公共図書館が、子どもの読書・学習支援についてできること――『児童サービス論』著者・金沢みどり教授インタビュー

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更新日:2022/5/2

〈第3版〉児童サービス論
〈第3版〉児童サービス論』(金沢みどり/学文社)

 毎日新聞社と全国学校図書館協議会が毎年実施している学校読書調査によると、小中学生の不読率(1冊も本を読まない人の割合)や平均読書冊数は、1990年代まで悪化してきたが、2000年代以降はV字回復を遂げ、近年では過去最高レベルの読書量となっている。小中学生に関しては「子どもの本離れ」は解消されたと言っていいだろう。

 さらなる読書量改善、および読書推進運動の積年の課題である高校生の読書量増加に向けての公共図書館の役割について、『〈第3版〉児童サービス論』(学文社)の著者のひとりである、東洋英和女学院大学人間科学部の金沢みどり教授に訊いた。

(取材・文=飯田一史)


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公共図書館が果たす学習支援の役割は大きくなってきている

――21世紀に入ってからの子どもの読書環境改善には、90年代末からの朝の読書実施校の増加、2000年の子ども読書年、国立国会図書館国際子ども図書館開館、2001年のブックスタート開始、子どもの読書活動の推進に関する法律制定とそれに伴う2002年からの各自治体による子どもの読書活動の推進に関する計画策定、等々ありますが、公共図書館から見てどんな変化を感じますか。

金沢:文部科学省の調査結果では子どもの読書推進計画はすべての都道府県で策定済み、市区町村では2004年には7%でしたが、2018年では80%に達しています。策定にあたっては公共図書館の児童サービス、YA(ヤングアダルト、12~18歳)サービス、学校図書館との関わりに言及することになりますので、策定済みの自治体では読書推進の重要性が十分に認識されるようになってきたと思います。

 また利用者について言えば、日本図書館協会の調査によると児童書の貸出合計冊数は1980年度以降、増加傾向にあります。

――司書教諭と学校司書の配置を促す1997年と2014年の二度の学校図書館法改正や、図書館の活用が必要となる探究学習重視を打ち出した学習指導要領改訂は、学校図書館の利用促進に大きな役割を果たし、読書量増加にも寄与したと考えられます。そのことは、公共図書館への影響はありますか。

金沢:2020年の文科省調査では司書教諭、学校司書が両方いる学校は5割、いずれかで4割と配置が進んだことで、公共図書館の児童サービスとの連携は強まっています。たとえば公共図書館から学校図書館へ蔵書を貸し出すという相互貸借ですね。

 また、学習指導要領改訂で謳われている探究的な学習を校内だけで完結することは難しいため、公共図書館の資料や情報の活用も必要になります。したがって近年では公共図書館のウェブサイトに児童やヤングアダルトのページに加えて、学校支援のページを備えるケースが増えています。

 たとえば東京都立図書館の学校支援サービスのウェブページを見ますと、図書館や資料を活用した校外学習の受け入れをしています。このプログラムでは都立図書館の司書が児童・生徒に対して図書館の活用法、データベースの使い方を説明しています。

 くわえて、非来館者向けサービスとしては中高生がレポートや論文を書く際に参考になる資料の公開や、学校司書向けに学校図書館の選書に参考になるブックリストを公開するなどしています。

 ほかにも、公共図書館司書が学校を訪問して、公共図書館の本を使って読み聞かせやブックトークを行うこともあります。読書の動機付けとしてあるテーマに関連するフィクション、ノンフィクションを紹介します。

長期休み期間中の読書習慣継続のためにさらなる連携が必要

――探究学習重視によって学校図書館は従来読みもの(物語)中心だったのが調べ学習に使える資料などの比率が増えたと言われていますが、公共図書館の選書へも影響はありますか。

金沢:公共図書館でも学校教育を意識しながらフィクション、ノンフィクション、参考図書の充実を図って望ましい本を備えるようにしていると思います。

――今後の学校図書館と公共図書館との連携の課題は?

金沢:さらに人的交流を深め、コラボレーション(協働による連携)していくことです。具体的に言えば、たとえば夏休み期間中は学校図書館の開館日数が限られていますから、公共図書館で本を読む機会を増やすことを目的として公共図書館と学校図書館が連携する夏期読書プログラム(サマー・リーディング・プログラム)の実施が考えられます。まずスローガンとそれにふさわしいブックリストを学校司書と公共図書館の司書とが共同で作成し、夏休みが始まる前に公共図書館の司書が学校を訪問して参加を呼びかけます。

 一方、学校司書は夏休み期間中に公共図書館で実施されるおはなし会などに参加して、児童・生徒や公共図書館の司書と交流。ほかにも子ども同士で読んだ本についての意見交換をしたり、指定の作品を最後まで読んだらパーティをやったり……というものです。

――ふだんは朝読があっても、長期休みのあいだはないですものね。

金沢:夏休み中に本を一冊も読まないと読書力が落ちますから、こうした連携によって読書習慣の中断を回避し、9月につなげるわけですね。アメリカではすでにこうした取り組みがさかんに行われ、成果が報告されています。

高校生の読書を増やすには?

――小中学生と比べると高校生の不読率や平均読書冊数は横ばい、あるいは、やや改善程度ですが、公共図書館として読書量を増やすために取り組めることは何かありますか。

金沢:5つあります。第一に、YAスペースを設ける。児童スペースは現時点で日本の公共図書館のほぼ100%に備えられていますが、一方でYAが読書や調べもの、共同で活動するスペースは最新の2014年の調査結果でも都道府県立図書館の17.6%、市区町村立図書館の26.3%にあるにすぎません。YAが使いやすく、過ごしやすい場所を設けることが重要です。

 第二に、YA向けの資料を幅広く収集し、提供する。中高生になると、本が好きで、大人も読むような本を好む人もいれば、文字・活字が好きではない、読みたくないという人もおり、読書力や意欲に大きな格差が生じてきます。後者の人も関心を持てるように、いわゆる軽読書の範疇に含まれるものや、紙の本に限らずスマホで読める電子書籍などのデジタルコンテンツの提供も重要です。まず親しんでもらい、本を好きになってもらえる環境の整備が必要になります。

 第三に、集会活動へ当事者世代に積極的に関わってもらう。YAの社会性を養うという意味でも集会活動は意義があります。ただし大人が発想するものと、自らやりたい・参加したいと思うものはイコールではありませんので、YA自身に企画段階から入ってもらう。読書は「ひとりで読む」ものにとどまらず、集団で行うものもあります。最近では日本各地でビブリオバトルがさかんですよね。ひとりで読むよりもいろいろな人の意見を聞くことで読みが深まるようなイベントをYAに提案してもらい、本について語り合う場を作るといいと思います。

 第四に学校司書との連携を図り、学校支援サービスを充実させる。これは先ほど述べたようなことですね。YAに日常的に接している学校司書と意見交換をして、教育を支援する。

 第五に、YA向けのウェブページを公共図書館ウェブサイトに備え、YAの意見も参考にコンテンツの充実を図る。集会活動に参加したYAの体験記や本好きのYAに書評を書いてもらったり、図書館ボランティアの募集をしたりと、コンテンツを充実させて相互にコミュニケーションを図ることがYAサービスの活性化につながると思います。

――公共図書館が出版社に望むことはなんでしょうか。

金沢:児童サービスと児童書出版社がWIN-WINとなるような良質な本を発行し、紙だけでなく電子書籍化も図っていただきたい。それによって特別な支援を必要とするお子さんにも本が身近なものになります。また、長距離移動時には電子、腰をすえて読みたいときは紙と、状況に応じて使い分けもできるようになります。

 児童書と比べるとYA向けの図書はまだまだ充実していない印象を受けます。常日頃その年代の子どもと接している公共図書館のYAサービス担当者や学校司書は実際にどんな本が求められているのか、成長に必要な本はどんなものかなどに精通しております。ぜひそのような方々の意見に耳を傾けていただき、出版につなげてもらえればと思っています。

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