泉ピン子のおかげ? 勝俣州和が語る「芸能界で生き残る」秘訣

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更新日:2022/2/16

 2021年にYouTubeチャンネルを開設するなど、新しいスタイルを柔軟に取り入れながら長く芸能界を生き抜いている勝俣州和さんが、新著『全力疾走するバカになれ~明るく、楽しく生きたい人に贈る75の言葉~』(小学館)を上梓しました。仕事術や夫婦円満の秘訣、子育てのコツなど、明るく楽しく生きるための75のヒントが綴られています。

 勝俣さん自身、これらの言葉に出会うまでに、さまざまな出会いに支えられてきたとか。このインタビューでは、「言葉」に出会った人生を振り返っていただきながら、本書の魅力に迫ります。

(取材・文=吉田あき)

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目指せ! 令和の相田みつを

――芸能生活が長い勝俣さんですが、本書には一般の私たちもハッとさせられるような言葉が並んでいます。これらの言葉はどこから生まれたのでしょうか。

勝俣州和(以下、勝俣):小学校の頃から、気になった言葉をノートに書きためていたんです。それこそ偉人の言葉から、親戚や近所のおじさんの言葉まで。僕自身も言葉に助けられたことがたくさんあったし、誰かに役に立つ言葉を集めるのはどうかと思い、自分で感じる言葉も含めて一冊にまとめました。

――軸となるテーマはあったのでしょうか。

勝俣:勝手に考えたテーマは、打倒・相田みつを。相田みつをさんが大好きで、千代田区の美術館にしょっちゅう行ってるし、息子さんとも仲良くさせていただいてるんだけど、これだけ社会が変わっているのに、なんで“現代の相田みつを”が現れないんだろうと思っていたんですよ。相田みつをさんの言葉に救われてきたからこそ、今の言葉で人の力になれる「令和の相田みつを」になりたいと、ふざけて始めたのがこの本のきっかけですね。

――勝俣さんならではのギャグテイストも加わっていますね。

勝俣:立派な人の言葉って、立派すぎて僕のような凡人には届かない時があるんですよ。落ちこぼれ先生の言葉が落ちこぼれ生徒に響くのと同じで、僕のような凡人の言葉のほうが人の心に残るかもしれない。だから、ギャグを交えつつ、子どもから年配の方まで誰にでも響く言葉を目指しました。もともと偉そうな人が好きじゃなくて、自分もそういう存在になりたくないんですよ。失敗をした時に上から怒るより、落ち込んだ心に下りていって一緒に解決法を考えられるような先輩のほうが助けになるなと、自分自身も感じてきたから。

――たびたびご自分が凡人だという言葉が出てきますが…。

勝俣:いやいや、だって何の才能もないと思っているから。高校の先生になろうと思って大学に進学したけど成績は良くなかったし、たまたま一世風靡から欽ちゃん(萩本欽一)の番組で拾ってもらっただけ。一世風靡塾、和田塾、とんねるず塾に入っていろんなことを教えてもらいながら、ただ遊んできたという感覚です。もし持っているものがあるとしたら、エネルギーくらい。遊ぶ時はいつも全力でしたから。

――「全力」が本作のタイトルにもつながりますね。先ほどの「偉そうな人になりたくない」という気持ちは、芸能界の中で揉まれるうちにブレることはありませんでしたか?

勝俣:出会いに恵まれていたんですよね。たとえば、一世風靡の人たちはみんな自分に厳しくて嘘のない人生を送っている人たちだし、萩本欽一さんはお笑いを通して人の心を温めている優しい人。ああいう天才たちでさえ努力を重ねて突っ走っているんだから、僕みたいな凡人はあの人たちの5倍も10倍も考えないと。そういう背中を見せてくれる人がいっぱいいたからブレなくて済んだのかなと思いますね。

常識を知ることが芸能界で生き残る秘訣

『全力疾走するバカになれ 明るく、楽しく生きたい人に贈る75の言葉』(勝俣州和/小学館)

――“勝俣流うまくいく仕事術”の一つに「爪痕はいらない。爪を切ってテレビに出ましょう」という言葉があります。実力がモノを言う芸能界では、爪痕を残して視聴者にインパクトを与えないと生き残れないような印象がありますが、そうではないと…?

勝俣:芸能界に限らず一般の人でも、若い人は「爪痕を残そう」なんて言うけど、その前に必要なのはチームとしてのパス回し。パスもできずにチームに入っても試合にならないし、まぐれでシュートできたとして次はパスが回ってこないかもしれない。だから、パスがうまく回せるようになってからシュートを狙えばいい。新人時代、自分の力でウケていると思っていたけど、先輩の優しいフォローがあったから笑いを取れていたんです。今思えば、チームプレーで成り立っている現場で自分が一番目立ってやろうなんて、なんて失礼だったんだろうと思いますよ。

――だから、爪痕なんていいから爪を切ってこい! と。

勝俣:そう。お行儀をまず覚えてほしいですよね。欽ちゃんや志村けんさんが言ってましたけど、お笑いって、みんながやらないような「非常識」をやるから面白い。非常識をやるにはまず、常識を知らないといけないんです。芸能界で生き残っている芸人はみんな常識人。まずは普通のことができてから、普通を崩していくことで面白くなるんです。

女性の愚痴には幽体離脱が効果てきめん!?

――家族や子どもとの向き合い方に触れた章では、「夫婦喧嘩、『男の負けるが勝ち』で夫婦円満」という言葉が印象に残りました。男は打ち合うのではなく、スパーリングだと思って女性に付き合ってあげれば相手はスッキリする、と。

勝俣:女性って、もう一生会わないような感じで相手の首を狩りにくるでしょ? 男は最後まで倒さない。打ち合っても、最後はわかり合って手を取り合っていく。だから女性は喧嘩が下手というか、喧嘩の仕方が男女でまったく違うんです。

――頷いている女性陣は多いと思います(笑)。

勝俣:そう。全部言いたいんでしょうね。ゴミ出しの時も、「こんな出し方ではダメ」って言わないと気が済まない。本当は男性だって、奥さん同士で飲んだワインの瓶をゴミに出してるんですよ。でも「俺がしまったんだぞ」なんて言わないの。朝の空気が壊れるのがイヤだから。それを言うのが女性なんですよ。だから「へえ、すごいね。こんな気持ちのいい朝にそれが言えるんだ」って思うんだけど、これは全部吐かせてあげたほうがいいなと思って。

 だから最近は、女性がウワッとなっている時に、魂をそのへんに寝かしておいて幽体離脱できるようになりました。それで、グッと上がっていた目が元に戻ってきた頃に「うん、そうだな」って言えばいいかなって(笑)。

――幽体離脱で言葉をグッと飲むんですね(笑)。

勝俣:生き物として全然違うんだもん。それでいいやって思うんですよね。だから、男女が一緒に暮らすなんて、ド修行ですよ。一番言われたくないことばかり言われるんだから。一番びっくりしたのは、妻と喧嘩して、話したくないから黙ってる時に、近くにきて「時間が解決すると思ったら大間違いだからね」って言われたこと。いいこと言うなと。時間が経てば傷も癒えるんじゃないかと思うけど、よく考えれば、それじゃまた同じことが起きるから、ちゃんと解決しないとダメなんだよね。その言葉に出会っただけでも、この人と一緒になれて良かったなと思いますよ(笑)。

活躍の場があれば「二兎を追う」のもいい

――「二兎追いたかったら二兎追いましょう。三兎、四兎が現れます」という言葉は、一つの職場に骨を埋めることが少なくなってきた今の時代にも響くと思います。勝俣さんご自身も、二兎追うことで得られたものは多かったのでしょうか。

勝俣:一筋で行くのもかっこいいけど、自分の未来を決めつけると道が狭まるような気がして、活躍の場があるならいろいろやってみればって思うんですよね。もちろん「二兎を追う者は一兎をも得ず」という言葉も大事で、泉ピン子さんからも「芸能の神様がいるんだから、芸能をやってるなら副業なんかやるな。芸能一本でやってるから応援してるんだ」と言われたから、それを守ってるんです。だから、芸能の中で二兎、三兎追うのはいいのかなと。2021年はYouTube(勝俣かっちゃんねる)に誘ってくれた人がいて、「僕に面白さを見出してくれているのなら」と思って始めてみたんだけど、これが面白いんですよ。

――どんなところが面白いのでしょうか?

勝俣:YouTubeは掘れば掘るほど出てくる油田みたいな場所。テレビは基本的に受け身だけど、YouTubeでは自分の頭で考えたことを発信できるし、人の反応がダイレクトでわかるから面白い。意外だったのが、100万回以上再生された『ケンカ最強』。普段はグルメロケが多いから、コロナ禍にあわせて有名店のお取り寄せとかをやったんだけど、これが1000回くらいしか再生されない(笑)。

――意外ですね(笑)。ニコニコチャンネル『いとうせいこう・勝俣州和のフクろとじ』もネットを利用した企画ですが、やはりテレビとは得られることが違いますか。

勝俣:テレビで会ったことがない人たちと深く話せるのがうれしいですね。くりぃむしちゅーの上田(晋也)くんとか、バカリズムくんとか。氣志團の綾小路(翔)くんなんて、会ってからイメージがガラッと変わりましたし。だから思うのは、人ってやっぱり会ってみないとわからない。この企画の影響で、会いに行きたい人には会っておこうという気持ちが大きくなりましたね。「会えない」じゃなくて、「会わないといけない」。映像にならなくてもいいから1年や2年かけて会いに行こうかなと。

人との出会いで明るく楽しい人生に

――会いたいと思うのはどんな人が多いのですか?

勝俣:人のために頭を悩ませている人が好きですね。朝早くから冷たい水に手を入れてお豆腐を作っているおばあちゃんとか、人の笑顔のために自分の人生を使っているような人。番組で出会った人たちにも、またこちらから出向いていろいろ話したいです。

――今、「会わないといけない」と感じる理由は何でしょうか。

勝俣:欽ちゃんが80歳でYouTubeを始めたんですよ。ひとりでライブをするっていうので観に行ったら、後半で無理矢理駆り出されて。3〜4年ぶりだったんだけど、一緒に絡んだらお客さんがすごくウケてくれた。それが僕もうれしくて、やっぱり人に会うと何かあるんだなと。

 どうして自分の人生にいい出会いが多かったのか考えてみると、やっぱり会いたい人に会いに行っていたんですよね。いい出会いが重なったことが、この本を出すきっかけにもなっている。だからやっぱり、家で本を読むのもいいけど、生身の人間に会わないと。そうすることで、また新しく素敵な言葉に出会えたら、と思います。

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