今「4回泣ける」小説が話題!過去に戻れる喫茶店に訪れた女性4人の「変化」の物語

文芸・カルチャー

2016/6/8


『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和/サンマーク出版)

とある街の、とある喫茶店には「過去に戻れる」という一つの座席がある。そのウワサを聞きつけた「後悔を抱える」人々は、半信半疑ながら、今日もその喫茶店を訪れる。
累計発行部数20万部を越えた今話題の「4回泣ける」小説『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和/サンマーク出版)。そこで起こる奇跡の物語に、全国の人が涙している。

物語のあらすじを簡単にご紹介しよう。

第1話『恋人』は、結婚を考えていた彼氏と別れてしまったキャリアウーマンのお話。過去を変えることができなくとも、プライドが邪魔をして告げることのできなかった素直な気持ちを、海外へと行ってしまう彼に伝えておきたいと、過去に戻ることを決意する。

第2話『夫婦』は若年性アルツハイマー型認知症を患う夫を持つ、看護師の女性のお話。夫が過去に戻りたがっていた理由が「妻に渡しそびれた手紙を渡すため」だと知った彼女。記憶を失くしてしまった夫に代わり、過去に戻り、その手紙を受け取ろうとする。

第3話『姉妹』は、家業の旅館を継ぐことを嫌い、家を出た姉と、姉の代わりに若女将をしている妹のお話。妹は姉が旅館に戻ってくることを願い、足しげく姉が常連の喫茶店に訪れていたが、いつもぞんざいに追い返されてしまっていた。ある時、その帰り道で妹が事故に遭い……。

第4話『親子』は、喫茶店のマスターとその妻のお話。妻は出産を控えていたが、彼女は生まれつき身体が弱く、出産に耐えられないと医師から告げられていた。子供を産めば命を落とすという状況の中、妻は命のある内に「未来」へ行くことを願う。大きくなった自分の子供に、伝えたいことがあった。

以上が、タイムトラベルをすることで、「奇跡」を起こす4つの物語の概要だ。

「時間を移動できる」、いわばタイムトラベルものの小説は多く存在する。個人的に、そういったギミックのある小説はあまり好きじゃないと思っていた。使い古された趣向だし、誰しも変えたい過去があり、その過去を通して人々の後悔や感情を描くことは、「簡単に読者に感動を与えられる」お手軽な装置のように感じていた。

しかし、本書は違った印象を受けた。なぜなら「過去に戻っても、現実は一切変えられない」という制約があるからだ。この物語の「時間移動」で、現在を変えることは絶対にできない。例えば亡くなった人を助けるために過去に行き、相手にその事実を伝えても、死んでしまう運命は回避できないのだ。

その他にも、過去に戻るために必要な決まりが多くある。過去に戻っても、この喫茶店に訪れたことのある人にしか会えないし、所定の座席を立って移動することもできない。さらに、戻れる時間はコーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ。これ以外にも「非常にめんどくさい」ルールがいくつも存在する。

これでは、過去に戻ってもできることは限られているし、そもそも「現実が変えられない」のなら、戻る意味はないのでは? 思ってしまう。

だが本書は、それでも「時間を移動したい」と願う女性が集まり、奇跡を起こしてしまうのだ。過去に戻れることが奇跡なのではない。現実は変えられなくても、後悔の時間に立ち戻ることで起こせる、とある「変化」が奇跡なのだ。

「過去を変化させる」ことで感動をもたらすのではなく、「過去は変えられないけれど、変えられるものが一つある」というテーマの元に描かれる本作は、他のタイムトラベルものとは違う感銘を与えてくれる。それが本書の一番の魅力であり、普段は文芸書を読まない読者をはじめ、多くの人に支持されている要因だと思う。

さて、その「変化」は実際に読んで頂き、ハッと胸を突かれてほしいので、ここでは言及せずにおきたい。

本書はコーヒーでも飲みながら読むのはいかがだろうか。冷めてしまっても構わない。ゆっくりと作品の世界観にひたってほしい。

文=雨野裾