリフを4種類いただいたんですね。その段階では細かい設定は書かれていなくて、フィノワール(フィーネのもうひとつの人格)のことは知らなかったのですが、喜怒哀楽のセリフがどう読んでも二重人格で(笑)。怒りのセリフと楽のセリフの落差がものすごかったんです。この落差が中島さん(シリーズ構成・脚本)らしくもあり、谷口さん(監督)らしくもあるな、と思いました。

――小清水さんは、中島かずき作品では『キルラキル』(主人公の纏流子役)、谷口悟朗作品では『コードギアス 反逆のルルーシュ』(カレン・シュタットフェルト役)と、おふたりの作品に出演されていますね。

小清水:そうなんです。『コードギアス』で谷口さんにお世話になったときは、カレン・シュタットフェルトという役だったんですが、彼女は紅月カレンと名乗っていて、学校で見せる顔と黒の騎士団のメンバーとして見せる顔がある、二面性を持ったキャラクターだったんです。中島さんとは『キルラキル』でフィノワールに近いキャラクター性をやらせていただいていたので、フィーネは谷口さんと中島さんのおふたりが作るキャラクターらしいな、とすごく納得しました。

――オーディションのときは、フィーネにどのようにアプローチしたのでしょうか。

小清水:そのオーディションでピックアップされていたセリフが「この靴を舐めな、くそじじい」というセリフだったんです(笑)。そのオーディションは、テープオーディション(指定されたセリフを吹き込んだテープを提出する)だったんですけど、フィーネの声のまま「くそじじい」と言ってみたり、テープ録りを楽しませていただきました。

――フィーネが皇女卿を務めるリュート卿和国の印象をお聞かせください。

小清水:フィーネ役の初登場は第2話でした。まず各キャラクターの特徴をまとめたものを書面でいただいて、現場で具体的に説明をしていただいたんです。驚くことも納得することもありましたが、ワクワク感とドキドキ感がありました。ただ同時に、重圧も感じましたね。今回、役者はストーリーの展開を事前に聞くことなく、毎回の収録のたびにストーリーを知っていったんです。

――じゃあ、フィーネとフィノワールも、ストーリーが進むにつれていろいろと具体的になっていったんですね。

小清水:私たちもストーリーを知ってしまって、そのシーンで感じた感情をあとから作り直して、嘘になってしまってはもったいないなと思っていました。それこそ谷口さんの『コードギアス』のときは、まさに先がわからなくて、毎回収録のたびにキャストが自分のキャラクターが次週死ぬんじゃないか?と戦々恐々としていましたから(笑)。でも今回はコミカルな要素もあって、台本をいただくたびに笑ってしまうエピソードがたくさんあったので、今回は先のストーリーを教えていただかなくて、むしろありがたかったなと。『バック・アロウ』にはシリアスな展開もあるんですが、そういうシーンはまさに視聴者のみなさんと同じ気持ちで楽しむことができました。

――ふたつの人格を持つフィーネとフィノワールという役柄を、どのように演じようとお考えでしたか。

小清水:フィーネとフィノワールの関係を説明していただいて、そのうえで演じ分けていました。ただ、演じているときの感覚としては、やっぱりひとつの肉体なので、どちらも別人格と言い切れないところがあって。フィーネとフィノワールの声に差をつけたとしても、私の身体はひとつだから成立するだろうと思ったんです。

――じゃあ、フィーネとフィノワールを演じ分けていたんですね。

小清水:上手く伝わるかどうかわからないのですが「ひとつの機体にパイロットが違う」という感じがありました。フィーネというかよわき女の子の身体に、違うパイロット(フィーネ、フィノワール)がそれぞれ乗ることで、違いが出てくる。フィノワールは心のパワーが強いので、声も強く芯のある感じになって、結果として低い声になる。フィーネはみんなが笑顔でいてほしい、幸せでいてほしいと思っているものの、優しさゆえに強く出ることができない。強く出ることで誰かを傷つけたくない。だから、柔らかい音で人と話したいと思っているんだろうなと考えました。

――ひとつの肉体でありながら心持ちが違うから、声も変わってくるということですね。

小清水:メンタルの違いが、声の違いとして伝われば良いなと思い、演じていました。フィーネとフィノワールの原動力は「愛」なんです。でも、「愛」のかたちが違う。嗜好や求めるものが変わってくると、お芝居の構築も自分の心持ちも大きく違ったので、収録のときは自然とスイッチが切り替わるようになりました。

――フィーネとフィノワールを演じるときは、分けて収録していたんでしょうか?

小清水:そうですね。テスト収録のときは続けて演じ分けたりもしましたが、本番収録のときはフィーネも思う存分やりたいし、フィノワールも存分にやりたい。なので、先にフィーネをまとめて録らせていただいて、そのあとにフィノワールをまとめて録るように、こちらからお願いしました。やっぱりフィーネは繊細な一面があるので、フィノワールの荒ぶった感情を演じた後だと、なかなか難しいなと。あと、のどを使い切らないようにするという意味でも、フィーネを先に録る方が良いなと思っていましたね。

――リュート卿和国には、皇女卿に忠実なプラーク機甲卿、三木眞一郎さんが演じるルドルフ、デマイン合唱団を率いるデマインなど、個性豊かな人物がたくさんいます。小清水さんの印象に残っている人物をご紹介いただけますか。

小清水:我が国リュート卿和国は、どちらかというと頭脳派集団であり、レッカ凱帝国とは違った濃さがあるんです。だから、心強くもあり、同時にものすごく不安にもなるんですよね。でも、その個性の強いメンバーの中で、誰よりも和を乱しているのはフィノワールなので……(笑)。本当にプラーク(・コンラート)に頼りきりだなと思っています。私は個人的に、デマインが率いるデマイン合唱団が大好きで。収録の時は、アフレコブースで歌を録っているんです。それを観ていたら、一緒に歌いたくなってしまって(笑)。「私もやりたい」とお願いして、参加できるときは、こっそり私も参加して合唱曲を歌っています。

――まさかフィーネ皇女卿の中の人が、合唱団にいたとは!

小清水:まだコロナ禍が問題になる前で、キャストがみんな集まって収録をしていた時期だったので。合唱曲の収録のときは、合唱団のキャストのみなさんに「我が国のために、みなさんどうぞよろしくお願いします」とご挨拶してから、私も一緒に歌いました(笑)。

――歌詞もすごいですよね。

小清水:いやー、最高の歌詞だと思います。楽しかったです。

――そんなリュート卿和国に、主人公バック・アロウがやってきます。これまで小清水さんは中島作品では主人公・纏流子役として。谷口作品ならば主人公ルルーシュを支えるカレン役として。さまざまな主人公像を演じ、ご覧になってきたと思います。今回の主人公像をどんなふうにご覧になっていますか。

小清水:今回の主人公は、谷口さんと中島さんのタッグにより生まれた、まさに「静と動」が同時に存在しているキャラクターだと思います。アホだけどアホじゃない。すごく良いヤツなんだけど、善意だけで動いているわけでもない。思考パターンもシンプルなんだけど、彼なりの考え方がある。よく考えると、すごく複雑な主人公なんです。フィーネの目線でアロウを見ているときは、どうしても戦争は人の殺し合いになってしまうという大前提を覆してくれる「希望の光」のようにも見えましたし、フィノワールから見ると「つかみどころがない男」。これからどんなふうに変わっていくのか、ワクワクする主人公だなと思いました。

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谷口監督は、作品にとって必要なことと必要じゃないことの取捨選択がものすごく明確にある方だと感じる

――谷口監督と中島さんの両作品を知る小清水さんが『バック・アロウ』をご覧になって、どんな印象をお持ちですか?

小清水:谷口監督は、作品にとって必要なことと必要じゃないことの取捨選択がものすごく明確にある方だと感じています。作品によって谷口さんは自分のスタイルを変えていらっしゃる部分があると思うのですが、『コードギアス』のときは大河内(一楼・脚本家)さんとのタッグだったので印象がまた違っていて、まるで戦場の張りつめた空気を出しているような感じがありました。まわりの人にも自分にも刃物を突き付けているような感じがあったんです。でも今回の『バック・アロウ』の現場では、笑顔の谷口さんを見る機会が本当に多くて。『コードギアス』のときとは違った楽しみ方をされているのかな、と感じました。中島さんの書く脚本は、ものすごく楽しい玩具箱みたいな感じがあります。大きな風呂敷を広げて、いろいろなものが入っているんですけど、散らかったものはちゃんと回収していく。谷口さんの効率の良い取捨選択と、中島さんの玩具箱が合わさっていくことで、メリハリがすごく大きくて、ほかの作品にはない静と動のバランスになっていると思います。きっと『バック・アロウ』をご覧になっている方は納得していただけるんじゃないかと思うんですが……。

――たしかに『バック・アロウ』はコミカルとシリアス、スピード感とドラマ、ドライとウェットのバランスが、とてもユニークですね。

小清水:そうなんですよ。とくに「美少年牧場」が登場した回(第6話「美少年牧場ってマジなのか」)は、圧倒的にオカシイですよね(笑)。美少年たちがたくさん出てきて、美少年粒子がキラキラ光っているという面白い描写があるんですけど、ストーリーはとってもシリアス。セリフひとつひとつが考えさせられる内容になっている。でも、コミカルなんですよ。このバランスが、不思議なんですよね。本来だったらどちらかになる要素が、同時に存在しているフィルムがとても個性的だなと感じています。

――物語上ではいよいよリュート卿和国とレッカ凱帝国の戦争が始まります。

小清水:フィーネとフィノワールというひとつの身体を使っているふたりが、この先はどうなっていくのか。主導権は誰が持つのか。そこがシリーズ中盤の見どころになると思います。リュート卿和国は国としてもとても不安定な状態なので、この先どうなっていくのかも楽しみにしていただきたいですし、この作品の華であるブライハイト戦もこれからどんどん変化をしていきます。ぜひ楽しみにしていただきたいです。

――さて、この特集では毎回、次回のインタビューに登場していただくキャストの方へメッセージをいただいています。ゼツ・ダイダン役の堀内賢雄さんに、メッセージをいただけますか。

小清水:賢雄さんが出演されている作品も拝見していますし、お仕事の中で賢雄さんとご一緒することもあるのですが、『バック・アロウ』では、これまで見たことのない賢雄さんのお芝居を見ることができました。これまで本当に多くの役を演じられていますが、それでもなお新鮮なお芝居をされている。『キルラキル』(堀内賢雄は満艦飾薔薇蔵を演じている)のときとはまた違った関係性になりましたが、「今回はどうでしたか?」と、怖いながらも伺ってみたいです(笑)。

『バック・アロウ』特集 第9回(堀内賢雄インタビュー)は3月26日配信予定です。

TVアニメ『バック・アロウ』公式サイト

取材・文=志田英邦