いま注目の女性作家対談! 芥川賞作家・村田沙耶香דSF不倫”で話題『あげくの果てのカノン』マンガ家・米代恭/「嫌な人間を書くのが好き」村田発言に米代も共感!? 【前編】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

 先日、下北沢「B&B」で、注目の女性作家ふたりを招いた対談イベントが開催された。登壇したのは、SFと不倫を掛けあわせた異色のラブストーリー『あげくの果てのカノン』(小学館)の作者・米代恭さんと、『コンビニ人間』(文藝春秋)で第155回芥川賞を受賞した村田沙耶香さん。果たしてふたりはどんなトークを繰り広げたのか。前編では、『カノン』が持つ魅力、そして人間のグロテスクさに言及したワンシーンをお届け!

 

村田沙耶香さん(右)と米代恭さん。

 

SF×不倫という物語は、どうして生まれたのか

村田沙耶香さん(以下、村田):米代さんとは、元々演劇を一緒に観に行くような仲で、『あげくの果てのカノン』の連載が決まってから第1話を読んだ時に、天才だ!と思ったんです。今まで読んできたマンガの中でも『こんなかわいい子いるかな?』って思うくらい、かのんちゃんが好きだし、先が気になる作品。帯を書かせていただくことになって1巻分のゲラを読んだんだけど、世界観もすごくて、とにかく先が気になる内容でしたね。

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米代恭さん(以下、米代):最初、編集さんに「不倫モノを書いてください」って言われたんです。それに加えて「SFも面白いんじゃない?」って。でも私は、SFも不倫も、そもそも恋愛モノも得意ではないんですよね。だから、苦手なジャンルの中で自分に描けるものはなんだろうと掘り下げていった結果、恋愛のし始めによくある『幻想を見ている状態』を描こうと思ったんです。

村田:哲学的な問いかけもあって、素晴らしかったです。特に、体の一部が欠損しても“修繕”という方法で治して、再度闘いに駆り出される先輩を見ていると、倫理観みたいなものをつきつけられている気がして。だけど、そんなすごいことが起きているのに、かのんちゃんは世界のグロテスクさよりも、先輩を想う気持ちに振り回されているのが、ある意味すごくピュアだなって思います。

作品を通じてあらためて実感した、世界のグロテスクさ

村田:第4話が好きで、泣いたんです。あんなに大好きな先輩がいるかのんちゃんのことを馬鹿にしたり、他の男子に対して「この子どう?」って勧めてみたりする友達の姿を見て、そういう世界の残酷さの方がずっとグロテスクだなって。そう考えると、かのんちゃんは絶対的に正しいんだって思ったんです。

米代:あのエピソードは半分くらい実話で(笑)、描いていてすごく苦しかったんです。でも、自分では普通だと思っていることを、周囲から笑われてしまうのってよくありますよね。実は私も『コンビニ人間』を読んで、似たようなことを思ったんです。あの作品の主人公も、最後には間違っているかもしれないけれど、「これが私の世界だ」っていう選択をする。それって素晴らしいことですよね。だけど、そもそも村田さんって、人間のどこを面白いと思って小説を書かれているんですか?

村田:私はすごく嫌な人間を書くのが好きなんです。人間の醜い感情を書いていると、どんどん好きになっていく。グロテスクであればあるほど、愛おしくなるんです。

米代:それ、すごくわかります。私も、人と接した時にイライラしたことを掘り下げていくのが好きなんです。そこで、その人の意図したことがわかってくると、途端に愛おしくなる。ずっと考えていると、わかる瞬間があるんですよね。

 それを受けて村田さんは、「この話に共感してくれた人、初めて!」と大喜びし、会場からは笑いがこぼれた。人間の在り方をあらゆる角度で切り取る作家ふたりには、どうやら共通項があったようだ。ここでいったん休憩を挟み、トークイベントは後半戦へと移っていった。

後編はコチラ→//ddnavi.com/news/318043/

本屋B&B(下北沢)http://bookandbeer.com/

構成・写真=五十嵐 大