アイドルマスター 15周年の「今までとこれから」⑪(水瀬伊織編):釘宮理恵インタビュー

アニメ

公開日:2021/6/16

水瀬伊織
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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関わっている人が、『アイドルマスター』を好きでいてほしい

――楽曲のお話を伺わせてください。シンプルに、釘宮さんが個人的に大好きな楽曲と、その理由を聞かせてもらえますか。

釘宮:いっぱいあって、どうしよう?

――だいたい皆さん、第一声は「選べない」から始まることが多いですね(笑)。

釘宮:ですよね(笑)。難しいなあ、大好きな曲はほんとにいっぱいありすぎて、選べないです。たとえば、ライブでやる曲に入ってたら嬉しいのは、“自分REST@RT”と“カーテンコール”です。いや、でもほんとはもっといっぱいあります。

――“自分REST@RT”がセットリストに入っていると嬉しいと感じる理由とは?

釘宮:あのオケの感じを聴くと、ドキドキしませんか? すごく気持ちが上がって、テンションが高まるというか。あと“M@STERPIECE”もそうですね。みんなで歌う、テンションが上がる曲が大好きなんだと思います。私たちだけではなくて、プロデューサーの皆さんが盛り上がってくださってるのを感じられるのが嬉しいし、それこそがライブの醍醐味ではなかろうか、と思います。

――今回は新たに『MASTER ARTIST 4』がリリースされるということで、音源も聴かせてもらったんですが、伊織の新曲“ソナー”は楽曲として最高でした。

釘宮:おお~、ありがとうございます。実は、音楽プロデューサーの伊香賀(進)さんという方が、信じられないくらい悩んでくださってたんですよ。収録自体は、1年以上前からやっていますが、ソロ曲に関して「どうしよう?」ってずっと悩んでくれていたみたいで、悩み過ぎて闇堕ちしちゃうんじゃないかな?って心配になるくらい、ソロ曲に関して悩んでくれていて。私の希望としては、今まではかわいらしかったり、お洒落な曲が多かったので、カッコいい曲がいいな、と思っていて。伊織の新しい一面が見られるような曲になるといいな、と思っていました。

――最近の音楽のトレンドも投影しつつ、伊織らしさもしっかり表現されているという点で、素晴らしいソロ曲だな、と感じました。

釘宮:そうそう、私もそう思いました、「こういう感じなのね」と思って。「カッコいいのがいいな」と思っていたし、ロックっぽい感じで来るのかと思っていました。でも全然違っていて、カッコいいけれど、今っぽくて、お洒落でカッコよいってこういう形なんだなあ、やっぱりお洒落さは伊織についてくるものなんだなあって改めて認識しました。そうそう、泥臭いのは来ないんだなって(笑)。で、歌詞はずいぶん攻めてるなって感じました。優等生であるだけじゃなくって、心の中の葛藤や悩み、心の中でだけは、ちょっと不良になってるんだよ、みたいな。普段いい子でいる分、心の中をお見せできるような歌詞になっていて、私にとってはすごく共感性が高かったです。

 レコーディングでは、「伊織の反抗期だあ」と思って、エモい感じで歌ってみたかったのですが、伊織ってある程度整ってないと伊織っぽく聞こえないという葛藤があって(笑)。そこまで荒ぶりすぎずに、整っている中にも、ちょっとでも荒ぶる気持ちを伝えたい私と、整ってる中にも荒ぶるものを入れてあげたいけど、でも荒ぶり過ぎていると伊織じゃないからちょっと整っている感じでください、という攻防があった気がします(笑)。

――(笑)釘宮さん的には、今回は比較的荒ぶりたかったんですか。

釘宮:もっと、8割ぐらい荒ぶりたかったです。着地は、いつもの伊織テイストになっていると思います。私が「荒ぶりたいんだよお~!」と言っても「はいはい、伊織はここまでね」みたいな――そうなんです、伊織っぽさはそうやって作られているんです(笑)。

――(笑)従来の伊織からはみ出そうというチャレンジもありつつ、伊織らしさもしっかり入った楽曲になっていった、と。

釘宮:はい、そう思います。それにしても、今までの伊織っぽさよりはだいぶ等身大の人間っぽさというか、その年頃の少女の持っているナイーブさがあふれた感じにはなっているんじゃないかなあ、と。

――『MA4』を制作するにあたって、らしさを突き詰める・新しい一面を見せる、のふたつの方向性で言うと、釘宮さんの中では後者が念頭にあった感じなんでしょうか。

釘宮:そうですね。新しい一面を出したいなあって思っていました。伊織らしさを追求するにしても、新しい一面を見せるにしても、やっぱり「喜んでもらいたい」という気持ちが大きくあるから、どっちの方面でも突き抜けて頑張りたいと思ってくださるスタッフさんが楽曲を作ってくれること自体が、『アイドルマスター』の強みであり、ありがたさだなって思います。そう、プロデューサーの伊香賀さんは、“New Me, Continued”に対するこだわりがハンパなくて(笑)。もうね、並々ならぬ気合いでした。キャストのみんなも、すごく頑張ってくれてるって感じていると思います。

“New Me~”は全員曲ですし、そこでも今までと違った765プロダクションを見せたい、みたいな気持ちが強くありましたが、歌を録るときに、「何も強調しないで、ただサラッと歌ってください」みたいなディレクションがありました。でも私としては、自分の中で長年積み上げてきた伊織っぽい歌い方があって、それをやりたかったのに、「いや、もうちょっとサラッとお願いします。なんの抑揚もつけずにお願いします」ってひたすら言われて。その収録のあと、数日どころじゃなく、長い間悩んでいました。「あんなの伊織じゃない~」みたいな。伊織っぽいところを作って歌うから伊織っぽくなるのであって、「伊織っぽさを省いちゃったら、ただの私じゃない!?」と思って、悩んでいました。でも、全曲分の資料をいただいて聴いたときに、“New Me~”がちゃんと伊織の曲として成立していて、感動したんです。

――完成した音源を聴いて、初めて気づくことだったわけですね。

釘宮:そうなんです。歌っているときは、伊織っぽいことを何もしていないから、「もう、絶対伊織じゃない感じになってるよぉ~」って思って悩んでましたが、まとめて聴いてみたらちゃんと伊織でした。15年やってきて、「まだ知らないことあったんだなあ」って思いました。「伊織じゃない!」って思っていてもちゃんと伊織に聞こえることってあるんだなっていうのが新しい発見でしたし、そう思わせてくれるように、強い気持ちでディレクションしてくださって、すごく感謝しています。

――いったん疑心暗鬼になったけど、曲を聴いたら全面の信頼になったわけですね(笑)。

釘宮:はい(笑)。今回の『MA4』のソロとカバーは、どちらも伊織の、普段は表に出していない内面を表現している3曲だなって思いました。“マジで…!?”は765プロで活動してるときの伊織の感じで、で、“New Me~”は765プロにいながらも、アイドルとしての内面を表現しているのかなって思います。自分としても、今まで以上に伊織という人間の内面にグッと迫っている曲になった気がしていて。より立体的に、実感を伴った伊織を感じられる曲たちだと思います。

――このテキストを読んでから『MA4』を聴いたら、ものすごく味わい深いんじゃないかと思います。たまたま伊織らしさが伝わってくるものになった、ではなくて、意図と意志を持って取り組んだ結果、より伊織が感じられる楽曲になっている、ということなので。

釘宮:「どんなことがやりたいか」と訊かれたときに、伊織ってどうしても、普段から完璧なのにステージに立つときにはもっとギアを入れて、もっとアイドル!になる、プロ意識の塊のような子だったりするんですね。だから余計に、内面が見えることが少ないのかも、みたいなことを思ったりもしていて。どうしても、しっかりして冷静な部分があるので、まわりが賑やかにしていると「やれやれ」「まあまあ」「しっかりしなさいよ」みたいな、精神的お姉さんの立ち位置に回ることが多くて。実際に、「子犬時代」の伊織が表に出てくることって、最近はとみに減っている気がしますけど、ほぼ等身大の女の子としての気持ちのほうをやりたいですって、ついつい私はなってしまいます。

――“New Me,Continued”の歌詞の中で、《変わりゆく景色/変わらない願い》というフレーズが印象的だったんですが、釘宮さんにとって『アイドルマスター』に関わり続ける中で「変わらない願い」という言葉はどんな意味を持つでしょうか。

釘宮:哲学的ですね(笑)。変わらない願い……そうですね、演じている私たちは当然変わっていくし、作っているスタッフさんたちも変わっていくので、今すでに、当初の作品からはずいぶん成長して、こういうところまで来ているし、何もかもが変わっていくとは思います。でもやっぱり、関わっている人が、『アイドルマスター』を好きでいてほしいなって思いますね。プロデューサーさんも演者も、作ってくださってるスタッフさんたちや会社の人たちも、みんなの「好きだなあ」っていう気持ちがあるからやっていけてるし、みんながひとつに集って楽しさを共有できる場所であれたら、素晴らしいことだなあって思います。

――では最後に、長い時間をともに過ごしてきた『アイドルマスター』は釘宮さんにとってどんな存在であるか、そして一緒に歩んできた伊織にかけたい言葉。このふたつを聞かせてください。

釘宮:え~、なんだろう? なんだろうなあ……育ての親(笑)。いろんなことを学ばせてもらってるなあっていつも思うので、育ての親、ですね。伊織に今かけたい言葉は、「これからもよろしくね」です。


取材・文=清水大輔