『進撃の巨人』ロケ地の世界遺産「軍艦島」と 九州最後の炭鉱「池島」をめぐる 軍艦島周遊&池島散策ワンデイツアーレポ(前半・上陸編)

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更新日:2018/1/29

2017年秋、長崎県で『軍艦島周遊&池島散策ワンデイツアー』が開催されました。その異形で人気のある軍艦島を周遊し、長崎海底炭鉱の拠点島である池島を歩く、日帰りツアーです。ナビゲイターは、2017年に『池島全景 離島の《異空間》』(三才ブックス)を出された、黒沢永紀さん。

軍艦島は、1974年に閉山されて以降はすべての住民たちが島を離れて無人島となりました。島内には巨大な建物が多く残されおり、まるで島ごとアート作品のような壮大な風景を作り出しています。2014年に映画『進撃の巨人』のロケ地にもなっており、2015年には世界遺産登録もされた、年間15万人もの観光客が訪れる話題の観光スポットです。

一方、池島は観光地としてはちょっとマイナー。年間の観光客も7000人と多くはないのですが、実は「ブラタモリ」(NHK)でも紹介された、「知る人ぞ知る」“隠れ名スポット”なのです。

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池島はかつての長崎の海底炭鉱の拠点島であり、現在も貴重な炭鉱施設が残されています。軍艦島ではすでに廃墟、もしくは跡形もなくなってしまった炭鉱施設の全貌が、池島でならこの目で見ることができるのです。かといって、池島だけでは炭鉱黄金期の歴史を知ることはできず、やはり軍艦島の歴史を学ぶことも必要になります。つまり、今回のツアーは「軍艦島補完計画」。軍艦島・池島の“両島”を巡ることで、日本の150年を炭鉱を通して知ろう!という主旨なのです。

9:00、長崎電気軌道「大浦天主堂下」を降りて徒歩1分の「軍艦島ミュージアム」に集合。このミュージアムには軍艦島の貴重な資料と、デジタル機器を使って再現した閉山前の軍艦島の様子が展示されています。4階の集会スペースで黒沢さんと「軍艦島コンシェルジュ」の方々から、ツアー概要の説明を受講します。

この日の参加者は約30名で、関東や東北からから訪れた人もいらっしゃるのだとか。説明のあとは出航までの30分間、軍艦島ミュージアム内を見学できます。
こちら、2Fで常時上映されている、大型の壁面マッピング「軍艦島シンフォニー」。

明治・大正・昭和と、軍艦島の3つの時代の貴重な写真や映像をコラージュで再現しています。やっぱりこのサイズだととてもリアル!「当時の軍艦島はこんな感じだったのか!」と感動に浸れる展示です。そして、解説をされているミュージアムの職員・木下稔さんは、なんと軍艦島ご出身! まさに歴史の生き証人ですね。
館内はほかにも、トロッコ(人車)に乗って炭鉱の坑内をリアルに体験できる映像「採炭現場への道」や、当時の住居の一室を再現した「軍艦島のアパートの暮らし」など、興味深い展示が多数あります。

「まだまだ見たりない!」と思っていたのですが、残念ながら港に向けて出発する時間がきてしまいました。でも、スタッフさんから「ツアーのあとにも再入館していただけますよ」と声をかけていただき、一安心です。というわけで、長崎港の常盤桟橋へ向かいます。いよいよ乗船!

船内では、軍艦島コンシェルジュの森山理保子さんによる大モニターを使った軍艦島と池島の解説が始まります。森山さんの後ろに表示された可愛い女性は・・・・・・。

なんと、お若いときの森山さんin80年代の池島! そう、森山さんは、池島の元島民だったのですね。昭和56年(1981年)から平成2年(1990年)までお住いで、ここで3人のお子さんを育て、石炭を掘っていた採炭現場にも入ったことがあるのだとか。これは貴重な証言が聞けそうです。
10:00、いよいよ出航です。海に出て一番最初に見るのは、「ジャイアントカンチレバークレーン」という重機。1909年、明治42年製のもので、電動で動くタイプのクレーンとしては日本一古いものだそう。

レトロな姿ですが、世界に11台残っているうちの、唯一の現役なのだとか。そのほか、三菱重工長崎造船所本工場をはじめ、第三船渠や占勝閣(船から見えるのは尖塔です)、そして戦艦武蔵を製造したバースNo.2など、世界遺産を含んだ貴重な施設の数々を船から見学します。「今の時代は長年の歴史の積み重ねの上にあるんだな」としみじみしてきますね。
そして、女神大橋を渡ったあたりでガイドを黒沢さんにタッチ。

池島の前に周遊する軍艦島について、ここで説明を受けます。19世紀初頭から石炭の採掘が始まり、閉山の昭和49年(1974年)までさまざまな戦争をくぐり抜けてきた軍艦島・・・・・・というところから全部話すとツアー中に終らない、ということで、軍艦島の特徴をかいつまんで説明。
軍艦島の面積=ほぼ新宿駅構内で、そんな小さな敷地に最盛期は5000人以上の人が住んでおり、最盛期の人口密度は世界記録を保持しているそうです。大正5年(1916年)に建てられた日本最古のRC建築があるとか、大正時代から日照問題を意識した建物が作られていたとか、日本最初の屋上菜園も、日本最初の離島への海底水道も軍艦島だぞ! とか、三種の神器(テレビ・冷蔵庫・洗濯機)の普及率100%達成は国内最速とか、とにかく驚きエピソードには事欠きません。まさに20世紀の日本を丸ごと体現したような島ですね。

しばらくすると、いよいよ船から軍艦島が見えてきます。皆さん一斉にカメラ片手に2階のデッキに移動。

おおー! 手の届きそうな距離に迫力の風景が!
10:30頃、軍艦島の目の前までやってきました。今回のツアーでは上陸はせず、森山さんの解説を聞きながらぐるりと島の周りを一周します。実は軍艦島で世界遺産となっているのはこの迫力のある建物ではなく、明治時代に造られたレンガの壁や石積みの護岸だということです。でも、やっぱり建物も魅力的! ここぞとばかりに撮りまくりました。
10:45ごろ、名残惜しい気持ちで軍艦島を見送りつつ、いよいよ池島へ。池島は、松島炭鉱株式会社(現三井松島産業株式会社)が経営する炭鉱のために開発された炭鉱島でした。長崎県の中部、西彼杵(にしそのぎ)半島の沖合を西に約7kmほどのところに位置し、面積は軍艦島の約10倍です。これは、ディズニーランドとディズニーシーを足したくらい、というともっとわかりやすいかもしれませんね。人口は最盛期で軍艦島より3000人多い8000弱。島の炭鉱が閉山したのは、2001年、九州最後の炭鉱でした。
閉山後まもなく無人島となった軍艦島とは違い、池島にはそのまま島民たちが残りました。とはいえ、島の経済を支えていた炭鉱が閉鎖されたことで人口は激減し、現在は100人あまり。その後、海外の炭鉱技術者の研修センターとして稼働したこともあって、多くの炭鉱関連施設が残されました。その結果、まるでテーマパークのようにフォトジェニックな昭和の風景が出現したのです。
11:30、池島港につきました! 最初に見えるのは、斜面に立ち並ぶ選炭工場。

このような施設は、軍艦島はすでに崩壊してしまって見学することはできませんが、池島には、選炭工場から炭鉱のシンボルである立坑櫓まで完全な形で残っています。こちらのクレーンのようなものは、ジブローダーという機械。

※写真提供:黒沢永紀さん

石炭を集積してコンベアに乗せるためのものです。恐竜のような、迫力ある姿に圧倒されます。

港の近くに林立する公営住宅

発電所用の重油タンク

国内初の海水淡水化装置を併設していた自家発電所跡

島内では、黒沢さん、森山さんに案内されながら、重要な建物を見学します。
「水道水はタダでした。家賃は400円くらい。ガスはプロパンを買うんですが、お給料が今の金額で70万円くらいでした。生活はラクでしたね~」(森山さん)。80年代前半でざっくり今の1/2だとすると、月収35万円に対して家賃400円・・・・・・うらやましすぎる世界ですね。それだけ当時は儲かる仕事=石炭の価値が高かったということがわかります。

こちらは、小学校と中学校のグラウンド。

現在は小学生2人だけになってしまったのだそう。

ツタに覆われた21号棟。おとぎ話の風景のようですね。そして、その先にあるのが、

池島で一番高い建物、8階建てのアパート群、25、27、29、31の4棟です。昭和38年(1963年)ごろに建てられた古い建物なのですが、攻めてるデザインが未来的で不思議な気持ちになりますね。炭鉱マンの部屋にはお風呂がなく、27号棟の1階に大浴場があったそうです。しかも、8階なのにエレベーターがなかったのですが、5階に渡り廊下をつけて、裏側から出入りできるようにしていたのだとか。昔の建物とは思えない、洗練された雰囲気に驚かされます。
そうこうしているうちに、お腹が空いてきました。というわけで、マイクロバスに乗って、ランチにお出かけ。
11:50、島で唯一の食堂、「かあちゃんの店」に到着です。

かつては市場の賑わいだった長崎市設池島総合食料品センター

かつての様子を説明する黒沢さん

かあちゃんの店へ向う参加者

「長崎市設池島総合食料品小売センター」内にあるのですが、実は観光客が多い休日は、基本お休みだそう。どうしても休日に行きたいときは、事前に連絡(電話0959-26-1123)して確認をとってみると、開けてくれる場合もあるそうです。

お母さんが一人できりもりしているのですが、メニューは豊富! カレーライス、親子丼、野菜炒めなど一般的なものから、トルコライス、皿うどんなど長崎の名物も。今回のツアーでは、ちゃんぽんが用意されていました。

ではさっそく、いただきます!

これはおいしい! 魚介の味が溶け込んだコクのあるスープと、太めの麺がしっかり絡んでいます。ちゃんぽんとしてもクオリティ高いですが、池島に来ないと食べられない!と思うと、もっとおいしく思えてきます。

さ、腹ごしらえもしたところで、続いては展望台や実際にお住いの方の住居へ。そしていよいよ坑内トロッコツアーに出発します! 後半に続く!

【後編はこちら!】『進撃の巨人』ロケ地の世界遺産「軍艦島」と 九州最後の炭鉱「池島」をめぐる 軍艦島周遊&池島散策ワンデイツアーレポ(後半・坑内編)

取材・文・写真=長谷川京子

●軍艦島デジタルミュージアム

http://gdm.nagasaki.jp/

住所:長崎市松が枝町5-6
電話:095-895-5000
営業時間:9:00 ~ 18:00(最終入館17:30)
定休日:不定休

●かあちゃんの店
住所:長崎県長崎市池島町1597
電話:0959-26-1123
営業時間:7:30~18:00
定休日:祝祭日、不定休

●軍艦島コンシェルジュ

http://www.gunkanjima-concierge.com/

電話:095-895-9300
・ツアーは2018年3月より定期催行予定。
 3月は21日、22日、23日。以降はお問い合わせください

<参考>
 「池島全景 離島の《異空間》」「軍艦島全景」(ともに黒沢永紀著、三才ブックス刊)